フィクション活字
ファンタジー
この素晴らしい世界に祝福を! 9巻まで
暁なつめ (KADOKAWA 角川スニーカー文庫)
最高(50点)
2016年9月25日
高校生の佐藤和真は学校に行かず引きこもってゲームばかりやっていたが、あるときしょうもないことで死んでしまい、女神のもとに導かれる。異世界へ転生して魔王を退治するなら生き返らせてやると言われた和真だったが、女神の態度にカチンときた彼は、ただ一つ転生先に持っていける特典アイテムとして、魔剣やマジックアイテムなどではなく女神アクア自身を選択する。ファンタジー風の異世界に転生したカズマ(和真)と無理やり連れてこられた女神アクアの、想定していたのと違うしょっぱい異世界生活が始まる。ライトノベル。
2016年初にアニメ化されたのを見てすごく面白かったので、この原作小説を手に取ってみた。アニメ同様にすごく面白かった。
「女神」という最強の「アイテム」を手に入れて無双(思うままに暴れまわる)できると思っていたカズマだったが、ほどなくしてこの女神がとんでもないポンコツであることに気づく。女神だから強力な回復魔法や神聖魔法を使えるのだが、頭が悪くて意地汚く自分勝手なのだった。一方のカズマは異世界に転生したからといって特別な力を持つわけでもなく、最弱職のレベル1の冒険者でおまけに装備もなく、まともな冒険すら出来ないありさまだった。
ファンタジーものなのにアルバイト生活で馬小屋に寝泊まりするのがウケる。そういえば同じ角川スニーカー文庫の深沢美潮「フォーチュンクエスト」にも似ていて、冒険者カードなるゲーム的な仕組みがそのまま存在するメタな世界観になっており、職業やレベルといったシステムだとかスキルを習得するなんていうのがそのまま描かれている。
この作品の面白いところは、主人公カズマのもとにダメダメなパーティメンバーの女の子たちが集まってきて、冒険をしては醜態をさらし、低次元な喧嘩を繰り広げるところ。
女神アクアは知力が極端に低く、そのくせみんなを出し抜いて報酬を独り占めしようとして墓穴を掘ったり、あざとくウソ泣きをして見透かされたりする。こう書くとほんとどうしようもないヒロイン(?)なのだけど、いつも全力で生きているところが魅力的だし、自分に余裕があるときはやさしい。空気が読めないので、感動の場面をぶち壊したり、女神の強力な力を使ってみんなを巻き込んだりする。これだけ強力な力を持っていて自分は女神だと言い張っているのに周りは誰も信じない。
魔法使いのめぐみんは紅魔族という目が赤くて魔力の高いほとんど人間に近い外見の種族で、上級職のアークウィザードなので強力な魔法を使えるのだが、爆裂魔法という魔法を愛していてそれしか使えない。しかもそれを使うと魔力をほとんど使いきって動けなくなってしまう。だから彼女を入れてくれるパーティもないため、必死になってカズマの仲間に入れてもらいたがる。しかし人一倍プライドが高く、バカにされるとすぐにケンカを買う。
女騎士のダクネスは一見なんの非の打ちどころもない金髪美女なのだが、実はとんでもないドMで、モンスターに凌辱される自分を想像して勝手にもだえる。彼女もまた上級職のクルセイダーなのだが、防御力こそ鉄壁なものの攻撃がまったく当たらないというポンコツぶり。カズマに同行してひどい目に遭っている女神アクアやめぐみんを見て、自分も仲間に入れてくれと言ってくる。
ファンタジー世界をパロった抱腹絶倒のコメディであるのに加えて、魔法使いのめぐみん(ロリっ子)や女騎士のダクネス(金髪美女)が主人公カズマにちょっとずつデレてくる恋愛要素まである。めぐみんはまだ13歳だし、ダクネスは実はお嬢様で世間知らずなせいか恋愛に疎く、なんだかんだで頼りになるカズマに対して悪くなく思っていく。しかしカズマもまた経験値が低いため、彼女らの望むような振る舞いが出来ず、なかなかうまくいかない。ちなみに女神アクアはマイペースを貫く。一応カズマのことを悪からず思っているようだが。
