マンガ
花とみつばち
安野モヨコ
最高(50点)
2004年6月14日
もてたいと願う平凡(?)な高校生の主人公が、怪しいエステの店員に引きずられたりして、もてる努力をしていく話。
作者は、ハッピーマニアなどの少女漫画でブレイクしていた安野モヨコ。この作品は、この作者がはじめて青年漫画として描いたもの。
女性の作家がどうしてここまで平凡な男子高校生を描けるのか驚かされる。さえない高校生の主人公をファッションに目覚めさせることで、読者にモテ道を指南していくという大胆な造りになっている。
私は主人公と同じことを実践したわけではないが、作中に描かれていることはどれも真実味があり、大いにうなずかされる。たとえば、一点だけ良い服を買えばあとは安物でも引き立つだとか、自信の無い男の気配りより自信のある男の身勝手のほうが女を引きつけるだとか、そういうTIPSが随所に実例としてストーリー中に描写されていく。
かといってマニュアル本の色が濃いわけではなく、主人公の恋物語として描かれており、読んでいて引き込まれる。
太田サクラというヒロインを配したことが、この作品が青年漫画として成功した半分を占めていると思う。いわゆるギャルだが、何かと主人公にちょっかいを出してくる強気なキャラクター。それだけなら男の漫画家が喜んで描くおきまりのキャラなのだが、そこは安野もよこ、露骨な虚像ではなく、あいまいで奥行きのあるキャラになっている。
そして影の主人公(?)の長沢ちゃん。このキャラは安野もよこならではの、実にえぐい性格で、連載中は読者の好き嫌いが分かれたらしい。男の読者からすれば、ごく普通に見える女の子がここまで考えているとは思いたくないはず。女の読者からは、こんな子は確かにいるという声があがったらしい。
男の側の登場人物にも個性があって面白い。主人公のライバルとして出てくる勘違い男だがモテる素質を持っているという男だとか、冴えない工事現場の作業員だが離婚歴二三回で女を引きつける男だとか、不良でとにかく強引な男など。主人公の安易な思い込みを覆す彼らのモテぶり。あるいは主人公から絶大な尊敬を受けながらも主人公の思惑を外れる行動を取る遠藤くん。モテない男の思い込みを砕く彼らの存在はどれもわかりやすい。
最初から最後まで話の展開が充実しているが、特に最終巻は泣ける。ただ残念ながらネタバレになるから書けない。物語が一旦終わったあとで、番外編として数年後のことが語られるのだが、そこでまた泣ける。世の中思い通りにはいかないんだ、というのと、それでもなんとかできるかも、っていうのとで、ただ感傷的になって終わるのではなく、読み終えたあとで元気が出てくるようになっている。読み終えたときから、いつ再読しようかと考えたほど、読後感が素晴らしかった。
私はこの話を、悲しい話として楽しんだ。不屈の主人公はヘコたれないが、それを見るのも悲しい。自分との共通点のある主人公が犯す失敗を見て、悲しく思った。肺腑をえぐるようなエピソードの数々。それをここまでエンターテインメントに仕立て上げた作者は尊敬するしかない。
一応批判的なことも言っておこう。作者は作中に、太田サクラの物語らしきものを小さく扱っている。扱うこと自体は素晴らしいのだが、中途半端とは言わないが、十分に描ききれているとは言えないのではないか。あるいは、ここまで描かなくてもいいのではないか。どのように描かれていれば良かったかとハッキリとは言えないが、どこか引っかかるものを感じる。
作者の次回作をただただ期待する立場ではあるが、安野モヨコにはまだまだ書くべきテーマが残っているだろう。作者自身をより主人公に投影したときに、この人の最高傑作が生まれるんじゃないかと言ってみる。
作者は、ハッピーマニアなどの少女漫画でブレイクしていた安野モヨコ。この作品は、この作者がはじめて青年漫画として描いたもの。
女性の作家がどうしてここまで平凡な男子高校生を描けるのか驚かされる。さえない高校生の主人公をファッションに目覚めさせることで、読者にモテ道を指南していくという大胆な造りになっている。
私は主人公と同じことを実践したわけではないが、作中に描かれていることはどれも真実味があり、大いにうなずかされる。たとえば、一点だけ良い服を買えばあとは安物でも引き立つだとか、自信の無い男の気配りより自信のある男の身勝手のほうが女を引きつけるだとか、そういうTIPSが随所に実例としてストーリー中に描写されていく。
かといってマニュアル本の色が濃いわけではなく、主人公の恋物語として描かれており、読んでいて引き込まれる。
太田サクラというヒロインを配したことが、この作品が青年漫画として成功した半分を占めていると思う。いわゆるギャルだが、何かと主人公にちょっかいを出してくる強気なキャラクター。それだけなら男の漫画家が喜んで描くおきまりのキャラなのだが、そこは安野もよこ、露骨な虚像ではなく、あいまいで奥行きのあるキャラになっている。
そして影の主人公(?)の長沢ちゃん。このキャラは安野もよこならではの、実にえぐい性格で、連載中は読者の好き嫌いが分かれたらしい。男の読者からすれば、ごく普通に見える女の子がここまで考えているとは思いたくないはず。女の読者からは、こんな子は確かにいるという声があがったらしい。
男の側の登場人物にも個性があって面白い。主人公のライバルとして出てくる勘違い男だがモテる素質を持っているという男だとか、冴えない工事現場の作業員だが離婚歴二三回で女を引きつける男だとか、不良でとにかく強引な男など。主人公の安易な思い込みを覆す彼らのモテぶり。あるいは主人公から絶大な尊敬を受けながらも主人公の思惑を外れる行動を取る遠藤くん。モテない男の思い込みを砕く彼らの存在はどれもわかりやすい。
最初から最後まで話の展開が充実しているが、特に最終巻は泣ける。ただ残念ながらネタバレになるから書けない。物語が一旦終わったあとで、番外編として数年後のことが語られるのだが、そこでまた泣ける。世の中思い通りにはいかないんだ、というのと、それでもなんとかできるかも、っていうのとで、ただ感傷的になって終わるのではなく、読み終えたあとで元気が出てくるようになっている。読み終えたときから、いつ再読しようかと考えたほど、読後感が素晴らしかった。
私はこの話を、悲しい話として楽しんだ。不屈の主人公はヘコたれないが、それを見るのも悲しい。自分との共通点のある主人公が犯す失敗を見て、悲しく思った。肺腑をえぐるようなエピソードの数々。それをここまでエンターテインメントに仕立て上げた作者は尊敬するしかない。
一応批判的なことも言っておこう。作者は作中に、太田サクラの物語らしきものを小さく扱っている。扱うこと自体は素晴らしいのだが、中途半端とは言わないが、十分に描ききれているとは言えないのではないか。あるいは、ここまで描かなくてもいいのではないか。どのように描かれていれば良かったかとハッキリとは言えないが、どこか引っかかるものを感じる。
作者の次回作をただただ期待する立場ではあるが、安野モヨコにはまだまだ書くべきテーマが残っているだろう。作者自身をより主人公に投影したときに、この人の最高傑作が生まれるんじゃないかと言ってみる。