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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 13巻まで

愛七ひろ (KADOKAWA 富士見書房ノベルス)

傑作(30点)
2018年7月7日
ひっちぃ

アラサー(三十歳前後)のゲームプログラマー鈴木一郎は、ゲーム開発の最後の追い込みで力尽きて仮眠をとり、気が付くとファンタジーロールプレイングゲームの世界の中の荒野にいた。訳の分からないうちに鱗のあるトカゲ人たちの軍団に襲われたので、初心者救済用に用意していた超強力な隕石魔法を使ってなんとか撃退し、大量の経験値を得てものすごくレベルアップする。この世界に戸惑いながら、元の世界に戻る方法を探しつつ世界を観光するうちに、奴隷の子供たちを助けて一緒に行動するようになる。ライトノベル。

アニメ化されたのを見て、なんだかんだでずっと流行っている異世界ものの中でそれなりに面白かったので、この原作小説に手を出してみた。結構面白かった。

この作品はいわゆる「異世界もの」で「俺TUEEE」つまり無双するジャンルの作品なのだけど、この作品ならではの点として一番に挙げたいのが仲間になった女の子たちを育てていくこと。虐げられていた半獣人の奴隷の女の子三人を成り行きで助けて、武器を持たせて戦わせる。この手の作品は自分が相当強いので一人でなんでもできてしまい単調になりがちなのだけど、仲間の女の子たちに色々とやらせてレベルを上げさせたりスキルを身につけさせたりするところが楽しい。

最初に仲間になるのは犬人のポチと猫人のタマと橙鱗族のリザで、名前はそれぞれ主人公サトゥーが名づけた。主人公の本名は鈴木一郎なのだけど、よく佐藤さんに間違われるので、ゲームをテストするときによくサトゥーという名前をつけていたのがそのままになっている。ポチとタマは子供で、うれしいときは思いっきり尻尾を振り、おびえているときは耳をぺたんと伏せたり尻尾を足の間に入れたりする描写があって、なんかとてもかわいい。リザは大人の女性で、普段は慎み深いのだけど、半獣人だけあってか肉が好きで目がない。

この三人は奴隷なのだけど、解放されたいとは思っていない。奴隷というのは自由になりたいものなのだという現代人の思い込みがあるのだけど、生まれながらの奴隷にはそもそも自由というものが分からないし、良い主人に仕えることが望みになっている。解放しようとすると見捨てられるんじゃないかと思って嫌がる。なにげにこのあたりがリアルで、凡百の異世界ものと違って世界観がしっかりしていて読みごたえがあった。

ルルとアリサの姉妹も拾う。アリサもまたサトゥーと同様にこの世界に召喚された日本人なのだけど、サトゥーと違って色々うまくいかずに奴隷の身分に落とされていた。現代の日本から何かしらの力によってこの世界に人を呼び寄せることが出来るという設定になっているのだけど、誰の意志で一体なんのために呼んでいるのかというのがいまのところほとんど描かれていない。アリサは召喚されたときに西洋人の美少女になったのに対して、異母姉のルルは召喚された祖父を持つ現地人(?)で、東洋風の超絶美少女なのだけど、この世界の審美的にはブサイクと見られて慎み深く育っている。アリサは召喚されたときにユニークなスキルを得ており精神魔法を使えるが、ルルにはこれといった特別な能力はない。

次にエルフの幼い女の子ミーアを助けて、彼女を故郷の森に連れていくことになる。この世界のエルフは寡黙で最低限のことしか言わないのだけど、興奮すると長くしゃべるのがかわいい。いつもは何かしゃべりはじめるときに大体「ん」と言ってから話始めるところとか、半獣人たちと違って肉が嫌いで野菜中心の食べ物が好きというところとかが個性的でよかった。

ホムンクルス(人造人間)のナナはエルフの訓練施設の中で作られた戦闘人形で、急激に成長させられているのか体は成熟しているが精神は幼く、論理的な思考能力はあるけれど無垢でよくわかっていないというあざといキャラ。巨乳。