ストーリーはまずこの世界で生計を立てていくことから始め、初級クエストから、街を守ったり、魔王軍の幹部を撃退したり、国のために働いたりと段々話が大きくなっていく。しかし精神的にはあまり成長せず、カズマはコロッと死んだりする。ちなみにそのときは女神アクアの後輩エリスに生き返らせてもらうのだけど、エリスもまた時々下界に降りてくる。女神降臨のエピソードもよかった。
いま「異世界もの」と呼ばれるジャンルが非常に流行っていて、そのせいで異世界ものを禁止する小説賞まで出てきたようなのだけど、手堅くて読みやすいので流行るのも無理がないと思う。そんな中でこの作品は、…っていうほどその手の作品を読んでいるわけじゃないのだけど、キャラ同士の遠慮のないやりとりがとても魅力的で、読んでいてほっこりする。いまどきちょっと腹の立つことを言われたからっていきなり手を出すようなことってないと思うのだけど、相手が男だろうと女だろうと取っ組み合いのケンカになるところがいい。
カズマは冒険を経てもなかなかレベルが上がらないが、あらゆる職業のスキルを覚えることが出来て悪知恵がまわるので、シーフ(盗賊)のスキルであるスティール(盗み)を使ってセクハラしたり、低級魔法を習得してみんなの思いもよらない方法で使って敵を撃退したり、人間以外の怪物のスキルを覚えて役立てたりする。
主人公カズマについてもうちょっと書いておくと、こいつの行動原理はとにかく楽をしたいだけ。一応モテたいとか思っているけれど、そのために努力するほどではない、根っからのなまけもの。でも据え膳は頂きたいみたいだし、異世界の風俗(?)に行く話もある。駄女神アクアと同次元のケンカを繰り広げるぐらいに心が小さく、溜め込まずにすぐ発散するカラッとした性格をしている。
もう自分はこの作品のとりこで、死ぬまでに多分あと二回は再読すると思うのだけど、一つ気になる点を言っておくと、めぐみんのデレ描写が絶妙に意味不明なように思えてスッキリしなかった。ラブコメの定番なんかだと、しょうもない行き違いで話を長引かせる展開が多いのだけど、この作品は自分の気持ちも他人の気持ちも分からないという風に各キャラが悩みながら行動している。まあカズマの場合、めぐみんを落とせるなら行ってやる!でも本当に落とせるのか?と毎度苦悩するだけなのかもしれないけど。
で、めぐみんはカズマに対して本当のところどう思っているのか?というのが読み取れなかった。誘っているのかと思えば避けたりするというのはいわゆる女心というものなのだろうけれど、たぶんめぐみんはカズマから安易な流れでアプローチされたくなくて、ちゃんと自分を好きになった上で迫られたいのだと思う。…まあこれは単なる自分の想像であって、めぐみんのそんな気持ちは一遍も描かれていないのだった(照)。
スピンオフと銘打ってめぐみんを主人公にした外伝的シリーズ「この素晴らしい世界に爆焔を!」が全3巻あって、そっちも面白かった。めぐみんが幼馴染の親友(?)ゆんゆんと学園生活を送るところから、里を出て冒険に出かけ、カズマたちに出会うまでのいわゆるエピソードゼロ的な話になっている。作者は本編の補完的な話として描いたらしいのだけど、全部読み終えたあとで考えてみると正直どうもこの外伝を前提として書かれたとしか思えない箇所がいくつか本編にあって、特に彼女の心の師の描写が本編だけだとちょっと感傷的すぎるように思った。ゆんゆんの描写も本編では少ないし。また一方で、外伝を目いっぱい楽しむには紅魔族についてのエピソードを読んでからがいいと思う。やはり外伝と本編は一方的な補完ではなくて相互補完的な作品同士だと思うので、ゆんゆん登場前または5巻を読んでから外伝を読み始め、9巻の前までに外伝を読み終えるのがよいと思う。
