フィクション活字
SF
俺の脳内選択肢が、学園ラブコメを全力で邪魔している 11巻まで
春日部タケル (角川書店 角川スニーカー文庫)
まあまあ(10点)
2016年3月7日
イケメンだけど奇行を繰り返す高校生男子・甘草奏は、それゆえに学園で誰も恋愛対象にしたがらない「お断り5(ファイブ)」の中に選ばれていた。強制力を持った選択肢が頭の中で聞こえてきて、必ずどちらかを選んで奇妙な行動しなければならないからだった。そんな理不尽に耐え続けたある日、彼のことを助けるために来たという美少女ショコラが天から落ちてくるが、こいつはとんでもないポンコツなのだった。学園ラブコメ小説(?)。
2013年10月にアニメ化されたものを見て結構面白かったので、いずれ原作を読んでみようと思って以来ずっと忘れていたのだけど、最近またライトノベルが読みたくなったので読んでみた。
自分はこれ良作だと思っていたのだけど、アニメの円盤(DVDやBlu-ray)はあんまり売れなかったらしい。放送当時の2ちゃんねるのネット実況板のアニメスレかなにかを見ていたら、なんか脳内選択肢なるものが理不尽すぎて訳が分からなくて受け付けられなかったという声があったのを覚えているのだけど、他にも確か一話最後で空から美少女が降ってきてエンディングロールになったりと、ちょっと突拍子もない展開が大した説明もなく進んでいくことに拒絶反応を示した人が多かったんだと思う。無表情系の女の子が「パイオツ」連呼したりとか。自分は笑ったんだけど。
4巻ぐらいまではそんな理不尽な脳内選択肢という呪いみたいなものを解除するために、神(?)から定期的に送られてくるミッションを遂行するのが目的となって話が進む。誰それのパンチラを見るとか、泣き顔を写真に取るとか、普通に考えると難しそうなお題が出されるので、いかにしてそれをこなしていくのかという謎解き要素と、女の子がらみのドキドキ要素が楽しみとなる。
ヒロインは主に三人いる。「パイオツ」や「チ○コ」などを連呼するといった淫語女子(?)の雪平ふらのは、一見おとなしい風なのにすっとぼけた顔をして下ネタでボケ倒してくる。それを主人公の甘草奏が丁寧にツッコミを入れていく。彼女がなぜこんな性格なのかというと…。1巻読めば分かるし面白いところなので伏せておく。
もう一人は遊王子謳歌という元気な女の子。元気というか悪ふざけする子供。有名な大企業のお嬢様なのだけど、子供の心を忘れていない破天荒な父親と、ドMの元女子アナの母親のもとに生まれ、天真爛漫に育っている。当然まだ恋愛も知らないので、甘草奏とは無邪気にじゃれている感じ。でも、とあることから急に羞恥心が芽生えて…。
最後が天から降ってきた謎の美少女ショコラ。西洋人形のような人間離れした外見をしていて、甘草奏のもとに神から送り込まれたしもべなのだけど、頭のネジが緩んでいて何の助けにもならない。食べることとBLに目がなく、甘草家にあるお菓子を勝手に食べたり、庇護欲をそそらせることでクラスのみんなからお菓子を恵んでもらったりする。いちおう甘草奏の役に立とうと本を買ってくるのだけど、これがまったく役に立たない。
5巻あたりから女の子たちが恋に目覚めて甘草奏に対してアプローチするようになる。でも当の甘草奏はまったくそんなことに気づかない。どうしてかというと、中学の頃の初恋で大きなトラウマ(心の傷)を負ってしまったから。ちょっとネタバレだけど大したことないからいいよね。彼のことを手ひどく振ったのは実は…。と話が大きくなっていく。
惰性で11巻まで読んじゃったけれど、正直5巻以降は徐々につまらなくなってくる。6巻ぐらいまではそれでもまだ楽しめたんだけど、天上空が表に出てきてから、純愛風というか話が重くなってきて、読むのがだんだん苦痛になってきたので投げ出してしまった。甘草奏は三人のメインヒロイン(?)の中から一人を選ぶのだけど、それもまあなんかいまいちしっくりこなかった。
自分は三人の中なら遊王子謳歌が一番いいと思うのだけど、その理由を突き詰めていくとやっぱり一番わかりやすいからだと思う。奇矯で子供っぽい女の子が恋に目覚めるというのは、多くの読者にとって受け入れられやすいんじゃないだろうか。彼女が自分の感情を持て余したあげく自分の気持ちに気づいていくというのは魅力的だった。もえー。でも、その段階を超えるのが早くて、そこから一気に成長していってしまうのがちょっと残念だった。そしてなにより、成長して大人っぽくなった彼女が、純愛路線っぽい展開の中でひどく安易に動くようになっていって、彼女ならではの描写が薄れていったのが味気なかった。
