マンガ
日常もの
月刊少女野崎くん 6巻まで
椿いづみ (スクウェア・エニックス ガンガンコミックスONLINE)
傑作(30点)
2015年5月31日
ごく普通の高校生の女の子・佐倉千代が好きになったのは、背が高くて落ち着いた男の子・野崎くんだった。勇気を出して告白しようとしたら、いつのまにか彼の仕事を手伝うことになってしまった。なんと彼はプロの少女マンガ家だった。ラブコメマンガ。
2014年7月からアニメ化されたのを見てとても面白かったのでこの原作マンガにも手を出してみた。面白かった。
野崎くんは初恋もまだなのに少女マンガを描いているという天然キャラなので、佐倉千代がアタックしてきてもそれと気付かず、仕事優先の思考パターンで彼女の行動を解釈し、彼女を自分の仕事に協力させていく。というすれ違い系のギャグ要素が最初に出てくる。
仕方がないので佐倉千代は野崎くんの言うとおりにしているうちに、彼のマンガ制作に興味を抱いていき、いつのまにか彼のアシスタントみたいな感じになっていく。その過程で、少女マンガのおやくそくみたいなものをいじるギャグが出てくる。
次に少女マンガを描くには魅力的なキャラクターを登場させなければならないからと、身近な人への人間観察をする流れになり、佐倉千代や野崎くんの周りにいる様々な人物が次々に出てくる。
まずは一見遊び人風のチャラい男、御子柴実琴。実はこいつは単なる調子のり屋なので、気付くと女子に調子のいいことやキザなことばかり言ってキャーキャー言われているのだけど、内心またやっちゃったと思っていつも後悔している。そんな素の彼の姿を知っちゃった佐倉千代は仕方なく彼をフォローしてあげたり突き放したりしている。
鹿島遊はまるで少女マンガの王子様役のようなキャラなのだけど、実は女で演劇部でも宝塚みたいに男役をやって女の子たちからとても人気がある。でもガサツで奔放なので、いつも演劇部の先輩の堀正行にどつきまわされている。しかし彼女はそれを愛情の一種だと思っていて、先輩のことが大好きなのだった。堀は鹿島遊を見出してその演技力に惚れこんでいるのだけど、本当は自分が主役をやりたかった。でも身長が低いので裏方に転向していて、いまはその役割が気に入っている。
瀬尾結月は靴下を履かずに上履きを履いている野性味のある女で、究極の空気読めないキャラ。いつも一言二言余計なことを言って相手をイラッとさせるが、声楽部に所属していてめちゃくちゃ歌がうまい。そんな彼女のことを後輩の若松博隆が好きになってしまい、めげずに口説いて仲良くなろうとするがいばらの道なのであった。でも彼女は彼女なりに若松博隆のことを気にいっている。
野崎くんの仕事関係の人々も出てくる。編集者の剣さんは必要なことしか言わない堅物キャラなのだけど、前任の編集者があまりに最悪だったせいか野崎くんは剣さんのことが好きすぎて剣さんのそっけない態度にもいちいち感動する。近所に同じ漫画家の都さんがいて、彼女はその最悪の編集者がいま担当している作家なのだけど、その編集者のむちゃな指示に忠実に従ってしまう。
これといって展開するストーリーはなく、ただただ日々のマンガ家としての仕事と学校生活とが描かれる。キャラクターものの要素が強くて、魅力的な登場人物が常にぶつかりあっている。こういう日常ものが自分は大好きなのでとても楽しめた。
ヒロインの(佐倉)千代ちゃんがかわいい。普通の女の子とは言ったけれど、ちょっとドジっ子が入っていて、でもそれを自覚していていつもそんな自分や周りに対してツッコミを入れている。そして周りから愛されている。すごくけなげで、野崎くんのことをずっと想っているのもグッとくる。その割に全然報われず、野崎くんの親友のようなポジションに収まっているところも。でも御子柴には時々冷たいとか。アニメ版の声に独特の魅力があって、感情豊か(冷めたときも含めて)でいつまでも聞いていたいと思った。小澤亜李という人がやっている。
自分の好みとして甲乙つけがたいのが野生味のある女の瀬尾結月で、凛々しくて時に邪悪な顔つきをしたり頬をほんの少し染めたりするところがかっこよくてかわいい。靴下を履かないところがさりげなくセクシーで生々しい。なんか学生時代に体育の授業や部活のときの女子の生足を見たときの記憶が思い起こされるからだろうか。いまのところほとんどデレていない。そういえばアニメ版では沢城みゆきが声を担当していてよかった。
鹿島くんと堀先輩の演劇部コンビもほほえましい。堀先輩は鹿島くんの演技力を評価していてビシバシ鍛えようとしているのだけど、その距離感の近さを本人は自覚していない。「本当は鹿島くんのことが好きだけど気持ちを隠している」んじゃないかと思えてくるのかというとそんなことはなくて、デレる様子は一片も見せていない。ただ事実だけがつみあがっていく。一方の鹿島くんは逆に堀先輩に愛情を持って育てられているのだと勘違いしている。でも恋愛というところまでは意識していない。この二人がこれからどうにかなったら面白いと思うのだけど、いまのところまったく動く気配がない。
