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ヤンキー君とメガネちゃん

吉河美希 (講談社 KCマガジン)

いまいち(-10点)
2015年5月24日
ひっちぃ

ヤンキー(不良)の高校一年生・品川大地がトイレの個室で授業をサボっていると、おさげ髪でメガネの学級委員・足立花が壁をよじ登ってのぞき込んできて、社会科見学に行こうと言い出した。最初はノリ気じゃなかった品川大地だったが、足立花の熱意に負けて学校行事に引っ張り出されていく。しかし足立花にはどこかヘンなところがあった。少年マンガ。

前に読んで確か二巻ぐらいでやめてレビューも書いたのだけど、同じ作者の作品で今期アニメ化された「山田くんと7人の魔女」が面白いので、きっとこの作品も実は面白かったんじゃないかと思ってもう一度手に取って読んでみた。

うーん。やっぱいまいち。

単行本にして全23巻もあって、正直よくここまで打ち切られずに続いたなあと思った。というかよく自分も我慢して全部読んだなあと思う。いやきっとなんだかんだで読みたかったから読んだんだと思うんだけど、なぜそうなっちゃったのかよく分からない。

ストーリーを要約すると、ヤンキー(不良)の品川大地が友達を作ったり学校行事に関わったりするようになって変わっていくという話なのだけど、その牽引役となるメガネちゃんこと足立花が徹頭徹尾ワケのわからないキャラで、大体いつも放り投げられてエピソードが締めくくられるのを繰り返す。こいつの本性が結局よく分からなかった。作中最強を誇るケンカ強さと、それを封印して学級委員としてみんなから尊敬される普通の学校生活を送りたいという思いは、普通に考えれば魅力的なキャラと引き込まれるストーリーにつながりそうなものなのだけど、なんでこんなわけの分からない作品になるんだろう。

そして更生(?)していった品川大地のほうもキャラが迷走していく。迷走っていうかテキトーって感じ。キャラ造形がめちゃくちゃ。ヤンキーだったのに、生徒会活動までやりだし、最後は東大のような日本一の架空の大学「殿様大学」を目指して受験勉強を始めるところまで行き着く。中学の最初の頃はガリ勉だったとか、ネットゲームにハマったりだとか。全巻読んだ上で振り返ってみると、結局こいつは本当にヤンキーだったのかという根本的な疑問にたどり着く。それだったら最初からこいつは普通のヤンキーとはちょっと違うっぽいところを描いておいてほしかった。キャラクターとしての芯がないといか、筋が通っていないというか。

話が進むにつれてキャラが増えていく。登校拒否していたのを足立花と品川大地に引っ張り出された長身でいかつい外見だけど見かけ倒しの千葉くん、足立花の右腕だった女ヤンキーの姫路、生徒会副会長選を品川大地と戦う一見優等生で実はケンカも強い裏番的キャラの和泉、その元舎弟で暴走族を率いていた口数の少ない実直なキャラの香川、と転入初日からケンカをしたが一番の親友になる北見、体育祭で仲間になる元チアリーダーの杏奈、ネットゲーマーのマコト、ギャル男の「なっちまっち」こと長野と松本、先代生徒会長の秋田、品川大地の姉の海里。主人公たちのいる紋白高校だけじゃなく、隣のお金持ち学校の青筋学園、不良のふきだまり揚羽工業、お勉強のできる大柴学園高等部なんかにもそれぞれ色んなキャラが出てくる。

でもこんだけキャラがいるのに、ほとんどワクワクできないのはなぜなんだろう。ストーリーが薄いから、キャラ描写も薄くなる。みんなそれぞれ個性があって方向性も別々なんだけど、思いが伝わってこない。たとえば千葉くんは学校に行くのがイヤだったのを引っ張り出されたんだけど、それ以降は変人ばかりの中で数少ない常識人キャラというだけで埋もれてしまう。愛される巻き込まれキャラみたいになればもっとウケるし愛着も湧いたんじゃないだろうか。あと足立花の右腕だった姫路も、学級委員をやる足立に対して色々と勘違いな行動を取り続ける方が面白いしもっとキャラも立ったんじゃないかと思う。和泉だって表の顔と裏の顔が違うことをもっと引き立てれば色々話を組み立てられた気がするし。

絵はとてもうまいと思う。すごく親しみが持てて、なにより読みやすい。男キャラはそれぞれかっこいいか味があるし(練馬とか)、女キャラはみんなそれぞれかわいい。どんなに面白い作品でも最初はどうしても絵がとっかかりになってしまうので、なかなか手を出す気になれなかったり、話が面白くなるまでちょっとがんばって読まないといけなかったりするのだけど、この作品に関しては逆に絵がいいので読みたくなる。話がそれほど面白くなくても読み進めるのが楽なのでなにげなく読んでしまう。その結果まあ自分は少し後悔しているのだけど、絵を楽しめたのだから悪くはなかったのかなあと思う。

読んでいて一回だけ涙腺が緩んだところがあった。文化祭編で品川大地と一緒に実行委員をやる女の子の感情がたかぶったシーンがすごくよかった。でもそのあとの彼女の感情の整理をほとんどやらず平坦に終わっちゃうんだけど。

作者の考えは窺い知れないのだけど、気楽に読めるものを目指したんだろうか。マンガ雑誌なんかで、特に面白くもないのにずっと続いている作品が多くあって、そういう作品っていうのは実は結構読者の需要があるらしいという話をどっか聞いたことがあるのだけど、この作品もそういう淡々と続いて安心して読めるような雑誌の屋台骨を支える作品の一つなのかもしれない。だからわざわざ単行本で読むんじゃなくて、雑誌で連載中のをリアルタイムで読むべき作品だったのかもしれない。

というわけで、この作品をいまから読むのは全然勧められないのだけど、力を入れて読まないといけない重い作品じゃなくて気楽に読める軽い作品が読みたい人になら、そしてちょっと変わった学園青春ギャグものを読みたい人になら勧めてもいいかな…っていうかわざわざ勧めるような作品じゃないんだよなあ。

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