マンガ
学園もの
ドラゴン桜
三田紀房 (講談社 モーニングKC)
まあまあ(10点)
2017年2月18日
頭の悪い生徒の集まる底辺校の私立龍山高校は、少子化により生徒を十分に集められなくなり、経営破たんしてしまう。債権者との間に入った元暴走族の弁護士・桜木健二は、龍山高校を進学校化することで経営を立て直そうとする。少年マンガ。
だいぶ前に話題になった作品なので、いずれ読んでみようと思っていたのだけど、きっと面白いんだろうなあと思いつつも、講談社モーニングによくあるヘタな絵、特にこの作品の場合は一巻の表紙でヒゲのおっさんが「教えてやる!東大は簡単だ!!」とほざいているのを見るとやっぱり抵抗があり、ようやく今になって手に取って読む気になれた。
結論からいうと割と面白かった。東大は簡単とまではいかないと思うけれど、難関私大と比べたら試験問題に対応しやすいし、受験生の思い込みの裏を突く意外なポイントに説得力があって、この非常識(?)な筋書きに最低限の現実性を与えていると思う。一番定員の多い理Iを狙うだとか、受験生が切り捨てがちな科目を逆に拾っていくだとか、読んでいてなるほどと思った。でも少し考えてみると、しっかり考えさせる数学で一問でも解けるようになるまでたった十か月で到達するのって本当に可能なんだろうかとか、微妙な感じはする。
作品のほとんどは、勉強のいいやり方、テストでのテクニック、体調管理やメンタルの持っていきかたといった受験のための知識が中心となっている。底辺校の中でやる気を見せた男女一人ずつを特別進学クラスの生徒として教科ごとの特任講師が教えるのだけど、生徒たちのドラマとか学校の危機だとかいった物語はそれほど重視されておらず描写が薄い。そのせいもあって、7巻ぐらいで飽きて読むのをやめようかとも思ったのだけど、なんだかんだで先が気になって読んでいるうちに楽しく読み終えることが出来た。
というわけなので、この作品を楽しめるかどうかは受験のための知識を面白く思えるかどうかに掛かっていると思う。果たして日本国民の何パーセントが楽しめるんだろうか。よく普通の青年マンガ誌で連載が続いたと思う。日本の大学進学率がそもそも半分しかないし、受験のいいやり方に興味を持てる層なんて一割もいないんじゃないだろうか。
主人公はたぶん高卒弁護士・桜木健二なのだと思うのだけど、こいつは結局エラそうに自分のやり方を押し通すだけで終わってしまった。こいつの天敵であるはずの債権者とのやりとりがほとんどないし、周りを自分の味方(特任講師)で固めているので意見が通らないことなんてほとんどなく、ただただ作品の中で君臨し、思い込みに縛られた哀れな教師たちをやり込めている。こいつ自身がなぜいったんドロップアウトしてその後に司法試験に受かって弁護士をやっているのかについて結局まったく語られない。
物語は大したことないけれど、いまの社会に対しての問題意識の喚起はあって、生徒の自主性がどうのとか伸び伸びとした教育だとかクソくらえみたいなのはとても良かったと思う。なかでもハッとさせられたのは、学校は楽しい思い出を作るためにあるのではなく、満ち足りない思いを抱かせるのが何より重要なのだと言っていたことだった。俗っぽい言葉で言うとハングリー精神なんだろうか。勉強だけでなく、恋愛でも趣味でもスポーツでも、あんなことしたいだとかもっと高みに登りたいだとか、そういった向上心みたいなものを育てる場であるべきだと語っていたところにはちょっと感動した。逆に「足るを知る」みたいなことも人間には重要なのだけど、若者にとってみればそんなものは毒にしかならない。
東大に対する問題意識みたいなものはまったく語られず、とにかく素晴らしい大学だということで一貫している。事実だけ見ても東大の出身者にそれほどノーベル賞受賞者がいないし、予算規模の割に成果が大きいわけでもない。文系は官僚や役人となるような人を養成するのが主な目的だし、身内に有利になるような試験問題にしていると言っている人もいる。それに、とにかく入ってから考えろと言っているけれど、勉強が好きな人が入るべきだと思う。入ったもん勝ちってのは個人にとっては正しいのだけど、社会的には効率が悪い。
言い忘れていたけれど、題の「ドラゴン桜」とは、舞台である龍山高校の龍にちなんで名づけられた(?)桜の木のこと。普通に考えると頭の悪いネーミングだと思うのだけど、なぜこれを題にしようと思ったのだろう。インパクト?
