マンガ
ワールドトリガー 24巻まで
葦原大介 (集英社 ジャンプコミックス)
傑作(30点)
2022年2月9日
空想近未来の地方都市・三門市で突如空間から怪物が現れて襲ってきたが、見知らぬ一団によってたちまち退治された。その怪物のことを「近界民(ネイバー)」と呼ぶ彼らは「界境防衛機関(ボーダー)」と名乗り、街に住む若者たちを募って鍛え、部隊を編成して戦うのだった。少年マンガ。
気づいたらやたら長くやっているアニメだなあと思って気になっていたのだけど、おそらく普段自分がチェックしていなかった時間帯にやっていたので完全に見逃してしまい、いずれ改めて原作をチェックしようと決めたものの数年がたち(!)、忘れかけていたところへネットでこの作品についてちょこっと触れている書き込みを見つけて思い出したので読んでみた。おもしろかった。
この作品はいわゆるバトルものなのだけど、鳥山明「ドラゴンボール」や尾田栄一郎「ワンピース」などに代表されるいわゆる王道ヒーローものと異なる点として、強いのは空閑遊真(くが・ゆうま)というちびっこで、主人公の三雲修は自分なりの正義の心(?)を持つだけのメガネくんという弱キャラだということ。
物語は三雲修のいる高校に空閑遊馬が転校してくるところから始まる。空閑は都会になじみのない少年なので転校早々色々と衝突するのだけど、なるべく争いを避けようとする三雲に対して空閑は堂々と自分を出して振る舞い、絡んでくる不良をはねのけてしまう。
その後、急に近界民(ネイバー)の怪物が現れて襲ってくるので、実は界境防衛機関(ボーダー)の見習い隊員である三雲修は学校の生徒を守るために奮闘するのだけど、弱いので歯が立たなかったところへ謎の転校生こと空閑遊馬が圧倒的な力を発揮してあっさり倒してしまう。面倒ごとを避けようとする二人はその怪物を三雲修が倒したことにしようとするのだけど、見習い隊員に倒せるはずがないということで疑問に思った組織が探り出して空閑遊馬の存在がバレてしまう。
序盤はグラグラしている三雲修に対して空閑遊馬が天然の正論でまわりを黙らせてしまうのがとにかく楽しい。「挨拶」してきた不良に対して「挨拶」しかえす一方で、空閑遊馬のことを助けようとした三雲修が弱すぎて逆にやられてしまうのを見ても弱いなら黙っていればいいのにと言う。こいつが凝り固まった常識や正義をぶち破っていくところにワクワクした。
そこから色々あって空閑遊馬も界境防衛機関(ボーダー)に入隊することになるのだが、父親から受け継いだ強力な武器(トリガー)は使うなと言われ、一般隊員と同じ武器で戦っていくことになる。強くなって自分の目的を果たしたい三雲修は、空閑遊馬とチームを組んで部隊として戦っていく。
というのがこの作品のメインストーリーなのだけど、実際のところこの作品の大部分は界境防衛機関(ボーダー)の中でのチーム同士の模擬戦が主体となって進んでいく。ネットでもそのことが揶揄されていた。というのも三雲修は幼馴染の小さな少女・雨取千佳が行方不明の兄や友達を探すのを手伝いたいと思っていて、そのためには組織内での自分たちのチームの序列を上げようとランク戦を戦わなければならないからだった。
このランク戦、三人一組になってシミュレーター内の仮想空間での主に銃撃戦をやることになる。なんだかいま流行りの(?)Apex Legendsやスプラトゥーンシリーズを思い起こさせるチーム戦なのが面白い。銃だけでなく近接武器の剣もあるし、銃も遠くから狙撃するスナイパーライフルみたいなのから近距離で弾をばらまくサブマシンガンみたいなものまで、しかも弾は直進するものだけでなく散弾や誘導弾、重量を付加させる特殊なものまであり、隊員たちがそれぞれ創意工夫して自分たちの戦術を磨きあっている。
ランク戦が終わると部隊のランクづけが行われ、A級何位とかB級何位とかでヒエラルキー(階級)が決まる。部隊にはそれぞれ自分たちでデザインしたエンブレムがあり、順位表記とともに制服にバッジでつけられるのが中二魂を揺さぶられる。