この二人に限らず、誰も仲が進展していないのがもどかしい。進まなくていいから勘違いしては思い違いだったというのを繰り返す描写があるだけでも満足できそうな気がするのだけど。アニメのラストの千代ちゃんと野崎くんもそんな感じのもどかしい描写で終わっていて、ネットでは人によって評価が分かれていたように思う。
少女マンガメタギャグが最初はすごく面白かった。特に、一緒に自転車で下校する描写のあれこれが面白すぎて、声に出して笑った。あと、野崎くんとそのお手伝い組がなんでも仕事に結びつけて考えてしまう勘違いギャグ系と、それにそれら以外の普通のギャグも結構面白かった。でも回を追うごとにネタが尽きてきたのか少女マンガがらみのギャグが少なくなり、単純なキャラクターもの要素だけで引っ張っていく感じが強くなっていくように思えた。特に既刊最新巻を読んだときに、なにか新しい展開や要素が欲しいように思えてならなかった。
絵がすごくいい。この作品、いわゆるネット上のマンガサイトに連載されている作品なのだけど、絵もメジャー作品の平均より高いレベルだと思う。そしてなにより絵に色気というか独特の魅力があって、自分は絵だけでも見ていられるぐらい好き。ただ、御子柴と鹿島くんと若松博隆とが少しだけ似ていて読んでいてパッと見ただけでは一瞬判別できなかったことが幾度かあった。
アニメの話になっちゃうけれど、オープニング曲を作って歌っている大石昌良という人の曲と歌がとても良かった。軽快なアコースティックギターと奔放な歌声、自在で完成度の高い編曲と、総合的にかなりのシンガーソングライターだと思った。この人の他に出している曲があればチェックしたいと思っていたけれどすっかり忘れていた。
ついでに言うとエンディング曲をヒゲドライバーというチップチューンで有名な人が作っている。こっちはそれほどいいとは思わなかったけれど、ゴリゴリのチップチューンじゃなくて普通のキャッチーなアニソンポップスなのがびっくりした。
題がちょっと人を遠ざけるような気がする。掲載誌(サイト)のガンガンコミックスONLINEで時々谷川ニコ「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」を読むときにこの「月刊少女野崎くん」も毎回目に入ったのだけど、まったく読もうという気になれなかった。なので、題で敬遠していた人にはぜひ読んでほしい。別に少女マンガについてあまり知らなくても普通に楽しめると思う。
2014年7月からアニメ化されたのを見てとても面白かったのでこの原作マンガにも手を出してみた。面白かった。
野崎くんは初恋もまだなのに少女マンガを描いているという天然キャラなので、佐倉千代がアタックしてきてもそれと気付かず、仕事優先の思考パターンで彼女の行動を解釈し、彼女を自分の仕事に協力させていく。というすれ違い系のギャグ要素が最初に出てくる。
仕方がないので佐倉千代は野崎くんの言うとおりにしているうちに、彼のマンガ制作に興味を抱いていき、いつのまにか彼のアシスタントみたいな感じになっていく。その過程で、少女マンガのおやくそくみたいなものをいじるギャグが出てくる。
次に少女マンガを描くには魅力的なキャラクターを登場させなければならないからと、身近な人への人間観察をする流れになり、佐倉千代や野崎くんの周りにいる様々な人物が次々に出てくる。
まずは一見遊び人風のチャラい男、御子柴実琴。実はこいつは単なる調子のり屋なので、気付くと女子に調子のいいことやキザなことばかり言ってキャーキャー言われているのだけど、内心またやっちゃったと思っていつも後悔している。そんな素の彼の姿を知っちゃった佐倉千代は仕方なく彼をフォローしてあげたり突き放したりしている。
鹿島遊はまるで少女マンガの王子様役のようなキャラなのだけど、実は女で演劇部でも宝塚みたいに男役をやって女の子たちからとても人気がある。でもガサツで奔放なので、いつも演劇部の先輩の堀正行にどつきまわされている。しかし彼女はそれを愛情の一種だと思っていて、先輩のことが大好きなのだった。堀は鹿島遊を見出してその演技力に惚れこんでいるのだけど、本当は自分が主役をやりたかった。でも身長が低いので裏方に転向していて、いまはその役割が気に入っている。
瀬尾結月は靴下を履かずに上履きを履いている野性味のある女で、究極の空気読めないキャラ。いつも一言二言余計なことを言って相手をイラッとさせるが、声楽部に所属していてめちゃくちゃ歌がうまい。そんな彼女のことを後輩の若松博隆が好きになってしまい、めげずに口説いて仲良くなろうとするがいばらの道なのであった。でも彼女は彼女なりに若松博隆のことを気にいっている。