もし自分が受験の前にこの作品に出会っていたら偏差値が上がっていたと思うのだけど、もう遅いんだよなあ。まあ自分は別に受験には失敗はしなかったし、もう歳のせいか東大に行けていたらと思うこともないのだけど。というわけで、これから受験という人は、ぜひ読むことを勧めたい。ちなみにこの作品とは関係ないけれど、自分は英単語をもっと暗記していたら良かったなとは思った。特にこのインターネットが当たり前の時代に、英語で書かれた情報をよく見るのだから。別に大学に入ってからでも社会人になってからでも遅くはないんだろうけれど、このとき勉強していたら受験にも役立ってちょうどよかったと思う。
英語といえばこの作品に出てくる英語の教師がホモくさいタンクトップの男で、ダンスを取り入れながら歌で英語の感覚を掴むとかやっていたのだけど、自分が初めて中学で英語を習ったときもちょっとエキセントリックな英語教師がビートルズのHello, Good-byeという曲から始めて歌を重視したりリズムに乗って英文を読んだりするのをやっていたのを思い出した。当時はいいのか悪いのか判断できなかったけれど、いまこうして思い返してみると良かったんだなあと思った。一方で自分はLの発音でつまずいたのでヒアリングやスピーキングがダメだった。個別に指導してくれていれば良かったのにと思う。
すでに言ったとおり、この作品にはそれほど物語性がないので、受験知識や教育問題で楽しめる人でなければつまらないと思う。一応、男子生徒が金持ちのボンボンで兄貴二人がまあまあできるのに自分は中学受験だかに失敗して親の期待や失望に晒されていただとか、女子生徒のほうは母子家庭で母親がスナックの経営をしていて学歴なんぼのもんだという考えの持ち主でこんな環境から抜け出したいと思っているだとかあるのだけど、この部分だけで作品を楽しめるかというと微妙だと思う。絵もヘタで半魚人みたいな目をしていて魅力を感じないし。
結末は良かったので、安心して最後まで読んでいいと思うけれど、一方で尻切れ感もあった。このラストは記憶に残らないと思う。なにか作者的にこだわりのある終わり方にしたんだろうか。
だいぶ前に話題になった作品なので、いずれ読んでみようと思っていたのだけど、きっと面白いんだろうなあと思いつつも、講談社モーニングによくあるヘタな絵、特にこの作品の場合は一巻の表紙でヒゲのおっさんが「教えてやる!東大は簡単だ!!」とほざいているのを見るとやっぱり抵抗があり、ようやく今になって手に取って読む気になれた。
結論からいうと割と面白かった。東大は簡単とまではいかないと思うけれど、難関私大と比べたら試験問題に対応しやすいし、受験生の思い込みの裏を突く意外なポイントに説得力があって、この非常識(?)な筋書きに最低限の現実性を与えていると思う。一番定員の多い理Iを狙うだとか、受験生が切り捨てがちな科目を逆に拾っていくだとか、読んでいてなるほどと思った。でも少し考えてみると、しっかり考えさせる数学で一問でも解けるようになるまでたった十か月で到達するのって本当に可能なんだろうかとか、微妙な感じはする。
作品のほとんどは、勉強のいいやり方、テストでのテクニック、体調管理やメンタルの持っていきかたといった受験のための知識が中心となっている。底辺校の中でやる気を見せた男女一人ずつを特別進学クラスの生徒として教科ごとの特任講師が教えるのだけど、生徒たちのドラマとか学校の危機だとかいった物語はそれほど重視されておらず描写が薄い。そのせいもあって、7巻ぐらいで飽きて読むのをやめようかとも思ったのだけど、なんだかんだで先が気になって読んでいるうちに楽しく読み終えることが出来た。
というわけなので、この作品を楽しめるかどうかは受験のための知識を面白く思えるかどうかに掛かっていると思う。果たして日本国民の何パーセントが楽しめるんだろうか。よく普通の青年マンガ誌で連載が続いたと思う。日本の大学進学率がそもそも半分しかないし、受験のいいやり方に興味を持てる層なんて一割もいないんじゃないだろうか。
