マンガ
幼女戦記 コミック版 15巻まで
原作:カルロ・ゼン 漫画:東條チカ (KADOKAWA 角川コミックス・エース)
まあまあ(10点)
2019年9月22日
幼少期の挫折により社会での効率よい生き方を知りエリートサラリーマンになった男が、人の恨みを買って殺され、創造主を名乗る老人の前に引き立てられた。神を信じぬ男は非科学的だと盾突いて怒りを買い、人々が信仰にすがって生きる戦争真っただ中の並行世界に非力な女として前世の記憶を保ったまま生まれ変わらせられる。オンライン小説が原作のマンガ。
アニメ化されたのを見て11歳の幼女がドイツ風の軍服を着て銃を構えて空を飛んで部隊を率いている様子がどうにも受け入れられなかったので確か一話の途中で見るのをやめたのだけど、人気のある作品だというのであらためて見てみることにした。おもしろかった。
なぜ幼女が軍隊にいるのかというと、この世界には魔法があり、魔法の才能があれば幼女ですら戦争に狩りだされるから。しかも孤児として生まれ変わったのでなおさらだった。
基本的には第二次世界大戦の頃のナチスドイツのような「帝国」の軍隊のなかであちこち転戦させられるのが筋書きとなっている。現実と違っている点として「航空魔導兵」と呼ばれる魔法が使える空飛ぶ兵士たちで構成される部隊が存在している。ヒロインの幼女ことターニャ・デグレチャフもこの航空魔導兵で、現実の航空機に乗ったパイロットのように活躍する。しかしこの世界には同時に普通の航空機もあってややこしい。両者は似たような運用をされるけれど、魔導兵はスタミナの問題があるのと、魔法を使うと魔導反応と呼ばれる独特の波動を周囲に飛ばして感知されてしまうことだろうか。
ほかに違っている点としてこの世界は第一次世界大戦を経験していない。これが実際にどう影響するのかというと、たぶん第一次世界大戦で人類が経験したこともいっしょくたに作中に描写したいからなんじゃないかと思う。ヒロインのターニャは前世の記憶を持っており歴史にも詳しいので、色々と考察して出来るだけ自分に災厄が降りかからないよう振る舞おうとする。
題からして「幼女」戦記なので幼女の萌え要素があちこちにちりばめられているかというとまったくそんなことはなく、なにせ中身が壮年のひねた男なので基本的にはまったくかわいげがなく、敵に襲い掛かるときなんかは鬼気迫る顔つきがドアップで描かれる。部下に対しても容赦なく苛烈な訓練をさせたり、逆に実際の戦場では(あくまで自分本位ではあるが)部下の安全に配慮したり大人のジョークを連発して和やかな雰囲気にしたりする。周りも彼女のことを優れた軍人として尊重しており、決してその外見で侮ったりはしない。でも彼女は疲れたときについ部下にもたれかかって居眠りをしてしまったり、差し入れにチョコレートとコーヒーをもらって喜んでしまったりと、時折外見の年相応に幼女っぽい部分が漏れてホッコリさせられることもある。でもそういう場面は本当に少ないので期待しないほうがいい。
この作品の一番の魅力は、かつての世界大戦を現代に生きる私たちの視点で再体験できることだと思う。まずこの時代は戦争の概念自体が変わったこと。敵の大将の首を取るだとか軍隊同士が戦うとかではなく、国民全体が軍隊や生産活動に駆り出されて戦ったり攻撃目標になったりする総力戦になったり、塹壕戦や電撃戦や沿岸要塞の内陸からの攻略といった世界戦史を彩る様々な戦術や戦略が実行され、それが当事者の視線で描かれる。
次に主人公は早く後方や閑職に回されて安全な場所で悠々自適の生活を送りたいのに、行く先々で大活躍してしまい英雄として最前線にばかり送り込まれること。やる気のないそぶりを見せようとしたり、非情なふりをして嫌われようとしたりするのだけど、その意図が曲解されてますます高く評価されてしまう。このあたりが笑いどころとして頻繁に描かれているのだけど、正直自分はあまり笑えなかった。ちょっと露骨すぎると思う。でも逆に相手から蛇蝎のごとく嫌われているにも関わらず当人としては友好が築かれていると思っているところはとても面白かった。