自分は雪平ふらのの下ネタや毒舌も大好きなのだけど、なぜこんなキャラなのかという成り立ちが不自然すぎて、素の彼女とのつながりがどうにも感覚的に受け入れられなかったんだと思う。純愛な展開がせっかくのキャラの魅力をあらかた奪い去ってしまい、安っぽい朗読劇を読んでいるように感じていってしまった。
ショコラの場合は、そもそもしもべとして甘草奏のことを好きになるようにできているという設定がある上で、実はそれだけじゃなくて個人的にも大好きになったというところが分かりづらくて共感できなかった。三人の中では一番早くデレるのだけど、一番意味不明なデレかただった。
サブヒロインも何人かいる。なんかテコ入れ目的なのか急にある巻から何人か投入された。非常に論理的なアホ少女や、遊王子謳歌とはまたちょっと違う勘違い系女、先輩痴女、そしてなぜかメインヒロインに昇格される表裏女。みんなそれぞれ面白くていい脇役だったけれど、あくまで小ネタ的に使われるだけなので、メインストーリーにはほとんど絡んでこない。いや、話には出てくるのだけど、キャラを活かした話にはならない。
甘草奏のことを狙うのはそれだけじゃなくて、権藤大子さんという近所の凶悪なおばさんが出てくるのだけど、途中まではサラッと流すだけだったのに急に出張って話に絡んでくるようになったあたりでちょっとうんざりした。女だけじゃなくて甘草奏は男にも狙われていて、奇行中の甘草奏に対して女子たちがヒソヒソ声で罵倒する中で、最後に彼の尻を狙う謎の男の一声が毎度面白かった。ここまでならよかったのだけど、こいつもあるときから急に実体化してつまらないことを始めるのでうんざりした。
この作者、小ネタにギャグセンスがあって面白いのだけど、話の展開的に楽しませてくれるようなところが弱いように思った。確か4巻あたりで、「お断り5」対「表ランキング5」の団体戦の中で、ショコラが悪口対決をしなくちゃならなくなって、人の悪口なんて言ったことのない彼女がどうすればいいのか悩んでいると、「自分が言われて悲しかった言葉を思い出せ」とアドバイスを受けて、それで口から出た言葉に一番笑った。コメディっていうのはこういう回りくどい(?)のが一番面白いと思う。
なんか途中からつまらんつまらんとばかり言ってしまったけれど、4巻までは本当に面白いので、作り物めいた設定が気にならないようならば勧められる。あと、自分としては興味なかったけれど、ラブコメが真剣なラブストーリーになるような話を読みたい人ならば、それ以降の話も楽しめるのかもしれない。
2013年10月にアニメ化されたものを見て結構面白かったので、いずれ原作を読んでみようと思って以来ずっと忘れていたのだけど、最近またライトノベルが読みたくなったので読んでみた。
自分はこれ良作だと思っていたのだけど、アニメの円盤(DVDやBlu-ray)はあんまり売れなかったらしい。放送当時の2ちゃんねるのネット実況板のアニメスレかなにかを見ていたら、なんか脳内選択肢なるものが理不尽すぎて訳が分からなくて受け付けられなかったという声があったのを覚えているのだけど、他にも確か一話最後で空から美少女が降ってきてエンディングロールになったりと、ちょっと突拍子もない展開が大した説明もなく進んでいくことに拒絶反応を示した人が多かったんだと思う。無表情系の女の子が「パイオツ」連呼したりとか。自分は笑ったんだけど。
4巻ぐらいまではそんな理不尽な脳内選択肢という呪いみたいなものを解除するために、神(?)から定期的に送られてくるミッションを遂行するのが目的となって話が進む。誰それのパンチラを見るとか、泣き顔を写真に取るとか、普通に考えると難しそうなお題が出されるので、いかにしてそれをこなしていくのかという謎解き要素と、女の子がらみのドキドキ要素が楽しみとなる。
ヒロインは主に三人いる。「パイオツ」や「チ○コ」などを連呼するといった淫語女子(?)の雪平ふらのは、一見おとなしい風なのにすっとぼけた顔をして下ネタでボケ倒してくる。それを主人公の甘草奏が丁寧にツッコミを入れていく。彼女がなぜこんな性格なのかというと…。1巻読めば分かるし面白いところなので伏せておく。
もう一人は遊王子謳歌という元気な女の子。元気というか悪ふざけする子供。有名な大企業のお嬢様なのだけど、子供の心を忘れていない破天荒な父親と、ドMの元女子アナの母親のもとに生まれ、天真爛漫に育っている。当然まだ恋愛も知らないので、甘草奏とは無邪気にじゃれている感じ。でも、とあることから急に羞恥心が芽生えて…。