主人公はたぶん高卒弁護士・桜木健二なのだと思うのだけど、こいつは結局エラそうに自分のやり方を押し通すだけで終わってしまった。こいつの天敵であるはずの債権者とのやりとりがほとんどないし、周りを自分の味方(特任講師)で固めているので意見が通らないことなんてほとんどなく、ただただ作品の中で君臨し、思い込みに縛られた哀れな教師たちをやり込めている。こいつ自身がなぜいったんドロップアウトしてその後に司法試験に受かって弁護士をやっているのかについて結局まったく語られない。
物語は大したことないけれど、いまの社会に対しての問題意識の喚起はあって、生徒の自主性がどうのとか伸び伸びとした教育だとかクソくらえみたいなのはとても良かったと思う。なかでもハッとさせられたのは、学校は楽しい思い出を作るためにあるのではなく、満ち足りない思いを抱かせるのが何より重要なのだと言っていたことだった。俗っぽい言葉で言うとハングリー精神なんだろうか。勉強だけでなく、恋愛でも趣味でもスポーツでも、あんなことしたいだとかもっと高みに登りたいだとか、そういった向上心みたいなものを育てる場であるべきだと語っていたところにはちょっと感動した。逆に「足るを知る」みたいなことも人間には重要なのだけど、若者にとってみればそんなものは毒にしかならない。
東大に対する問題意識みたいなものはまったく語られず、とにかく素晴らしい大学だということで一貫している。事実だけ見ても東大の出身者にそれほどノーベル賞受賞者がいないし、予算規模の割に成果が大きいわけでもない。文系は官僚や役人となるような人を養成するのが主な目的だし、身内に有利になるような試験問題にしていると言っている人もいる。それに、とにかく入ってから考えろと言っているけれど、勉強が好きな人が入るべきだと思う。入ったもん勝ちってのは個人にとっては正しいのだけど、社会的には効率が悪い。
言い忘れていたけれど、題の「ドラゴン桜」とは、舞台である龍山高校の龍にちなんで名づけられた(?)桜の木のこと。普通に考えると頭の悪いネーミングだと思うのだけど、なぜこれを題にしようと思ったのだろう。インパクト?
もし自分が受験の前にこの作品に出会っていたら偏差値が上がっていたと思うのだけど、もう遅いんだよなあ。まあ自分は別に受験には失敗はしなかったし、もう歳のせいか東大に行けていたらと思うこともないのだけど。というわけで、これから受験という人は、ぜひ読むことを勧めたい。ちなみにこの作品とは関係ないけれど、自分は英単語をもっと暗記していたら良かったなとは思った。特にこのインターネットが当たり前の時代に、英語で書かれた情報をよく見るのだから。別に大学に入ってからでも社会人になってからでも遅くはないんだろうけれど、このとき勉強していたら受験にも役立ってちょうどよかったと思う。
英語といえばこの作品に出てくる英語の教師がホモくさいタンクトップの男で、ダンスを取り入れながら歌で英語の感覚を掴むとかやっていたのだけど、自分が初めて中学で英語を習ったときもちょっとエキセントリックな英語教師がビートルズのHello, Good-byeという曲から始めて歌を重視したりリズムに乗って英文を読んだりするのをやっていたのを思い出した。当時はいいのか悪いのか判断できなかったけれど、いまこうして思い返してみると良かったんだなあと思った。一方で自分はLの発音でつまずいたのでヒアリングやスピーキングがダメだった。個別に指導してくれていれば良かったのにと思う。
すでに言ったとおり、この作品にはそれほど物語性がないので、受験知識や教育問題で楽しめる人でなければつまらないと思う。一応、男子生徒が金持ちのボンボンで兄貴二人がまあまあできるのに自分は中学受験だかに失敗して親の期待や失望に晒されていただとか、女子生徒のほうは母子家庭で母親がスナックの経営をしていて学歴なんぼのもんだという考えの持ち主でこんな環境から抜け出したいと思っているだとかあるのだけど、この部分だけで作品を楽しめるかというと微妙だと思う。絵もヘタで半魚人みたいな目をしていて魅力を感じないし。
結末は良かったので、安心して最後まで読んでいいと思うけれど、一方で尻切れ感もあった。このラストは記憶に残らないと思う。なにか作者的にこだわりのある終わり方にしたんだろうか。