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山田くんと7人の魔女 第18巻まで

吉河美希 (講談社 講談社コミックス)

最高(50点)
2015年8月30日
ひっちぃ

校内の鼻つまみ者の高校生男子・山田が、いじめられっ子の優等生女子・白石うららとふとしたアクシデントで唇同士が触れ合い、互いの体が入れ替わってしまう。この異常な事態の中でやたら平静な白石うららを見て、山田は彼女のことを助けたくなり、惹かれていく。ラブコメ少年マンガ。

2015年4月からアニメ化されて放映されていたのを見てとても面白かったのでこの原作を読んでみたらとても面白かった。

なにが面白いって、キャラクターが多彩かつ魅力的で、それぞれの行動が楽しい。彼らを動かしているのはストーリーなのだけど、7人の魔女をめぐる学園内の陰謀と勢力争いを軸に、個性豊かな登場人物たちがそれぞれ自分の思いで行動し、対立したり共闘したりする。そこに生まれる友情と敵意、そして愛情が美しい。

題にある「魔女」というのは、それぞれ不思議な能力を持った女の子たちのことで、舞台となる学園には自然発生的に生まれるらしいということが分かる。優等生女子の白石うららもその一人で、その能力を知った生徒会副会長の宮村は、山田ともども白石を超常現象研究部に引き入れ、魔女の秘密を探って魔女を集めて能力を利用して次期生徒会長選を自分に有利に進めようとする。その宮村のライバルとして、どうやら魔女の一人らしい小田切寧々が立ちはだかり、その傍らには山田と因縁のある五十嵐の姿があった。

主人公の山田は入学当初に起こした事件により学校で孤立しており、頭は良くないが曲がったことが嫌いなので、自分は濡れ衣を着せられたのであり悪くないのだと言って皆と迎合せずに孤独に過ごしていたけれど、実は寂しがりやなのだった。そんな山田が超常現象に巻き込まれて白石うららと体が入れ替わってしまい、一時的に白石うららとして過ごしている中で、白石うららが実は裏で陰湿ないじめを受けていることを知り、彼女のことを助けようとするが、波風を立てたくない彼女は嫌がるのだった。

白石うららは学年トップの成績を誇り性格も優等生なのだけど、感情の起伏に乏しくて自分の境遇についても冷静に見つめている。しかし山田の熱気に当てられ、少しずつ変わっていく。白石うららは多分正ヒロインなのだけど、作中ほとんど何を考えているのか分からない描写が続く。山田への好意もほとんどあらわさないし、ほのめかしもろくにない。だからこそ、一番盛り上がる場面でのデレが素晴らしいのだけど、ちょっと抑え過ぎだと思った。まあ状況的にきっと彼女は山田のことが好きなのだろうと思うものだろうし、安易なデレは要らないのかもしれないけど、普通に見ると大して魅力がない。正直自分は彼女のことがそんなに好きになれなかった。

山田と白石を引き入れた生徒会副会長の宮村は、ステレオタイプ的な生徒会役員キャラではなくて、アホな山田と心からの親友になる親しみあふれる男で、ツッコミもすればボケもする魅力的なキャラ。生徒会会長になりたいという不似合いな目的も、実は人に言えない秘密の理由があってのことだった。

あんまりダラダラとキャラ紹介をするのも時間の無駄なのでもうやめておこうかと思うのだけど、魔女たちよりも男キャラ連中のほうに作者が力を入れているみたいで、色んなタイプの色んな意志を持った男キャラが出てきて作品を彩っている。一途な思いに身を焦がす五十嵐、単細胞で猪突猛進な椿、山田と似たもの同士でいじけ男の玉置、承認欲求と願望成就の意識が強い黒崎、何を考えているか分からないムッツリな女好きの生徒会長山崎など。

もちろん魔女もみんな個性的で魅力がある。みんな非の打ちどころのない女の子というわけではなくて、みんなちょっとずつ残念なところを持っているのがすごくよかった。白石うららは空気を読まないし、小田切寧々は唯我独尊で間の抜けたところがあるし、大塚芽衣子は引っ込み思案なのに内弁慶だし、猿島マリアは常識が欠落しているし、滝川ノアは見境がない。あと魔女じゃないけど超常現象マニアの伊藤さんがアホの子でかわいい。ツンデレな女子弓道部部長の君島カレンはもっと出番があってほしかった。

キャラだけじゃなくて魔女の謎を軸に進むストーリーも面白い。まあその締めとなる魔女の儀式のあたりが大して面白くないのが残念なところなのだけど、終始話の筋が気になって読み進めた。魔女の多彩な能力がカギを握っているので、一気に形勢が逆転したり、逆に窮地に陥ったりする。

第一部と言っていい締めの区切りのあと、そこから物語は大きく展開する。超常現象研究部と生徒会会長選と魔女の謎を軸に進んでいたストーリーが、新興勢力の将棋部と次世代生徒会と新たな魔女を軸にした第二部といっていい話になっていく。そこでようやく山田本人の真相にスポットライトが当たるかのような引きがあり、意外な勢力が新たに主人公たちの前に立ちふさがる。ただ、色々と詰め込み過ぎた感があって、ファンとしてはうまいこと話が続いてくれないかドキドキしながら読み進めているのだった。ちょっと突き放して見てみると、なんかうまくいかない気がしてならないのだけど…。休載してでも話を練って欲しい。

ギャグも結構面白い。そもそもシチュエーション自体が面白いので、その上に自然とギャグが乗っかり、キャラクターの魅力と相まってニヤリとできる。

絵も素晴らしい。どの登場人物も人間的なかっこよさやかわいさを引き立てる外見をしていて、たぶん一枚絵を見てもそんなでもないけれど、マンガの中で動いているのを見るとみんなすごく魅力的に感じる。

同じ作者による「ヤンキー君とメガネちゃん」がさっぱり面白くなかったので、なんでこの作品がこんなに急に面白くなったのか不思議でしょうがない。裏で脚本書いている人が別にいるんじゃないかと思うぐらいに。

学園ラブコメと銘打たれているけれど、どちらかというと男女問わない友情+ちょっと愛情というバランスの作品であり、話の筋が面白いこともあって広い読者に受け入れられる作品だと思う。超常現象に拒否反応がないのであれば読むことを強く勧める。

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