最後が天から降ってきた謎の美少女ショコラ。西洋人形のような人間離れした外見をしていて、甘草奏のもとに神から送り込まれたしもべなのだけど、頭のネジが緩んでいて何の助けにもならない。食べることとBLに目がなく、甘草家にあるお菓子を勝手に食べたり、庇護欲をそそらせることでクラスのみんなからお菓子を恵んでもらったりする。いちおう甘草奏の役に立とうと本を買ってくるのだけど、これがまったく役に立たない。
5巻あたりから女の子たちが恋に目覚めて甘草奏に対してアプローチするようになる。でも当の甘草奏はまったくそんなことに気づかない。どうしてかというと、中学の頃の初恋で大きなトラウマ(心の傷)を負ってしまったから。ちょっとネタバレだけど大したことないからいいよね。彼のことを手ひどく振ったのは実は…。と話が大きくなっていく。
惰性で11巻まで読んじゃったけれど、正直5巻以降は徐々につまらなくなってくる。6巻ぐらいまではそれでもまだ楽しめたんだけど、天上空が表に出てきてから、純愛風というか話が重くなってきて、読むのがだんだん苦痛になってきたので投げ出してしまった。甘草奏は三人のメインヒロイン(?)の中から一人を選ぶのだけど、それもまあなんかいまいちしっくりこなかった。
自分は三人の中なら遊王子謳歌が一番いいと思うのだけど、その理由を突き詰めていくとやっぱり一番わかりやすいからだと思う。奇矯で子供っぽい女の子が恋に目覚めるというのは、多くの読者にとって受け入れられやすいんじゃないだろうか。彼女が自分の感情を持て余したあげく自分の気持ちに気づいていくというのは魅力的だった。もえー。でも、その段階を超えるのが早くて、そこから一気に成長していってしまうのがちょっと残念だった。そしてなにより、成長して大人っぽくなった彼女が、純愛路線っぽい展開の中でひどく安易に動くようになっていって、彼女ならではの描写が薄れていったのが味気なかった。
自分は雪平ふらのの下ネタや毒舌も大好きなのだけど、なぜこんなキャラなのかという成り立ちが不自然すぎて、素の彼女とのつながりがどうにも感覚的に受け入れられなかったんだと思う。純愛な展開がせっかくのキャラの魅力をあらかた奪い去ってしまい、安っぽい朗読劇を読んでいるように感じていってしまった。
ショコラの場合は、そもそもしもべとして甘草奏のことを好きになるようにできているという設定がある上で、実はそれだけじゃなくて個人的にも大好きになったというところが分かりづらくて共感できなかった。三人の中では一番早くデレるのだけど、一番意味不明なデレかただった。
サブヒロインも何人かいる。なんかテコ入れ目的なのか急にある巻から何人か投入された。非常に論理的なアホ少女や、遊王子謳歌とはまたちょっと違う勘違い系女、先輩痴女、そしてなぜかメインヒロインに昇格される表裏女。みんなそれぞれ面白くていい脇役だったけれど、あくまで小ネタ的に使われるだけなので、メインストーリーにはほとんど絡んでこない。いや、話には出てくるのだけど、キャラを活かした話にはならない。
甘草奏のことを狙うのはそれだけじゃなくて、権藤大子さんという近所の凶悪なおばさんが出てくるのだけど、途中まではサラッと流すだけだったのに急に出張って話に絡んでくるようになったあたりでちょっとうんざりした。女だけじゃなくて甘草奏は男にも狙われていて、奇行中の甘草奏に対して女子たちがヒソヒソ声で罵倒する中で、最後に彼の尻を狙う謎の男の一声が毎度面白かった。ここまでならよかったのだけど、こいつもあるときから急に実体化してつまらないことを始めるのでうんざりした。
この作者、小ネタにギャグセンスがあって面白いのだけど、話の展開的に楽しませてくれるようなところが弱いように思った。確か4巻あたりで、「お断り5」対「表ランキング5」の団体戦の中で、ショコラが悪口対決をしなくちゃならなくなって、人の悪口なんて言ったことのない彼女がどうすればいいのか悩んでいると、「自分が言われて悲しかった言葉を思い出せ」とアドバイスを受けて、それで口から出た言葉に一番笑った。コメディっていうのはこういう回りくどい(?)のが一番面白いと思う。
なんか途中からつまらんつまらんとばかり言ってしまったけれど、4巻までは本当に面白いので、作り物めいた設定が気にならないようならば勧められる。あと、自分としては興味なかったけれど、ラブコメが真剣なラブストーリーになるような話を読みたい人ならば、それ以降の話も楽しめるのかもしれない。