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ヒナまつり 15巻まで

大武政夫 (KADOKAWA ハルタコミックス)

傑作(30点)
2018年9月17日
ひっちぃ

商売上手なインテリヤクザ新田義史のもとに、突如として超能力者の女の子ヒナがやってきた。世間のことをなにも知らないヒナはわがまま放題に振る舞い、超能力を使って新田を脅し、新田の家で無気力なぐうたら生活を決め込むのだった。少年マンガ。

2018年にアニメ化されたのを見てとても面白かったので、この原作本に手を出してみた。やっぱり面白かった。

やくざと超能力者の組み合わせというと、やくざが超能力者の力を利用してのし上がっていくのかと思うところなのだけど、新田には良識があるので基本的にそんなことはさせない。ヒナは謎の組織によって生み出された超能力者なのだけど、大人に利用されることになんとなく嫌気がさしていたのか、自分に何もさせようとしない新田に居心地の良さを感じ、家でゴロゴロとゲームばかりしてすごす。

そんなヒナのもとに、別の超能力少女アンズが送り込まれてくる。組織を逃げ出した(?)ヒナを連れ戻そうとするが、ヒナの圧倒的な力の前に敗れる。おまけに帰る手段も失った彼女は、お金がないのでコンビニの商品を万引きしたりして生計を立てようとするが、ホームレスの男に拾われて生き方(?)を教わるようになる。

ヒナが突然学校に行きたいと言い出す。「新田ヒナ」ということにしてうまいこと中学校に編入するが、別に勉強したいわけでもないのでずっと昼寝ばかりしている。本人は給食を食べるために学校に行っていると思っている。

この作品の何が面白いかって、すごい超能力を持った少女ヒナが無気力で流されやすい性格をしていて、それでも周りを見て困ったことが起きたら力を使って解決するのだけど、やり方がスマートではなく毎回グダグダした感じで終わるところだろうか。

結局なんだかんだでヒナは新田が窮地に陥ると助けるので、組での新田の立場も上がっていく。でもみんなヒナの力のことを知らず、特に組長からは孫娘のようにかわいがられている。

新田は独身なのでバーの女主人の詩子を口説いているが、ヒナがバーにも顔を出すようになり、コブつきだと思われて色々うまくいかない。ヒナを追いかけてバーに入ったクラスメイトの三嶋瞳は、そこで店員と間違われてお酒を作らされ、中学生なのにそこでバイトをする羽目になる。生真面目な彼女は周りの大人の言うことを聞いているうちに大人たちから持ち上げられていく。

いわゆるやさしい世界というか、ほのぼのとした日常もので、時々不意打ちのように感動のエピソードが挟まれるけれど、大体グダグダしたオチがつけられる。三嶋瞳が成功しすぎてだんだんうざくなってきた。

ヒナとアンズに加えて途中でマオが超能力少女の中に加わる。こいつはそこそこ頭もよくて良識持ちなのだけど、さみしがりやなので逆にヒナやアンズに世話を焼かれる。

確か単行本の十巻ぐらいでいきなり三年の時が立ち、ヒナたちは高校生になっている。ヒナがちょっと大人びた感じになるのがとてもよかった。あいかわらずヒナは学校で昼寝ばかりしているけれど、やくざの娘と思われながらもクラスメイトと少し打ちとける。中学の頃は完全なトラブルメーカーだったけれど、高校に入ってからは新田や周りのことを気遣って意識的にフォローするようになる。

この作品にあえてケチをつけるとすると、若い男キャラが主要登場人物にいないことだろうか。新田もホームレスも教師もみんないいキャラなんだけどおっさんばっか。ヒナが高校生になってから同級生の比較的仲のよさそうな男の子が出てきたけれど、まだキャラがうすい。あ、こいつは中学の頃の課外活動でヒナの超能力のことを知ったやつか。いまWikipedia見ていて気付いた。斑鳩さんのキャラやストーリーが投げやりすぎる。最終的にクスッとくるけど。

アニメだと女キャラ全員同じような顔の形をしていたので、作者の絵がヘタなのかと思ったけれど、原作を読んでみると別にそんな感じはしなかった。アニメのキャラデザがヘタなのか、大勢で描くアニメ絵だと欠落してしまう微妙かつ決定的な描き分けがあるのか、あるいは単に自分が作品に愛着を持つようになって違いを認識できるようになっただけなのか、果たしてどれが正解なのか分からない。

気楽に楽しめる読みやすい作品である上に、ちょっと社会派で人情的な感動話まであるという非常によくできた作品なので、若くてかわいい男の子が目当ての人以外には広く勧める。

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