フィクション活字
ミステリー
掟上今日子の備忘録
西尾維新 (講談社 講談社BOX)
傑作(30点)
2015年5月10日
眠りに落ちるとその日の記憶を失ってしまう「忘却探偵」掟上今日子の活躍を描いたシリーズ一作目。若くて美しいのに髪の毛が真っ白で、清楚なようで金にがめつく、体が弱そうなのに奔放な、そんなちぐはぐな今日子さんが主に作家の謎かけに挑む連作短編。ミステリー小説。
好きな作家の西尾維新の最新シリーズということなので読んでみた。
この巻では何かと人に疑われる大柄の男・隠館厄介が一人称をとっていて、こいつが巻き込まれた事件に今日子さんを呼ぶことで始まる。研究所の雑用係として雇われた彼が情報漏えいの疑いを掛けられるので、その疑いを晴らそうとする。最初の作品では今日子さんの紹介ということもあってか、いったん眠ってしまうと記憶を失ってしまう今日子さんの弱点と、それをカバーする素晴らしい頭脳、それに度胸が描かれる。かわいくてかっこいい。
次の話は厄介が日ごろ世話になっている編集者の紺藤の依頼で、担当作家が冷蔵庫に隠していた百万円を盗まれ、その犯人から返してほしくば一億よこせという不可解な要求を突きつけられる問題に対処する。その担当作家がまだ若い女性で、編集者の紺藤とはまるで父娘のような関係であるというところにニヤニヤする。
その次が流行作家の須永昼兵衛のお遊びで、彼が自分の屋敷に隠した書き下ろし原稿を編集者に探させるゲームに付き合う話。金にがめつい今日子さんがこんなお遊びに付き合うのは、彼女が先生の大ファンだからで、彼女のことが好きな厄介に対する紺藤からの粋な計らいでもあった。はしゃぐ今日子さんがかわいい。
最後が須永昼兵衛の謎に迫る話。この大作家の真相を探るため、これまでの作品をすべて読むと言い出す今日子さん。百冊ぐらいあるのに一日で読み終わるはずがない。じゃあどうするんだというと、眠りさえしなければいいので連日連夜徹夜しようとするのだった。無理を続けようとする今日子さんかわいい。
今日子さんかわいい。
ミステリーというか推理小説に詳しくないのでよく分からないのだけど、もうこの分野は大抵のものは描かれつくされてしまい、名探偵がどんな謎を解いてもふーんとしか思われないらしい。そこでかどうか知らないけれど、ハンディキャップをつけることで際立たせようというのがこの掟上今日子シリーズの狙いなんじゃないだろうか。眠ってしまうと記憶を失うのに、優れた推理力でそれまでになにがあったのか推察してしまう。なんというマッチポンプ…。自分で問題を難しくしてしまいそれを解いて披露するとは。そんな言ってみれば自作自演的な謎解きが加わるので余計面白い。
今日子さんがエキセントリック(変わり者)なのがいい。みんなが意味もなく習慣でやっているようなことを省いてしまう。人にあまり気を使わなかったり、自分がどう思われているのかあまり気にしていなかったり、普通の人が躊躇してやらないようなことを大胆にもやってしまったりする。
忘れたくないことを自分の腕や腹なんかにマジックで書いておくのがかわいい。昔、小中学生ぐらいの頃、女の子が自分の手にペンで明日のことなんかを書いていたのを見てちょっとドキドキしたのを思い出した。これって自分でやる羞恥プレイみたいなもんなんじゃないだろうか。だって、自分が物忘れするアホな子ですって周りに対して言っているようなものなのだから。ちなみに男もやってたけどそれについては単にアホだなあとしか思えなかった。
とまあ賞賛ばっかりになってしまったのだけど、気になることが二つあった。一つ目は大したことがないので軽く流すと、事件の謎自体がそれほど面白くなった。そしてもう一つこれが一番重要なのだけど、今日子さんのデレがなんかいまいちに思えた。途中まで読み進めていたときは、今日子さんって隙がなくてガードが堅いのだけど、デレるとすごく魅力的なんだろうなあ、この巻の中でデレてくれるのかなあ、と期待していた。その期待は叶ったのだけど、なにか十分に満足できなかった。
普段の今日子さんは決してデレるようなキャラじゃないはずだと思う。それがデレたというのは、今日子さんの過去についての謎に関係しているんじゃないかと思うのだけど、それについてのほのめかしがまったくないので、なぜデレたのかいまいち納得できない。いままでそっけなかった相手が急になびいてきたとき、普通の人だったら理由が分からないと素直に喜べないと思う。自分は読んでいてそんな思いを今日子さんに対して感じた。一応今日子さんの謎と不安みたいなものが描かれていて、その不安を包み込むようなことを語り手の厄介がしたのかもしれないけれど、弱いと思った。
作者が次の巻のあとがきで今日子さんのキャラクターをどんどん描いていくと言っているのだけど、一見不可解な彼女の行動や嗜好の数々が、あとで徐々に彼女の過去が明かされていくに従って合点がいくという流れになったらさぞ気持ちいいだろうなあと思った。