ほかにも仲間にはならないけれど各エピソードでゲストとして登場するヒロインも何人かいて、大体主人公サトゥーのことを好きになる。ハーレム状態になるのだけど、サトゥー自身は彼女たちを恋愛対象とは思っておらず、隙を見て街のいかがわしい店に行こうとするのが笑える。行くだけじゃなくてちゃんとサービスしてもらったという一文まであるのがウケる。といっても大体アリサとミーアに阻止される。リザとは信頼関係みたいな感じなのが微笑ましい。

主人公がもともとプログラマーなので、魔法の道具の作成を身につけていく。この世界の魔法の道具は回路みたいなものを組む必要があるのでプログラミングに通じるものがあり、元の自分の技術が活きている。元の世界の知識が活きるのはありがちなのだけど、何かを構築する技術を持っているというのが自分には面白かった。

途中のムーノ男爵領で領地を危機から救う働きをし、貴族の末席に叙される。ここから貴族社会に関わっていくことになる。最初は若いのに腕が立つというだけの若造に見られるのだけど、色んな人を助けるうちに人脈が広がり、メキメキと頭角をあらわしていく。サトゥーはほぼ無敵といっていい力を持つのだけど、この世界の知識に欠けているほか、巻物の製造方法など自分一人ではできないことがまだまだあるので、仲良くなった人たちとギブアンドテイクでやっていく。

主人公サトゥーは他にも特別な能力を持っていて、ゲームのように全体マップを見ることができたり、潤沢なスキルポイントを自由に割り振って様々な能力を身につけることが出来たりする。調理スキルに割り振って料理の名人になり、貴族社会で腕をふるい社交界の人気者になる。その身一つで無敵な主人公が無双するような作品と違い、主人公が新たな知識を蓄えて装備や道具を作ったり仲間を育てたり味方を増やしたりして有利な状況を構築していくというのがとても楽しい。

ただ、読んでいて気に入らない点もいくつかあった。大きな不満から言っていくと、空に浮かぶ王国(?)の巻は話全体が安直すぎてつまらなかった。悲劇のヒロイン的なシリアス展開だし、あの姉妹の設定がちょっと入り組んでいて理解しづらくてあまり入っていけなかった。

ハイエルフのヒロインに対してサトゥーが露骨に惚れるのだけど、ヒロインもサトゥーも描写が雑すぎて読んでいてイライラした。数千年も生きているハイエルフがそもそもあんなに感情豊かなはずはないし、他のヒロインたちにはピクリともしなかったのになぜこいつにだけ魅かれるのかよく分からなかった。あと、エルフの里の危機に立ち向かう話は未知の敵がSFっぽくて好きになれなかった。

女の子が多すぎる。カリナ様あたりからぞんざいな感じがした。初めてのお嬢様系ヒロイン(?)だったと思うんだけど、こいつの切迫した事情が伝わってこないので(主人公が強すぎるせいもあると思う)、空回りさせておこう的な空気になっちゃってるように思った。

主人公サトゥーは実年齢が三十前後ぐらいなのだけど、ゲームの中の世界に入った時点でゲームキャラと同じ若者になっている。この設定はなんだかよく分からなかった。ショタコン(小さな男の子好き)のアリサしか得をしていないような…。

最初は弱かったポチやタマたちが最新刊ではなんだかんだで一流冒険者ぐらいに育ってしまっている。でも仲間の輪はどんどん広がっているので、育成の輪は続いていく。

主人公が時々仲間と離れて単独行動をすることがあるのだけど、そういう場面になると大体消化試合的なつまらなさを感じた。主人公が強すぎて一人で完結してしまう。意外な発見とかもあるのだけど、へええそうなんだ、ぐらいにしか感じなかった。

と色々不満もあるのだけど、自分の読みたかった話にだいぶ近いので楽しんで読めた。このままどんどん話が進んで、永代貴族になって領地経営したり、あげく国を盛ったりするようになったらもっと楽しいだろうなあ。そうなったらなったでまた色々問題が起きるだろうし。

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