ノンフィクション
歴史
BC級戦犯
田中宏巳 (ちくま新書)
まあまあ(10点)
2002年10月7日
第二次世界大戦終了後に連合国によって裁かれた日本人は A級戦犯だけではない。数千人の日本人が裁判の名の下に BC級戦犯として殺された。この本はそういう裁判の実体を描いた本だと思っていたのだが、裁判の詳細についてはほとんど語られていないインチキ本なのであった。
驚いた。本書の六割が戦記だ。BC級戦犯はどこで生まれたのか、という理由づけで、延々と東南アジアでの戦いを描写する筆者。日本は駆逐艦が強かった、日本は兵力を分散しすぎた、アメリカは、マッカーサーラインは、と自分の戦争観を存分に語っている。こういうのを野心的と言うのだろう。あきれた。
だが、あきれを通り越すと、私の知らなかった事実を調べてまとめてくれていることを私は素直に喜び始めた。特にニューギニアでの二年あまりに及ぶ戦いで盛り上がった。BC級戦犯なんて全然関係ないのだが、終戦後に彼らが収容所内で自給体制に入るということを描写する際の伏線として、彼らが戦争中から自給体制を築いていたことなどを書いているわけで、なんともしたたかだ。
日本軍による連合国捕虜の扱いの悪さばかりが有名になってしまっているが、実は終戦後に収容所に捕らえられた日本軍兵士たちの扱いも悪く、実は連合国捕虜よりも多く死んでいるし虐待されているという事実があっさりと書かれている。アメリカは補給力も建設力もあったので、広い収容所に十分な環境で捕虜を収容できたそうだ。しかし、イギリスやオーストラリアには補給力も建設力もなかったので、小さい島をそのまま収容所として使い、食料や医薬品の供給がままならない島では数千人単位でバタバタ餓死したり病死していたのだそうだ。それから特にイギリスとオランダは、日本軍が作った収容所をそのまま接収し、そこに捕虜として捕らえられていた自国兵士をそのまま収容所の職員として使ったために、そこではリンチによる虐待・虐殺が多発したらしい。
ただ、BC級戦犯になったいきさつとしての「日本軍の蛮行」についても作者は厳しい。作者は、様々な事実を広く深く集めた上で分析しており、その点はこれまでの論者とは一線を画している。しかし、その観方には反省史観が強く見られ、狭い視野から即物的に導いた結論には困惑させられる。特に、当時の中国についての認識には明らかな偏向が見られる。私が一番首を傾げた部分をそのまま引用しよう。
*
だが取締りの過程で発生した陰惨な事案は、万が一にも外部に漏れないように厳しく封印されたはずだった。だが人間のすることは、どこかに痕跡となる証拠を残すものらしい。そのうえ日本軍の文書管理はきわめて杜撰だったことは、満州や華北でも同じであったらしい。焼却したはずの文書類が大量に共産党、ついで新中国政府の入手するところとなり、限られた小数の人間しか知らない極秘事項が中国側に知られるところとなった。
ソ連から中国側に引き渡された千余名の戦犯容疑者は、これらの証拠を突きつけられ敗北した。おそらく他の七カ国の中で最も厳格な証拠調べが行われ、完璧な論理の下に判決が下された裁判といえるだろう。
*
中国では現代でもまともな裁判がほとんど行われていないというのに、戦後すぐに行われた裁判が「七カ国の中で最も厳格な証拠調べ」により「完璧な論理の下に判決が下された」と述べている。もちろん「七カ国」の中にはアメリカも含まれているのだ。
中国に偏向し、かつ日本軍悪玉論に囚われているとはいえ、これまであまり知られてこなかった戦中戦後の話を綴った本書には価値があると思う。いわゆる「良心的」日本人を自認する人々がスムーズに読んでいける内容に仕上がっている。似たような本の中で、この本が比較的取り上げられている理由も、そんな「良心的(実は無知で独善的)」な人々が内容に満足したからだろう。評価しないわけにはいかないが、私は読んでいて所々で不快になった。
驚いた。本書の六割が戦記だ。BC級戦犯はどこで生まれたのか、という理由づけで、延々と東南アジアでの戦いを描写する筆者。日本は駆逐艦が強かった、日本は兵力を分散しすぎた、アメリカは、マッカーサーラインは、と自分の戦争観を存分に語っている。こういうのを野心的と言うのだろう。あきれた。
だが、あきれを通り越すと、私の知らなかった事実を調べてまとめてくれていることを私は素直に喜び始めた。特にニューギニアでの二年あまりに及ぶ戦いで盛り上がった。BC級戦犯なんて全然関係ないのだが、終戦後に彼らが収容所内で自給体制に入るということを描写する際の伏線として、彼らが戦争中から自給体制を築いていたことなどを書いているわけで、なんともしたたかだ。
日本軍による連合国捕虜の扱いの悪さばかりが有名になってしまっているが、実は終戦後に収容所に捕らえられた日本軍兵士たちの扱いも悪く、実は連合国捕虜よりも多く死んでいるし虐待されているという事実があっさりと書かれている。アメリカは補給力も建設力もあったので、広い収容所に十分な環境で捕虜を収容できたそうだ。しかし、イギリスやオーストラリアには補給力も建設力もなかったので、小さい島をそのまま収容所として使い、食料や医薬品の供給がままならない島では数千人単位でバタバタ餓死したり病死していたのだそうだ。それから特にイギリスとオランダは、日本軍が作った収容所をそのまま接収し、そこに捕虜として捕らえられていた自国兵士をそのまま収容所の職員として使ったために、そこではリンチによる虐待・虐殺が多発したらしい。
ただ、BC級戦犯になったいきさつとしての「日本軍の蛮行」についても作者は厳しい。作者は、様々な事実を広く深く集めた上で分析しており、その点はこれまでの論者とは一線を画している。しかし、その観方には反省史観が強く見られ、狭い視野から即物的に導いた結論には困惑させられる。特に、当時の中国についての認識には明らかな偏向が見られる。私が一番首を傾げた部分をそのまま引用しよう。
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だが取締りの過程で発生した陰惨な事案は、万が一にも外部に漏れないように厳しく封印されたはずだった。だが人間のすることは、どこかに痕跡となる証拠を残すものらしい。そのうえ日本軍の文書管理はきわめて杜撰だったことは、満州や華北でも同じであったらしい。焼却したはずの文書類が大量に共産党、ついで新中国政府の入手するところとなり、限られた小数の人間しか知らない極秘事項が中国側に知られるところとなった。
ソ連から中国側に引き渡された千余名の戦犯容疑者は、これらの証拠を突きつけられ敗北した。おそらく他の七カ国の中で最も厳格な証拠調べが行われ、完璧な論理の下に判決が下された裁判といえるだろう。
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中国では現代でもまともな裁判がほとんど行われていないというのに、戦後すぐに行われた裁判が「七カ国の中で最も厳格な証拠調べ」により「完璧な論理の下に判決が下された」と述べている。もちろん「七カ国」の中にはアメリカも含まれているのだ。
中国に偏向し、かつ日本軍悪玉論に囚われているとはいえ、これまであまり知られてこなかった戦中戦後の話を綴った本書には価値があると思う。いわゆる「良心的」日本人を自認する人々がスムーズに読んでいける内容に仕上がっている。似たような本の中で、この本が比較的取り上げられている理由も、そんな「良心的(実は無知で独善的)」な人々が内容に満足したからだろう。評価しないわけにはいかないが、私は読んでいて所々で不快になった。