野崎くんの仕事関係の人々も出てくる。編集者の剣さんは必要なことしか言わない堅物キャラなのだけど、前任の編集者があまりに最悪だったせいか野崎くんは剣さんのことが好きすぎて剣さんのそっけない態度にもいちいち感動する。近所に同じ漫画家の都さんがいて、彼女はその最悪の編集者がいま担当している作家なのだけど、その編集者のむちゃな指示に忠実に従ってしまう。
これといって展開するストーリーはなく、ただただ日々のマンガ家としての仕事と学校生活とが描かれる。キャラクターものの要素が強くて、魅力的な登場人物が常にぶつかりあっている。こういう日常ものが自分は大好きなのでとても楽しめた。
ヒロインの(佐倉)千代ちゃんがかわいい。普通の女の子とは言ったけれど、ちょっとドジっ子が入っていて、でもそれを自覚していていつもそんな自分や周りに対してツッコミを入れている。そして周りから愛されている。すごくけなげで、野崎くんのことをずっと想っているのもグッとくる。その割に全然報われず、野崎くんの親友のようなポジションに収まっているところも。でも御子柴には時々冷たいとか。アニメ版の声に独特の魅力があって、感情豊か(冷めたときも含めて)でいつまでも聞いていたいと思った。小澤亜李という人がやっている。
自分の好みとして甲乙つけがたいのが野生味のある女の瀬尾結月で、凛々しくて時に邪悪な顔つきをしたり頬をほんの少し染めたりするところがかっこよくてかわいい。靴下を履かないところがさりげなくセクシーで生々しい。なんか学生時代に体育の授業や部活のときの女子の生足を見たときの記憶が思い起こされるからだろうか。いまのところほとんどデレていない。そういえばアニメ版では沢城みゆきが声を担当していてよかった。
鹿島くんと堀先輩の演劇部コンビもほほえましい。堀先輩は鹿島くんの演技力を評価していてビシバシ鍛えようとしているのだけど、その距離感の近さを本人は自覚していない。「本当は鹿島くんのことが好きだけど気持ちを隠している」んじゃないかと思えてくるのかというとそんなことはなくて、デレる様子は一片も見せていない。ただ事実だけがつみあがっていく。一方の鹿島くんは逆に堀先輩に愛情を持って育てられているのだと勘違いしている。でも恋愛というところまでは意識していない。この二人がこれからどうにかなったら面白いと思うのだけど、いまのところまったく動く気配がない。
この二人に限らず、誰も仲が進展していないのがもどかしい。進まなくていいから勘違いしては思い違いだったというのを繰り返す描写があるだけでも満足できそうな気がするのだけど。アニメのラストの千代ちゃんと野崎くんもそんな感じのもどかしい描写で終わっていて、ネットでは人によって評価が分かれていたように思う。
少女マンガメタギャグが最初はすごく面白かった。特に、一緒に自転車で下校する描写のあれこれが面白すぎて、声に出して笑った。あと、野崎くんとそのお手伝い組がなんでも仕事に結びつけて考えてしまう勘違いギャグ系と、それにそれら以外の普通のギャグも結構面白かった。でも回を追うごとにネタが尽きてきたのか少女マンガがらみのギャグが少なくなり、単純なキャラクターもの要素だけで引っ張っていく感じが強くなっていくように思えた。特に既刊最新巻を読んだときに、なにか新しい展開や要素が欲しいように思えてならなかった。
絵がすごくいい。この作品、いわゆるネット上のマンガサイトに連載されている作品なのだけど、絵もメジャー作品の平均より高いレベルだと思う。そしてなにより絵に色気というか独特の魅力があって、自分は絵だけでも見ていられるぐらい好き。ただ、御子柴と鹿島くんと若松博隆とが少しだけ似ていて読んでいてパッと見ただけでは一瞬判別できなかったことが幾度かあった。
アニメの話になっちゃうけれど、オープニング曲を作って歌っている大石昌良という人の曲と歌がとても良かった。軽快なアコースティックギターと奔放な歌声、自在で完成度の高い編曲と、総合的にかなりのシンガーソングライターだと思った。この人の他に出している曲があればチェックしたいと思っていたけれどすっかり忘れていた。
ついでに言うとエンディング曲をヒゲドライバーというチップチューンで有名な人が作っている。こっちはそれほどいいとは思わなかったけれど、ゴリゴリのチップチューンじゃなくて普通のキャッチーなアニソンポップスなのがびっくりした。
題がちょっと人を遠ざけるような気がする。掲載誌(サイト)のガンガンコミックスONLINEで時々谷川ニコ「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」を読むときにこの「月刊少女野崎くん」も毎回目に入ったのだけど、まったく読もうという気になれなかった。なので、題で敬遠していた人にはぜひ読んでほしい。別に少女マンガについてあまり知らなくても普通に楽しめると思う。
(最終更新日: 2015年5月31日 by ひっちぃ)