問題点として、主人公は幼女に転生しているので幼女としての物語も中の人としての合理的な思考の持ち主としての物語も希薄であること。幼女としては同年代の仲間はいないし上司や部下とは仕事上の付き合いしかない。例外的に士官学校の同期で親交を持っているウーガがいるけれどめったに出てこないし、主人公は参謀本部のレルゲンを勝手に友と思っているがひどい勘違いだったりする。また、中の人としては肉体が既に死んでいるし昔のことを回想することもほとんどない。失敗はするけれどあくまで合理的に考えた中でのミスとするので成長や教訓があるとしてもその範囲内に限られる。
絵は人物の等身が高く少女マンガっぽい。ヒロインの「幼女」ターニャはかわいいときはかわいい。副官のヴィーシャはオフのときは少女のように振る舞いつつ仕事中は真面目な大人の女性として行動して両方ともかわいい。その他、登場人物のほとんどは軍人の男ばかりでヒゲの生えたおじさんとか野心的な若い男とかばかりなのだけど、ちょっと線が頼りない感じがする点を除けば世界観に合った素晴らしい絵だと思う。
各エピソードの間に用語を解説してくれている。こういうのって自分はマンガをテンポよく読むのを邪魔されるようで基本的にあまり好きではないのだけど、この作品についてはもともと自分の興味ある話であるせいかほとんど気にならないというかむしろすすんで読んだ。作品を楽しむ上であったほうがいい知識を説明してくれているので読むことを勧める。まあかといって読まないと作品を楽しめないというわけではないので好きにするといい。
結局のところこの作品は、かつての世界大戦を扱った娯楽作品なのだと思う。しかし戦争を扱った作品であれば戦争は悲惨なんだとか人道的なテーマが扱われるものなのだけど、主人公もさすがに大量の死にはやるせなさも感じるものの仕方ないと考えてそんなに迷いなく手を血に染め続けている。自分はそういう現実的な視点が大好きなのだけど、多くの人にとってはそうではないと思う。
アニメ化されたのを見て11歳の幼女がドイツ風の軍服を着て銃を構えて空を飛んで部隊を率いている様子がどうにも受け入れられなかったので確か一話の途中で見るのをやめたのだけど、人気のある作品だというのであらためて見てみることにした。おもしろかった。
なぜ幼女が軍隊にいるのかというと、この世界には魔法があり、魔法の才能があれば幼女ですら戦争に狩りだされるから。しかも孤児として生まれ変わったのでなおさらだった。
基本的には第二次世界大戦の頃のナチスドイツのような「帝国」の軍隊のなかであちこち転戦させられるのが筋書きとなっている。現実と違っている点として「航空魔導兵」と呼ばれる魔法が使える空飛ぶ兵士たちで構成される部隊が存在している。ヒロインの幼女ことターニャ・デグレチャフもこの航空魔導兵で、現実の航空機に乗ったパイロットのように活躍する。しかしこの世界には同時に普通の航空機もあってややこしい。両者は似たような運用をされるけれど、魔導兵はスタミナの問題があるのと、魔法を使うと魔導反応と呼ばれる独特の波動を周囲に飛ばして感知されてしまうことだろうか。
ほかに違っている点としてこの世界は第一次世界大戦を経験していない。これが実際にどう影響するのかというと、たぶん第一次世界大戦で人類が経験したこともいっしょくたに作中に描写したいからなんじゃないかと思う。ヒロインのターニャは前世の記憶を持っており歴史にも詳しいので、色々と考察して出来るだけ自分に災厄が降りかからないよう振る舞おうとする。