個性豊かな隊員たちがたくさん出てきて面白い。紹介したほうがいいんだろうけどたくさんすぎて紹介しきれない。好きかどうかはともかくとして自分が一番気になっているのは香取葉子。すごい気分屋で爆発力のある女の子の隊長なんだけど、チームでの連携がうまくいかなくてよく隊員と衝突している。たぶん普通の作品だったら女王様のように君臨する単純なキャラになっていたんだろうけれど、こいつはうまくいかないことを悩んでいて、自分のせいでもあることを渋々認めつつもなかなか素直になれないところがかわいい。最近の展開では三雲修と臨時でチームを組むことになりイライラしながら自分を抑えているところとか好き(やっぱ好きなんじゃん)。
そろそろ批評に入ると、改めてWikipediaで登場人物を確認するまでもなく、すごい登場人物の数なのだけど、好きなキャラはと言われるとなかなか出てこないことに気づく。みんなそれぞれの考え方で動いていておもしろいのだけど、あまり深堀りされていないと思う。
主要登場人物の中で一番掘り下げられているっぽいのが雨取千佳だと思うんだけど、人を撃てない狙撃手とされる彼女の成長(?)がよくわからなかった。彼女が何を恐れているのか、そしてそれをどう克服していくのか、もやっとしていて全然伝わってこなかった。たぶん、あのとき何もできなかった自分をどうにかしなくちゃいけないと思っているんだろうけど、人を撃てない(?)理由はそれとは別にやさしい性格だからだし、彼女が自分の問題と向き合うこれといったきっかけもないので、結局模擬戦で勝つことしか動機づけがないという微妙な状況だった。模擬戦なので実際には死なないのが痛い。ちなみに模擬戦だけでなく実際に近界民(ネイバー)が襲ってくることもあるのだけど、トリオン体と呼ばれる物質に体が入れ替わっているのでやられても死なない(!)。
近界(ネイバーフッド)の設定がしっくりこない。怪物が襲ってくるのだけど、そのうち人型の近界民(ネイバー)も襲ってくる。なんと言葉も通じる。界境防衛機関(ボーダー)の技術は近界民(ネイバー)のものから来ており遅れているので当然近界民(ネイバー)は玄界(地球)のことを最初馬鹿にしているのだけど、思っていたよりも強いのでだんだん余裕を失っていく。宇宙戦艦ヤマトでデスラー総統が「ヤマトの諸君」と言っているのとちょっと近い感覚でやりきれなくなる。でもそういう古典的なのと違い、近界(ネイバーフッド)といってもいくつもの国に分かれて戦争していたり、同じ国の中でも派閥があったり仲たがいしたりしていておもしろい。
界境防衛機関(ボーダー)にも派閥があって、近界民(ネイバー)をとにかく倒したい主流派のほかに、可能な限り友好を保ちたい穏健派もいる。また、戦うメンバーのほかに、広報や宣伝を担当する幹部や、スカウトしたり技術開発したりする人もいる。
チームのメンバーの中にオペレーターがいるのがちょっと面白かった。戦場には直接赴かず、周囲の情報を集めてメンバーに伝えたり、装備のスイッチをオンオフしたりもする。これ現代戦だと部隊で一番偉い人の仕事だと思うんだけど(映画「ブラックホークダウン」みたいな)、いまのところ作中のオペレーターは全員女性であくまでサポート役ということになっている。現場で連携して戦うのがこの作品でのリーダーの役目のようだった。
こんだけ巻数が進んでも大して話が進んでいないので多分この作品はこんな感じでダラダラと続いていくのだけど、十分楽しいし自分はこのまま続いていってほしいと願っている。でも人に勧めるには弱いかなと思う。近界(ネイバーフッド)と地球との戦いの結末とか、近界への遠征とさらわれた人々の救出はうまくいくのかとか、今後大きな展開が待っているのだけど自分はまったく期待していない。
この作品に一番足りないのは価値観みたいなものだと思う。近界民(ネイバー)とだって分かり合えるんだ、みたいな価値観が押し出されて、主人公がその考えで突き進む熱い物語がありそうなものなのだけど、そういうのが薄い。序盤、空閑遊馬が非常に合理的な考え方で行動していたり、あるいは三雲修がそれに対して自分の信念みたいなものを語るシーンがあったりするのだけど、どうしてそれを放置して物語を進めてしまったのだろう。これだけ個性豊かな登場人物がいるのだから、価値観の衝突が描かれてそれが戦いの中で昇華されるような展開が続けばもっと盛り上がったと思う。
