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人類は衰退しました 7

田中ロミオ (小学館 GAGAGA文庫)

傑作(30点)
2015年1月16日
ひっちぃ

人類の文明が衰退し、技術が失われていき、人口が激減した中で人々が細々と暮らしている空想未来の世界。文明の衰退と引き換えに表に出てきた「妖精さん」という超文明的な力を持った謎の存在との対話をするのが仕事の女の子が、今回は衰退にあらがって里の人々から学校の教師を頼まれ、三人の問題児を抱えて右往左往する。ほか一本。ライトノベル。

気が向いた時に手に取って読んできたシリーズなのだけど、いつのまにか完結していたのでまとめて読んだ。感想はせっかくなので一冊ずつ書くことにする。

この巻は二本の中編から構成されている。最初が教師役となって問題児と問題親に振り回される話。昨今の世相を切るだけでなくしっかり笑わせてもらった。今の日本の教師がいかにがんじがらめに縛られているのか、モンスターペアレンツ(異常な親)の無茶な要求やPTAの神経質すぎる決まり事なんかが出てきて、主人公の女の子が半ばやけっぱちに対応するのが面白い。

三人の子供たちのせいで学級崩壊状態なのだけど、ある事実に気付いてから解決編になる。まあでも推理とか展開はそんなに面白くなかった。最後は結局妖精がらみの話になっちゃうし。作者がシリーズを畳みにきているのが、あとで振り返ってみて分かった。

もう一本は、いきなり記憶喪失になるところから話が始まる。故郷のくすのきの里が壊滅していて、謎の人物からトランシーバーで連絡が入り、出頭して投降するように言われるのでいったん逃げつつ、里の仲間たちの安否を確かめるために里の跡を調べようとする。ところが…。ネタバレ厳禁の話なのでここまでしか紹介できない。

まあ結局は自業自得な話だったんだけど、教養小説(ビルドゥングスロマンじゃなくて)としてのこの話のテーマは精神分析学になっている。人間っていうのは動物と違って本能をすぐに満たせないからこそ知性を持つに至ったのだという、私の尊敬するフロイト派の精神分析学者の岸田秀が唱えている理論みたいなのが紹介されていて、それがなかなか興味深い形で思考実験されている。これは軽く衝撃的だった。どうやって実践するのか具体的なことは分からないのだけど、いかにもそれっぽい。

一応簡単に説明しておくと、たとえば食欲なんかだと、視界の中に食べられそうなものがあって見つけてすぐに食べてしまえばそれは単なる反射に過ぎない。しかし、食べられそうなものがそばにあるのに障害物があって食べられないとすると、「食べたいのに食べられない」という意味づけをすることが出来る。これを分解すると「食べたい」という意志になる。

それだったら人間だけじゃなくて動物もそうなんじゃないかと言えそうだけど、さてどうだろう。生き物の本能の中でもっとも重要な生殖欲が、人間の場合は満たすのが著しく困難な状況で育たざるをえないので、それをむりやりこじつけようとすることで高度な知性を持つにいたったのだと岸田秀は言っている。さてこの理論は実証できるのだろうか。

とまあ話を広げてしまったけれど、話としてはそれほど面白くは感じられなかった。SF的な要素が強いので、そのへんを楽しめるかどうかで違ってくると思う。たとえば、出てきた妖精さんの正体はなんだったのか?など、これまでの話を振り返って確認してニヤリとできるかどうか。このシリーズはいくつかの点で人に勧めにくい。

主人公の旧友Yの声が脳内で沢城みゆきで再生される。あとがきでアニメ化の話に触れている。アニメ見てからだいぶ経ってる気がするけど、そんなでもないのか。主人公の声も良かったなあ。誰だか忘れたけど。また見たくなってきた。

(最終更新日: 2015年1月18日 by ひっちぃ)

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