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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 2巻まで

壱弐参 (アース・スター エンターテイメント EARTH STAR NOVEL)

駄作(-30点)
2022年4月3日
ひっちぃ

落ちこぼれの魔法使いアズリーは奇跡的な偶然により不老薬を作ってしまい、廃墟に引きこもって五千年の時を使って地道に魔法の鍛錬と研究を行う。そのかたわらには誤って不老薬の残りを飲んで八百年一緒に暮らした犬狼の使い魔ポチがいた。久しぶりに人里に出ようと思い立った二人が仲良く掛け合いをしながら旅をする。ファンタジー小説。

賢者じゃなくて愚者という響きに惹かれ、コミカライズ版(漫画:荒木風羽)のほうを読んでみたらとても面白かったので原作であるこの小説を読んでみた。ちょうどコミカライズ版の8巻手前あたりまでは面白かったのだけど、色々と気に入らない登場人物や展開が目立ってきて楽しめなくなってきたので読むのをやめた。

使い魔ポチがかわいい。ハスキー犬っぽい容姿で知能を持っていてよくしゃべる。生活能力のないアズリーの世話を焼いていて、主を主と思わないふてぶてしい態度が楽しい。主人公アズリーのほうも冗談でポチを毛皮にしようとかおとりにしようなどと売り言葉に買い言葉で、非常に仲のいい主従なのだった。なお、ポチと名付けているけれどアズリーは転生者ではない。ちなみにポチはメスなのだった。

アズリーは魔法使いなのに要領が悪く、普通の人の何倍も魔法の習得に時間が掛かっていたが、老いなくなったため地道に研鑽を続け、なんだかんだで非常に優れた魔法使いになっている。五千年もの間にほとんど失われてしまった魔術を使えるため、外の世界で非常に驚かれ無双する。

題にある「賢者のすゝめ」とは言うまでもなく福沢諭吉「学問のすゝめ」から来ているのだろうけれど、頭のにぶい主人公アズリーが少しでも賢者に近づこうとして、何かいいことをひらめいたら日々書き込むようにしているメモ集みたいなもので、こういうところがちょっとけなげでかわいい。

久しぶりに訪れた人里は、ほとんど廃墟のような街だった。街区の多くが閉鎖され、限られた場所だけで残された人々が細々と暮らしていた。大規模なモンスターの襲撃を受け、かつ中央から見捨てられて復興もままならないからだった。

そこでアズリーは枯れた井戸をなんとかし、子供たちに魔法を教えることにする。自分の何倍も覚えが早い子供たちを見てあらためて自分の鈍さを思い知らされるが、そんな中で将来有望な女の子リナを見出し、この子を一緒に魔法大学に連れていくことにする。いまなら自分も魔法大学を卒業できるんじゃないかと思って。

あとは予想されるとおりアズリーとついでにリナが魔法大学で無双し、冒険者としても大活躍する。ここまではまだ面白かった。

冒険者グループ「銀」の面々と仲良くなったアズリーは、そのうちの一人から「色食街」に誘われる。風俗と飲食の街ということで要は娼館なのだけど、幼い少女たちをお金で身受けしてまっとうな商売をさせるための活動を始める。

こういう活動をそもそも始めるような人たちなんだろうか?アズリーも冒険者グループ「銀」も特別な正義感は持ち合わせていないように思う。特に「銀」は冒険者なんてやっているんだから基本的には自己本位なはずだし、そうでないならそれなりの理由が必要だと思う。アズリーは天涯孤独で一人引きこもって五千年も過ごすぐらいだから、大抵の人間のことなんてどうでもいいと思っているはず。魔法を教えているうちに親しくなったリナのことならともかく、その場で出会ってちょっと会話しただけの少女たちにそこまで思い入れなんて抱けるものだろうか?少女たちを「買う」ために大量の金が必要になった彼らはがむしゃらに働き出す。

まあここまでなら世の中のためになんとかしたいという思いがたまたま出ちゃったんだろうなってことで飲み込んたんだけど、自分がこの作品に大いに失望したのはここに限らずキャラクター描写が全然ダメだということがはっきりしたことだった。

序盤のほうでもリナの主に熱くなった感情の描写についていけなくてちょっとおかしいなとは思っていたのだけど、まあそういうものかと思ってそれほど気にせず読んでいた。しかし、謎の魔法使いの少女メルキィが出てきてから見過ごせなくなってきた。こいつ、ものすごく強いのに、謎の距離感でアズリーに詰めてくるし、ヘンなとこで赤面する。ナシだなと思って自分はこいつの存在を無視することにした。無視するといっても読み飛ばすわけじゃなくてストーリーを説明する謎の存在Xと思うことにした。

ところがこいつの師匠が出てきたところでもうダメだった。ダークエルフの大魔法使い「知肉のトゥース」は筋肉だるまで、アズリーはなぜかこいつの弟子になってスクワット一万回いや三万回だなんだとやるようになる。弟子入りのきっかけがそもそも描かれていないので、なぜこんなやつに従うようになったのか訳が分からなかった。

2巻のあとがきを読んだら作者は役者とくに声優をやっていて、演技のために脚本を書いてみようということで小説投稿サイトに書き始めたらしい。使い魔ポチとアズリーとの掛け合いはとても楽しくて、脚本はうまいと思う。でも話づくりは最低限いいとしても、キャラがひどすぎる。ひどくないキャラもいるけれど、思い返してみると全員いまいちで挙動がよく分からない。

後日改めて紹介しようと思っていたのだけど、テレビ朝日「まんが未知」でマンガ家の藤田和日郎が言っていたように、このキャラはなぜこんな行動をしたのか?という「なぜ」が分からないとキャラの行動とそこに至った想いが伝わってこない。そうなると物語の展開が進んでいってもふーんとしか思えない。物語ってそのキャラの期待どおりになって喜んだり、期待どおりにならなくてガッカリしたりといった感情の揺さぶりが面白いのだと思う。

自分がこの作品に期待したのは、頭の悪い愚者アズリーが嫌な目にあいながらも地道な努力によって周りを見返すだとか、周りの人々から愛されるようになるだとか、そんな成功物語だったと思う。作者もあとがきで似たようなことを書いているのでそんな狙いもあったのだろう。でもアズリーが自分の頭の悪さに悩む場面がほとんどないので応援したくならない。集団行動が苦手なはずなのに作戦参謀を任されるし。

読者がこれまで経験してきた数々の失敗をこの主人公に埋め込めば、そしてその失敗が形を変えて報われたり成功したりすれば、必然的に愛されるキャラになったのにと思う。脇役に関してもこれは言えて、自分と似たようなところが少しでもあればちょっとは好きになったりするし、少なくとも見守りたくはなると思う。自分だけじゃなくて自分の身の回りにいる誰かと似ていても気になると思う。最初はアズリーとリナを目の敵にしていたオルネルたちがどのように心変わりしていったのかがあまり描かれていないので、一緒に行動するようになってからの彼らをどう見ていいのか分からなかった。

今後この物語はどうやらアズリーが世界を救うところまで行きつくことがほのめかされている。魔王みたいなものがそのうち復活するのでなんとかしろと謎の存在が夢枕に立って伝えてくる。重いなあ。未来を背負わされる主人公。

使い魔ポチとアズリーとの軽妙な対話の楽しさは他の作品にはなかなかないので、井上堅二「バカとテストと召喚獣」みたいな掛け合いの面白い作品が大好きな人だったらとりあえず読んでみるといいかもしれないけれど、もっといい作品が出てきてほしいと願わずにはいられなかった。

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