というわけで、ゲームっぽい展開が好きな人や、キャラ萌えしたい人には勧められるのだけど、面白い筋書きや突飛なSF要素や濃い人間ドラマや泣ける感動物語なんかを求めている人は他をあたったほうがいいと思う。
気づいたらやたら長くやっているアニメだなあと思って気になっていたのだけど、おそらく普段自分がチェックしていなかった時間帯にやっていたので完全に見逃してしまい、いずれ改めて原作をチェックしようと決めたものの数年がたち(!)、忘れかけていたところへネットでこの作品についてちょこっと触れている書き込みを見つけて思い出したので読んでみた。おもしろかった。
この作品はいわゆるバトルものなのだけど、鳥山明「ドラゴンボール」や尾田栄一郎「ワンピース」などに代表されるいわゆる王道ヒーローものと異なる点として、強いのは空閑遊真(くが・ゆうま)というちびっこで、主人公の三雲修は自分なりの正義の心(?)を持つだけのメガネくんという弱キャラだということ。
物語は三雲修のいる高校に空閑遊馬が転校してくるところから始まる。空閑は都会になじみのない少年なので転校早々色々と衝突するのだけど、なるべく争いを避けようとする三雲に対して空閑は堂々と自分を出して振る舞い、絡んでくる不良をはねのけてしまう。
その後、急に近界民(ネイバー)の怪物が現れて襲ってくるので、実は界境防衛機関(ボーダー)の見習い隊員である三雲修は学校の生徒を守るために奮闘するのだけど、弱いので歯が立たなかったところへ謎の転校生こと空閑遊馬が圧倒的な力を発揮してあっさり倒してしまう。面倒ごとを避けようとする二人はその怪物を三雲修が倒したことにしようとするのだけど、見習い隊員に倒せるはずがないということで疑問に思った組織が探り出して空閑遊馬の存在がバレてしまう。
序盤はグラグラしている三雲修に対して空閑遊馬が天然の正論でまわりを黙らせてしまうのがとにかく楽しい。「挨拶」してきた不良に対して「挨拶」しかえす一方で、空閑遊馬のことを助けようとした三雲修が弱すぎて逆にやられてしまうのを見ても弱いなら黙っていればいいのにと言う。こいつが凝り固まった常識や正義をぶち破っていくところにワクワクした。
そこから色々あって空閑遊馬も界境防衛機関(ボーダー)に入隊することになるのだが、父親から受け継いだ強力な武器(トリガー)は使うなと言われ、一般隊員と同じ武器で戦っていくことになる。強くなって自分の目的を果たしたい三雲修は、空閑遊馬とチームを組んで部隊として戦っていく。
というのがこの作品のメインストーリーなのだけど、実際のところこの作品の大部分は界境防衛機関(ボーダー)の中でのチーム同士の模擬戦が主体となって進んでいく。ネットでもそのことが揶揄されていた。というのも三雲修は幼馴染の小さな少女・雨取千佳が行方不明の兄や友達を探すのを手伝いたいと思っていて、そのためには組織内での自分たちのチームの序列を上げようとランク戦を戦わなければならないからだった。
このランク戦、三人一組になってシミュレーター内の仮想空間での主に銃撃戦をやることになる。なんだかいま流行りの(?)Apex Legendsやスプラトゥーンシリーズを思い起こさせるチーム戦なのが面白い。銃だけでなく近接武器の剣もあるし、銃も遠くから狙撃するスナイパーライフルみたいなのから近距離で弾をばらまくサブマシンガンみたいなものまで、しかも弾は直進するものだけでなく散弾や誘導弾、重量を付加させる特殊なものまであり、隊員たちがそれぞれ創意工夫して自分たちの戦術を磨きあっている。
ランク戦が終わると部隊のランクづけが行われ、A級何位とかB級何位とかでヒエラルキー(階級)が決まる。部隊にはそれぞれ自分たちでデザインしたエンブレムがあり、順位表記とともに制服にバッジでつけられるのが中二魂を揺さぶられる。
個性豊かな隊員たちがたくさん出てきて面白い。紹介したほうがいいんだろうけどたくさんすぎて紹介しきれない。好きかどうかはともかくとして自分が一番気になっているのは香取葉子。すごい気分屋で爆発力のある女の子の隊長なんだけど、チームでの連携がうまくいかなくてよく隊員と衝突している。たぶん普通の作品だったら女王様のように君臨する単純なキャラになっていたんだろうけれど、こいつはうまくいかないことを悩んでいて、自分のせいでもあることを渋々認めつつもなかなか素直になれないところがかわいい。最近の展開では三雲修と臨時でチームを組むことになりイライラしながら自分を抑えているところとか好き(やっぱ好きなんじゃん)。