題からして「幼女」戦記なので幼女の萌え要素があちこちにちりばめられているかというとまったくそんなことはなく、なにせ中身が壮年のひねた男なので基本的にはまったくかわいげがなく、敵に襲い掛かるときなんかは鬼気迫る顔つきがドアップで描かれる。部下に対しても容赦なく苛烈な訓練をさせたり、逆に実際の戦場では(あくまで自分本位ではあるが)部下の安全に配慮したり大人のジョークを連発して和やかな雰囲気にしたりする。周りも彼女のことを優れた軍人として尊重しており、決してその外見で侮ったりはしない。でも彼女は疲れたときについ部下にもたれかかって居眠りをしてしまったり、差し入れにチョコレートとコーヒーをもらって喜んでしまったりと、時折外見の年相応に幼女っぽい部分が漏れてホッコリさせられることもある。でもそういう場面は本当に少ないので期待しないほうがいい。
この作品の一番の魅力は、かつての世界大戦を現代に生きる私たちの視点で再体験できることだと思う。まずこの時代は戦争の概念自体が変わったこと。敵の大将の首を取るだとか軍隊同士が戦うとかではなく、国民全体が軍隊や生産活動に駆り出されて戦ったり攻撃目標になったりする総力戦になったり、塹壕戦や電撃戦や沿岸要塞の内陸からの攻略といった世界戦史を彩る様々な戦術や戦略が実行され、それが当事者の視線で描かれる。
次に主人公は早く後方や閑職に回されて安全な場所で悠々自適の生活を送りたいのに、行く先々で大活躍してしまい英雄として最前線にばかり送り込まれること。やる気のないそぶりを見せようとしたり、非情なふりをして嫌われようとしたりするのだけど、その意図が曲解されてますます高く評価されてしまう。このあたりが笑いどころとして頻繁に描かれているのだけど、正直自分はあまり笑えなかった。ちょっと露骨すぎると思う。でも逆に相手から蛇蝎のごとく嫌われているにも関わらず当人としては友好が築かれていると思っているところはとても面白かった。
問題点として、主人公は幼女に転生しているので幼女としての物語も中の人としての合理的な思考の持ち主としての物語も希薄であること。幼女としては同年代の仲間はいないし上司や部下とは仕事上の付き合いしかない。例外的に士官学校の同期で親交を持っているウーガがいるけれどめったに出てこないし、主人公は参謀本部のレルゲンを勝手に友と思っているがひどい勘違いだったりする。また、中の人としては肉体が既に死んでいるし昔のことを回想することもほとんどない。失敗はするけれどあくまで合理的に考えた中でのミスとするので成長や教訓があるとしてもその範囲内に限られる。
絵は人物の等身が高く少女マンガっぽい。ヒロインの「幼女」ターニャはかわいいときはかわいい。副官のヴィーシャはオフのときは少女のように振る舞いつつ仕事中は真面目な大人の女性として行動して両方ともかわいい。その他、登場人物のほとんどは軍人の男ばかりでヒゲの生えたおじさんとか野心的な若い男とかばかりなのだけど、ちょっと線が頼りない感じがする点を除けば世界観に合った素晴らしい絵だと思う。
各エピソードの間に用語を解説してくれている。こういうのって自分はマンガをテンポよく読むのを邪魔されるようで基本的にあまり好きではないのだけど、この作品についてはもともと自分の興味ある話であるせいかほとんど気にならないというかむしろすすんで読んだ。作品を楽しむ上であったほうがいい知識を説明してくれているので読むことを勧める。まあかといって読まないと作品を楽しめないというわけではないので好きにするといい。
結局のところこの作品は、かつての世界大戦を扱った娯楽作品なのだと思う。しかし戦争を扱った作品であれば戦争は悲惨なんだとか人道的なテーマが扱われるものなのだけど、主人公もさすがに大量の死にはやるせなさも感じるものの仕方ないと考えてそんなに迷いなく手を血に染め続けている。自分はそういう現実的な視点が大好きなのだけど、多くの人にとってはそうではないと思う。
(最終更新日: 2019年9月29日 by ひっちぃ)