正直、ミステリー好きの知人に勧めるには弱いと思ったけれど、西尾維新のファンなら安心して楽しめる作品だと思う。
好きな作家の西尾維新の最新シリーズということなので読んでみた。
この巻では何かと人に疑われる大柄の男・隠館厄介が一人称をとっていて、こいつが巻き込まれた事件に今日子さんを呼ぶことで始まる。研究所の雑用係として雇われた彼が情報漏えいの疑いを掛けられるので、その疑いを晴らそうとする。最初の作品では今日子さんの紹介ということもあってか、いったん眠ってしまうと記憶を失ってしまう今日子さんの弱点と、それをカバーする素晴らしい頭脳、それに度胸が描かれる。かわいくてかっこいい。
次の話は厄介が日ごろ世話になっている編集者の紺藤の依頼で、担当作家が冷蔵庫に隠していた百万円を盗まれ、その犯人から返してほしくば一億よこせという不可解な要求を突きつけられる問題に対処する。その担当作家がまだ若い女性で、編集者の紺藤とはまるで父娘のような関係であるというところにニヤニヤする。
その次が流行作家の須永昼兵衛のお遊びで、彼が自分の屋敷に隠した書き下ろし原稿を編集者に探させるゲームに付き合う話。金にがめつい今日子さんがこんなお遊びに付き合うのは、彼女が先生の大ファンだからで、彼女のことが好きな厄介に対する紺藤からの粋な計らいでもあった。はしゃぐ今日子さんがかわいい。
最後が須永昼兵衛の謎に迫る話。この大作家の真相を探るため、これまでの作品をすべて読むと言い出す今日子さん。百冊ぐらいあるのに一日で読み終わるはずがない。じゃあどうするんだというと、眠りさえしなければいいので連日連夜徹夜しようとするのだった。無理を続けようとする今日子さんかわいい。
今日子さんかわいい。
ミステリーというか推理小説に詳しくないのでよく分からないのだけど、もうこの分野は大抵のものは描かれつくされてしまい、名探偵がどんな謎を解いてもふーんとしか思われないらしい。そこでかどうか知らないけれど、ハンディキャップをつけることで際立たせようというのがこの掟上今日子シリーズの狙いなんじゃないだろうか。眠ってしまうと記憶を失うのに、優れた推理力でそれまでになにがあったのか推察してしまう。なんというマッチポンプ…。自分で問題を難しくしてしまいそれを解いて披露するとは。そんな言ってみれば自作自演的な謎解きが加わるので余計面白い。
今日子さんがエキセントリック(変わり者)なのがいい。みんなが意味もなく習慣でやっているようなことを省いてしまう。人にあまり気を使わなかったり、自分がどう思われているのかあまり気にしていなかったり、普通の人が躊躇してやらないようなことを大胆にもやってしまったりする。
忘れたくないことを自分の腕や腹なんかにマジックで書いておくのがかわいい。昔、小中学生ぐらいの頃、女の子が自分の手にペンで明日のことなんかを書いていたのを見てちょっとドキドキしたのを思い出した。これって自分でやる羞恥プレイみたいなもんなんじゃないだろうか。だって、自分が物忘れするアホな子ですって周りに対して言っているようなものなのだから。ちなみに男もやってたけどそれについては単にアホだなあとしか思えなかった。
とまあ賞賛ばっかりになってしまったのだけど、気になることが二つあった。一つ目は大したことがないので軽く流すと、事件の謎自体がそれほど面白くなった。そしてもう一つこれが一番重要なのだけど、今日子さんのデレがなんかいまいちに思えた。途中まで読み進めていたときは、今日子さんって隙がなくてガードが堅いのだけど、デレるとすごく魅力的なんだろうなあ、この巻の中でデレてくれるのかなあ、と期待していた。その期待は叶ったのだけど、なにか十分に満足できなかった。
普段の今日子さんは決してデレるようなキャラじゃないはずだと思う。それがデレたというのは、今日子さんの過去についての謎に関係しているんじゃないかと思うのだけど、それについてのほのめかしがまったくないので、なぜデレたのかいまいち納得できない。いままでそっけなかった相手が急になびいてきたとき、普通の人だったら理由が分からないと素直に喜べないと思う。自分は読んでいてそんな思いを今日子さんに対して感じた。一応今日子さんの謎と不安みたいなものが描かれていて、その不安を包み込むようなことを語り手の厄介がしたのかもしれないけれど、弱いと思った。
作者が次の巻のあとがきで今日子さんのキャラクターをどんどん描いていくと言っているのだけど、一見不可解な彼女の行動や嗜好の数々が、あとで徐々に彼女の過去が明かされていくに従って合点がいくという流れになったらさぞ気持ちいいだろうなあと思った。
正直、ミステリー好きの知人に勧めるには弱いと思ったけれど、西尾維新のファンなら安心して楽しめる作品だと思う。