そろそろ批評に入ると、改めてWikipediaで登場人物を確認するまでもなく、すごい登場人物の数なのだけど、好きなキャラはと言われるとなかなか出てこないことに気づく。みんなそれぞれの考え方で動いていておもしろいのだけど、あまり深堀りされていないと思う。
主要登場人物の中で一番掘り下げられているっぽいのが雨取千佳だと思うんだけど、人を撃てない狙撃手とされる彼女の成長(?)がよくわからなかった。彼女が何を恐れているのか、そしてそれをどう克服していくのか、もやっとしていて全然伝わってこなかった。たぶん、あのとき何もできなかった自分をどうにかしなくちゃいけないと思っているんだろうけど、人を撃てない(?)理由はそれとは別にやさしい性格だからだし、彼女が自分の問題と向き合うこれといったきっかけもないので、結局模擬戦で勝つことしか動機づけがないという微妙な状況だった。模擬戦なので実際には死なないのが痛い。ちなみに模擬戦だけでなく実際に近界民(ネイバー)が襲ってくることもあるのだけど、トリオン体と呼ばれる物質に体が入れ替わっているのでやられても死なない(!)。
近界(ネイバーフッド)の設定がしっくりこない。怪物が襲ってくるのだけど、そのうち人型の近界民(ネイバー)も襲ってくる。なんと言葉も通じる。界境防衛機関(ボーダー)の技術は近界民(ネイバー)のものから来ており遅れているので当然近界民(ネイバー)は玄界(地球)のことを最初馬鹿にしているのだけど、思っていたよりも強いのでだんだん余裕を失っていく。宇宙戦艦ヤマトでデスラー総統が「ヤマトの諸君」と言っているのとちょっと近い感覚でやりきれなくなる。でもそういう古典的なのと違い、近界(ネイバーフッド)といってもいくつもの国に分かれて戦争していたり、同じ国の中でも派閥があったり仲たがいしたりしていておもしろい。
界境防衛機関(ボーダー)にも派閥があって、近界民(ネイバー)をとにかく倒したい主流派のほかに、可能な限り友好を保ちたい穏健派もいる。また、戦うメンバーのほかに、広報や宣伝を担当する幹部や、スカウトしたり技術開発したりする人もいる。
チームのメンバーの中にオペレーターがいるのがちょっと面白かった。戦場には直接赴かず、周囲の情報を集めてメンバーに伝えたり、装備のスイッチをオンオフしたりもする。これ現代戦だと部隊で一番偉い人の仕事だと思うんだけど(映画「ブラックホークダウン」みたいな)、いまのところ作中のオペレーターは全員女性であくまでサポート役ということになっている。現場で連携して戦うのがこの作品でのリーダーの役目のようだった。
こんだけ巻数が進んでも大して話が進んでいないので多分この作品はこんな感じでダラダラと続いていくのだけど、十分楽しいし自分はこのまま続いていってほしいと願っている。でも人に勧めるには弱いかなと思う。近界(ネイバーフッド)と地球との戦いの結末とか、近界への遠征とさらわれた人々の救出はうまくいくのかとか、今後大きな展開が待っているのだけど自分はまったく期待していない。
この作品に一番足りないのは価値観みたいなものだと思う。近界民(ネイバー)とだって分かり合えるんだ、みたいな価値観が押し出されて、主人公がその考えで突き進む熱い物語がありそうなものなのだけど、そういうのが薄い。序盤、空閑遊馬が非常に合理的な考え方で行動していたり、あるいは三雲修がそれに対して自分の信念みたいなものを語るシーンがあったりするのだけど、どうしてそれを放置して物語を進めてしまったのだろう。これだけ個性豊かな登場人物がいるのだから、価値観の衝突が描かれてそれが戦いの中で昇華されるような展開が続けばもっと盛り上がったと思う。
というわけで、ゲームっぽい展開が好きな人や、キャラ萌えしたい人には勧められるのだけど、面白い筋書きや突飛なSF要素や濃い人間ドラマや泣ける感動物語なんかを求めている人は他をあたったほうがいいと思う。