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君のいる町

瀬尾公治 (講談社 講談社コミックス)

まあまあ(10点)
2016年7月3日
ひっちぃ

東京から親の知り合いの娘・枝葉柚希がやってきて家に同居することになった高校生の桐島青大は、同級生の神咲七海のことがずっと好きで親しくなりたいと思っていたが、なにかと枝葉柚希に付きまとわれて失敗してしまう。しかし桐島青大の中で枝葉柚希の存在は日増しに大きくなっていく。青春ラブコメマンガ。

陸上部の少年少女の恋を描いた「涼風」の瀬尾公治による作品で、アニメ化されたのを見てそれなりに面白かったので原作を手に取ってみた。

題から想像できるように、離れてしまった相手を想う恋の力(?)で「君のいる町」に行ってしまうという熱い恋が描かれる。でも、純愛とか運命の相手とかじゃなくて、主人公の桐島青大は自分が一体誰を好きなのか迷って迷って揺れまくるという、人によっては虫唾が走りそうないやらしい話になっている。そのせいか、ネットでは「クソ町」と呼んでいる人もいたし、自分の知る限りそんなに話題にならなかった。でもまあ単行本は全27巻まで出ているのだし、なんだかんだで広く受け入れられたのだと思う。

少年誌に連載された恋愛ものなのでやはりヒロインが一番重要だということで紹介すると、枝葉柚希は親同士が再婚していて相手の家族とあまりうまくいっておらず、特に性悪な義妹とは仲たがいしている。そんな環境下でも普段はそれと感じさせず明るく振る舞っていて、そのわがままぶりに桐島青大がキレたりして最初はうまくいかないのだった。一方で義理堅いというか自己犠牲的なところもあって、自分さえ我慢すれば周りがすべて収まるのであればと、本当の気持ちを内に秘めるのだった。

主人公の桐島青大のほうはというと、広島の中の田舎のほうに住む地方の高校生で、中学の頃から好きだった神咲七海のことを一途に思い続けていた。彼女と親しくなりたいと自分の方からアクションを起こし、一緒に帰ったり彼女が料理好きなので料理の話をしたりして近付いていく。そしてついには告白までしてしまうのだけど、なにかと枝葉柚希の世話を焼く桐島青大のことを神咲七海は信じることができなかった。本人は意識していないかもしれないけれど気の多いタイプで、他にも色んな女の子にやさしくして気を持たせてしまったり、自分の気持ちも分からなくなってフラフラ揺れたりする。

自分はこのヒーローとヒロインがあまり好きになれなかった。読んでいる最中に何度も読むのをやめ、しばらく別の作品を読んでからまた続きに戻るというのを繰り返して、随分長い時間を掛けてようやく読み終えた。こうして読み終えて改めて考えてみると、二人の意志がはっきりと描かれていないからだと思う。枝葉柚希は彼女なりに強い意志で行動しているのだけど、桐島青大の視点から見れば訳の分からない行動ばかりしているように見えるし、桐島青大はもともと適当に生きていて(?)なんだかんだで枝葉柚希の方に向かうのだけどその理由とか動機づけもあやふやだった。

枝葉柚希の気持ちがもっと描かれていれば、ずっといい話になったと思う。

じゃあまるっきりつまらないかというとそういうわけではなくて、ネタバレになるので詳しくは書かないけれど、桐島青大がダサくかっこ悪く揺れるのも等身大の男を描いているし、一組のカップル(死語?)が幸せになるとその周りで不幸になる人がいることも描いているし、全部丸く収めるのではなくとにかく自分たちが幸せならそれでいいというエゴをそのままに描いていて、きれいごとだけでないところを直球で見せてくれていてよかった。

ドラマチックな展開が終わって話が落ち着いてからのほうが楽しめた。ぎこちなくではあるけれど着実に愛を育んでいるところが。自分はもうこの作品を読み返すことはないと思うけれど、この部分だけはまた読んでみたいと思っている。逆に風間恭輔が出てくるあたりの話は微妙なので飛ばしたい。

この作品、サブヒロインが多くていちいち紹介するのも面倒なのでしないけれど、みんなほどほどに魅力的でよかった。特に明日香がストーリー上一番よかった。でも基本的に工業生産されたようなヒロインばかりだった。男キャラは、幼馴染の由良尊がどうしようもなさすぎて魅力なし。ついでにいうと、主要登場人物が大学編でみんな東京に行って同じ大学に通うという安易な展開には突っ込む気にもなれなかった。

後半たまにあるギャグ回が結構面白かった。みんなで集まって人生ゲームもどきをやる会は大笑いした。「ドエライ空気」になっているところが。一方で勘違い女の夏越美奈の会はどれも面白かったのだけど、ちょっとやりすぎというか彼女がかわいそうになってくる。まあ最後は幸せになるのだけど。

絵は魅力的だと思う。各ヒロインそれぞれ特徴があっていいのだけど、決めポーズというか表情がワンパターンなせいで、時々見分けのつかなくなるヒロインが出てくる。作者があとがきで自虐的に描き分けがどうこう言っているのがウケた。口をアホみたいに開けるポーズをみんなにやらせるのが良くないのだと思う。このポーズがこの人の一番魅力的な絵であることは確かなのだけど。

なんだかんだで読んでよかった作品ではあったと思うけれど、人に勧めたいかというとそうまではいかない微妙なところだと思う。運命の二人がとか一途な恋がとかのワンパターンな恋愛ものに飽きた人になら、ちょっとは勧められるかも。あと、良くも悪くも安定していて、まるっきりつまらなくて魅力がないわけではないところも。

(最終更新日: 2019年6月1日 by ひっちぃ)

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