RPGやファンタジーが好きな人なら気軽に読める間口が広い作品であり、面白くてほっこりする上にキュンとくる話なので、多くの人に勧めたい。ただし、涙を流して感動したいという人を除いて。
2016年初にアニメ化されたのを見てすごく面白かったので、この原作小説を手に取ってみた。アニメ同様にすごく面白かった。
「女神」という最強の「アイテム」を手に入れて無双(思うままに暴れまわる)できると思っていたカズマだったが、ほどなくしてこの女神がとんでもないポンコツであることに気づく。女神だから強力な回復魔法や神聖魔法を使えるのだが、頭が悪くて意地汚く自分勝手なのだった。一方のカズマは異世界に転生したからといって特別な力を持つわけでもなく、最弱職のレベル1の冒険者でおまけに装備もなく、まともな冒険すら出来ないありさまだった。
ファンタジーものなのにアルバイト生活で馬小屋に寝泊まりするのがウケる。そういえば同じ角川スニーカー文庫の深沢美潮「フォーチュンクエスト」にも似ていて、冒険者カードなるゲーム的な仕組みがそのまま存在するメタな世界観になっており、職業やレベルといったシステムだとかスキルを習得するなんていうのがそのまま描かれている。
この作品の面白いところは、主人公カズマのもとにダメダメなパーティメンバーの女の子たちが集まってきて、冒険をしては醜態をさらし、低次元な喧嘩を繰り広げるところ。
女神アクアは知力が極端に低く、そのくせみんなを出し抜いて報酬を独り占めしようとして墓穴を掘ったり、あざとくウソ泣きをして見透かされたりする。こう書くとほんとどうしようもないヒロイン(?)なのだけど、いつも全力で生きているところが魅力的だし、自分に余裕があるときはやさしい。空気が読めないので、感動の場面をぶち壊したり、女神の強力な力を使ってみんなを巻き込んだりする。これだけ強力な力を持っていて自分は女神だと言い張っているのに周りは誰も信じない。
魔法使いのめぐみんは紅魔族という目が赤くて魔力の高いほとんど人間に近い外見の種族で、上級職のアークウィザードなので強力な魔法を使えるのだが、爆裂魔法という魔法を愛していてそれしか使えない。しかもそれを使うと魔力をほとんど使いきって動けなくなってしまう。だから彼女を入れてくれるパーティもないため、必死になってカズマの仲間に入れてもらいたがる。しかし人一倍プライドが高く、バカにされるとすぐにケンカを買う。
女騎士のダクネスは一見なんの非の打ちどころもない金髪美女なのだが、実はとんでもないドMで、モンスターに凌辱される自分を想像して勝手にもだえる。彼女もまた上級職のクルセイダーなのだが、防御力こそ鉄壁なものの攻撃がまったく当たらないというポンコツぶり。カズマに同行してひどい目に遭っている女神アクアやめぐみんを見て、自分も仲間に入れてくれと言ってくる。
ファンタジー世界をパロった抱腹絶倒のコメディであるのに加えて、魔法使いのめぐみん(ロリっ子)や女騎士のダクネス(金髪美女)が主人公カズマにちょっとずつデレてくる恋愛要素まである。めぐみんはまだ13歳だし、ダクネスは実はお嬢様で世間知らずなせいか恋愛に疎く、なんだかんだで頼りになるカズマに対して悪くなく思っていく。しかしカズマもまた経験値が低いため、彼女らの望むような振る舞いが出来ず、なかなかうまくいかない。ちなみに女神アクアはマイペースを貫く。一応カズマのことを悪からず思っているようだが。
ストーリーはまずこの世界で生計を立てていくことから始め、初級クエストから、街を守ったり、魔王軍の幹部を撃退したり、国のために働いたりと段々話が大きくなっていく。しかし精神的にはあまり成長せず、カズマはコロッと死んだりする。ちなみにそのときは女神アクアの後輩エリスに生き返らせてもらうのだけど、エリスもまた時々下界に降りてくる。女神降臨のエピソードもよかった。
