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東京リベンジャーズ アニメ版 第1クール

原作:和久井建 監督:初見浩一 (テレビ東京系列)

まあまあ(10点)
2022年3月13日
ひっちぃ

26歳でフリーター生活をしていた花垣武道は、テレビのなにげないニュースでかつて自分と付き合ってくれていた元彼女の橘日向がギャング同士の抗争に巻き込まれて事故死したことを知る。次の日、電車のホームから突き落とされた彼は、なぜか12年前の中学生時代に巻き戻る。不良としてイキがり、かわいい彼女もいた人生の絶頂期だったが、その後自分の招いたことにより転落していくまさに直前の時点だった。正統派の不良マンガの作者がタイムリープものを描いた人気作のアニメ版。

2021年の話題作でとりあえず3話まで見て面白かったけれどすぐに続きを見る気になれず、いずれ見ようと思って録りだめていたのをようやくいまになって見てみた。先の展開が気になって割とぐいぐい見ていったのだけど、正直この作品は見なくてよかったんじゃないかと思った。

主人公の花垣武道は不良にあこがれて金髪にボンタン(丈のふくらんだズボン)をはいて似たような仲間とつるんでイキっていた。体格がいいわけでもなくケンカもしたことないのに、近所の中学でブイブイいわせているという知り合いの威を借りようとしてその中学に乗り込んでいったところ、それが実は嘘でボコボコにされ、そこの不良の子分にされて言いなりになってしまう暗黒時代が始まる。その後いろいろあってせっかくいた彼女からも逃げるように地元を飛び出して以後、うだつのあがらない人生を送っていたのがそれまでの彼だった。

こうして人生をやりなおす機会を得た(?)彼が、ケンカに強い本物の(?)不良に立ち向かい、自分の人生を切り開いていく。という彼の成長物語なのかと思いきや、彼はなんと過去と元の時代とを自由に行き来できるのだった。元の時代で事故死した元カノのヒナこと橘日向の運命を変えるため、抗争を起こしたギャングを内側からなんとかしようとする。

彼が踏み出した最初の一歩により不良グループ「東京卍会」のリーダーであるマイキーこと佐野万次郎に気に入られ、そこから問題のギャングがまだ中高生の集まりだった頃にかかわることになる。小柄なのにケンカにやたら強いボスのマイキー、風俗街で拾われて育った大柄で側頭部に竜の入れ墨を入れているドラケンこと龍宮寺堅なんかと、おっかなびっくり仲良くしていく。

自分がこの作品を好きになれない理由は、不良を美化していることではなくて、この作品に出てくる不良があまりかっこよくないからだった。

ケンカに強いオスというのはメスから見てだけでなく同じオスから見てもなにかしら魅力的だと思う。大人に逆らうのはそれなりに痛快だったし、自分にはできないことをやっていたのだから。しかしこの作品のマイキーやドラケンなんかを見ても全然あこがれる気持ちになれなかった。ケンカの強さと周りへの影響力ぐらいしか良いところがない。

最初の抗争は、東京卍会のメンバーの一人が彼女とその家族もろとも敵対勢力からひどいめに合わされるので、みんなでその復讐のために戦うことになる。仲間を大切に思うことは素晴らしいことであり、この場合の解決方法(?)はケンカしかなかったと思う。

でも結局のところ彼らは、自分とその仲間たちのことしか考えていなくて、周りや社会をよくしようということは一切考えていない。大人に押さえつけられているガキどもを解放するんだという気持ちはなくて、むしろ自分たちがそのガキどもに対しても威を張っている。結局やっていることは大人と変わらない。強い者が世の中を好きにできるのだったら自分がその強い者になってやろうということなのだろう。

正統派の不良マンガだったらそれでよかったのかもしれないけれど、より多くの読者からあこがれられるヒーロー像としては全然物足りないと思う。不良じゃない普通の女子供は守るんだとか、これだけは絶対に譲れない何かがあったりとか、なにかしら受け入れられやすい価値観を入れてほしかった。唯一ドラケンだけは芯のあるキャラで、そのせいか人気あるみたいなのだけど、自分はこいつの背景が見えてこなかったので好きになれなかった。

タイムリープものとして安易すぎる。橘日向の弟である直人がタイムリープの鍵となるのだけど、こいつとあと当然ながら主人公だけは改変された世界を自覚できるようになっている。具体的に言うと、12年前から現在に戻ってきたらなんだかんだで直人と連絡が取れて、やりましたよ歴史が変わりましたよ、みたいなやりとりがある(ぬか喜びではあるのだけど)。

橘日向が主人公の花垣武道を好きになる理由もよく分からなかった。こんな不良崩れのどうしようもないガキを好きになるもんなんだろうか。中学生の恋愛にケチをつけるのもどうかと思うけれど、花垣武道のいいところが見えない。

彼は涙もろいヒーローであることが周囲の仲間から語られるけれど、それがどうしたというのだろう。ヒナを助けたい以外の原動力がよくわからない。自分の弱さをどうにかしたいんだろうけれど、逃げないこと以外にない。一方で終盤にマイキーを止めようとしたときに、仲間の意志を無駄にするなと叫ぶのだけど、その行動が彼の一体どういうところから来たのかわからないので全然感動できない。彼の奥底に流れている何かが熱くたぎって行動に出たことによって未来を変えたのなら感動できたと思うのだけど、どうにかしないと未来を変えられないから行動にでたようにしか見えなかった。

この第1クールのクライマックスは、取り返しのつかない過ちを犯してしまった男が暴走したあげく改心する話になっているのだけど、こいつの心の動きなんか結構人間というものが鋭く描かれていていいと思うものの、こいつのやったことがあまりにクズすぎてほとんどの視聴者はこいつの心情を理解できないと思う。

原作は「東京卍リベンジャーズ」だけどアニメ化されたこの作品は「東京リベンジャーズ」と「卍」が抜けている。理由はナチスドイツの象徴であるハーケンクロイツ(鉤十字)と似ているからだと思う。これに関しては卍のほうがはるか昔から存在する上に、ハーケンクロイツは卍を逆向きかつ斜めにしたものであるのに、ユダヤ人団体が抗議してくるので少なくとも世界的に展開しようとする作品には事実上使えないようになっている。ちゃんと説明すれば分かってくれるだろうし、歴史的にも論理的にもまったく問題ないことは明白なのだけど、わざわざめんどうくさいことはしたくないから避けているのだろう。ちなみに日本では作中普通に描かれているけれど、海外版だと卍が消されているらしい。

というわけで、不良文化が好きな人や、SF的なミステリーが楽しめそうな人なら見てみてもいいかもしれないけれど、そうでないなら私みたいに登場人物にこれといって思い入れできずにただ先の展開が気になってダラダラと見続けるだけになりそうなので勧めない。

(最終更新日: 2022年3月13日 by ひっちぃ)

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