いま「異世界もの」と呼ばれるジャンルが非常に流行っていて、そのせいで異世界ものを禁止する小説賞まで出てきたようなのだけど、手堅くて読みやすいので流行るのも無理がないと思う。そんな中でこの作品は、…っていうほどその手の作品を読んでいるわけじゃないのだけど、キャラ同士の遠慮のないやりとりがとても魅力的で、読んでいてほっこりする。いまどきちょっと腹の立つことを言われたからっていきなり手を出すようなことってないと思うのだけど、相手が男だろうと女だろうと取っ組み合いのケンカになるところがいい。
カズマは冒険を経てもなかなかレベルが上がらないが、あらゆる職業のスキルを覚えることが出来て悪知恵がまわるので、シーフ(盗賊)のスキルであるスティール(盗み)を使ってセクハラしたり、低級魔法を習得してみんなの思いもよらない方法で使って敵を撃退したり、人間以外の怪物のスキルを覚えて役立てたりする。
主人公カズマについてもうちょっと書いておくと、こいつの行動原理はとにかく楽をしたいだけ。一応モテたいとか思っているけれど、そのために努力するほどではない、根っからのなまけもの。でも据え膳は頂きたいみたいだし、異世界の風俗(?)に行く話もある。駄女神アクアと同次元のケンカを繰り広げるぐらいに心が小さく、溜め込まずにすぐ発散するカラッとした性格をしている。
もう自分はこの作品のとりこで、死ぬまでに多分あと二回は再読すると思うのだけど、一つ気になる点を言っておくと、めぐみんのデレ描写が絶妙に意味不明なように思えてスッキリしなかった。ラブコメの定番なんかだと、しょうもない行き違いで話を長引かせる展開が多いのだけど、この作品は自分の気持ちも他人の気持ちも分からないという風に各キャラが悩みながら行動している。まあカズマの場合、めぐみんを落とせるなら行ってやる!でも本当に落とせるのか?と毎度苦悩するだけなのかもしれないけど。
で、めぐみんはカズマに対して本当のところどう思っているのか?というのが読み取れなかった。誘っているのかと思えば避けたりするというのはいわゆる女心というものなのだろうけれど、たぶんめぐみんはカズマから安易な流れでアプローチされたくなくて、ちゃんと自分を好きになった上で迫られたいのだと思う。…まあこれは単なる自分の想像であって、めぐみんのそんな気持ちは一遍も描かれていないのだった(照)。
スピンオフと銘打ってめぐみんを主人公にした外伝的シリーズ「この素晴らしい世界に爆焔を!」が全3巻あって、そっちも面白かった。めぐみんが幼馴染の親友(?)ゆんゆんと学園生活を送るところから、里を出て冒険に出かけ、カズマたちに出会うまでのいわゆるエピソードゼロ的な話になっている。作者は本編の補完的な話として描いたらしいのだけど、全部読み終えたあとで考えてみると正直どうもこの外伝を前提として書かれたとしか思えない箇所がいくつか本編にあって、特に彼女の心の師の描写が本編だけだとちょっと感傷的すぎるように思った。ゆんゆんの描写も本編では少ないし。また一方で、外伝を目いっぱい楽しむには紅魔族についてのエピソードを読んでからがいいと思う。やはり外伝と本編は一方的な補完ではなくて相互補完的な作品同士だと思うので、ゆんゆん登場前または5巻を読んでから外伝を読み始め、9巻の前までに外伝を読み終えるのがよいと思う。
RPGやファンタジーが好きな人なら気軽に読める間口が広い作品であり、面白くてほっこりする上にキュンとくる話なので、多くの人に勧めたい。ただし、涙を流して感動したいという人を除いて。
(最終更新日: 2024年4月11日 by ひっちぃ)