マンガ
推しの子 8巻まで
赤坂アカ × 横槍メンゴ (集英社 ヤングジャンプコミックス)
最高(50点)
2022年6月27日
人気アイドルグループ「B小町」のセンターだった星野アイはひそかに妊娠して男の子と女の子の双子を産んだが、何者かに殺された青年医師と難病で亡くなった女の子がその双子に転生する。男の子は星野アイの父親が誰かを突き止めようとし、女の子は前世の夢だったアイドル活動に身を投じる。芸能界ものの少年マンガ。
たぶんいま自分が一番続きを楽しみにしている作品なのだけど、すごい作品ほど紹介するのが面倒というか、ありあまる情熱を注ぎ込むのがしんどいので(!)、アニメ化が決まったことだし、ある程度割り切って紹介しておくことにする。
男の子の星野愛久愛海(あくあまりん)ことアクアは、前世(?)で星野アイのストーカー絡みで殺されており、犯人を突き止めるために謎に包まれている星野アイの父親を探そうと芸能界入りする。幼いうちから自重せず普通に話をするので不気味がられる。
親の遺伝子によりかなりの美少年に育った彼なのだけど、中身が勉強しかできない男である上に復讐に身を焦がしているため淡泊でそっけない。しかし、いろいろと放っておけない性格とまったく下心のないまっすぐな言葉の数々により共演者や関係者をひきつけていく。
女の子の星野瑠美衣(るびい)ことルビーは、母親以上の美少女に育つのだけど、中身は病院から出られないまま亡くなった少女なので、良くも悪くも無邪気なのだった。念願のアイドル活動のため、母親と同じグループ名で「B小町」を結成し、仲間を集めてデビューしようとする。
最初にスカウトするのは有馬かなという元子役。彼女はかつては誰もが知る有名な子役だったのだけど、いまでは小さな仕事で食いつなぐ落ち目の女優をやっており、アイドルをやるにしてはちょっと歳をくっている。それに彼女のキャリアパスから考えていまさらアイドルなんてやるはずはない。しかし、かつて子役をやっていたときにちょっとした偶然によりアクアに敗北感を与えられて以来彼のことが気になっており、彼との縁ができるという理由もあって参加することになる。
こいつがすごくけなげで大好き。自らの置かれた劣悪な状況の中で、それでも腐らずにがんばっている。すごく負けず嫌いなのだけど、自己本位に振舞って仕事がなくなって一度心が折れている。演技力が崩壊している若手男性アイドルたちと共演するときは、自分が悪目立ちしないよう彼らに合わせて演技するのだけど、元々予算のないB級作品なので日の目を見ないのだった。彼女がいつか報われるであろう時がいまから楽しみでしょうがない。普段はすごい自信家であり毒舌家なのだけど、不安定で自分の感情に振り回される面倒くさい女。そこがまたすごくよかった。
父親に関する情報と引き換えに恋愛リアリティショーに出演したアクアは、劇団ララライのエースである黒川あかねが番組のストレスで押しつぶされそうになったことから彼女を救おうとする。でも彼女は決して弱い女ではなくて、すごく頭がよくて、自分の感情に従って力強く行動する。
ルビーのほうは無邪気にアイドル活動をするだけなのだけど、実は彼女は前世でアクアの中身である青年医師に恋をしていた。青年医師がアクアに転生していることを知らないまま双子として遠慮のない関係で育ったので、いつか真実に気づいてしまうんじゃないか、そうなったら二人の関係はどうなるのか、といったあやうさがある。最新刊でようやくルビーが覚醒するのでどうなるか楽しみ。
と魅力たっぷりの作品なのだけど、物語がどう着地するのかまったく想像できないのでそういう意味で不安でもある。そもそも題の「推しの子」にはどうつながってくるのか。この言葉はアイドルグループの中で応援対象として選んだ子という意味なのだと思うけど、あくまでステージと客席との距離を前提にした関係性なので主要登場人物の間では成り立たないはず。強引に想像するとしたら、作中のヒロインたちをみんな魅力的に描くことにより、読者に対して「あなたの推しの子は誰?」みたいに問いかける意味があるのかもしれない。
絵がすごく表情豊かで情感にあふれていて魅力的だった。原作の(?)赤坂アカの絵も自分は好きなのだけど、横槍メンゴの絵はなんというかしっとりしていて(?)すばらしい。特に1巻の表紙に描かれる星野アイのビジュアルは攻めたポーズと相まってすごく引き込まれる。
赤坂アカのマンガを知り尽くしたかのようなギャグセンスが素晴らしい。ストーリーを語りキャラの魅力を引き立てながらテンポよくギャグを放り込んでくる。この作品のキャッチコピーの中に「天才マンガ家」っていうのがあったと思ったけど、本当に誇張なくこの二人は天才だと思う。
これを書くにあたって色々忘れていたので改めて読み直してみたのだけど、重要な内容をいくつも忘れていたことに気づかされた。読んで最初から楽しめるし、アニメ化されたらみんな手に取るだろうから、あまり紹介する必要のない作品だと思う。まあでもどんな作品かぐらいは友人に勧めるときには必要か。
プロデューサーの役割についてここまで踏み込んだ作品はあまりないんじゃないだろうか。多くの作品ではクリエイターの前に立ちふさがる悪役として登場するのだけれど、製作費をまかなうためにスポンサーを納得させる企画を用意して人を集めてくるという大事な仕事をしている。この作品ではスポンサーとクリエイターの間で板挟みになる場面も描かれており新鮮に感じた。他方、俳優を宣伝したい芸能事務所の意向を受けてクソドラマが作られる展開も描いていてよかった。
一応批判もしておくと、この作品は深い人物描写と興味をかき立てるストーリーとリアルな芸能界の裏側が魅力なのだけど、転生というSF的な設定の上に構築されている危うさがある。特に最新刊ではルビーの前に謎の少女が出現して語りかけてくるのは見ていて危なっかしく思った。赤坂アカは「かぐや様は告らせたい」のほうでもメインヒロイン絡みのシリアスな話がちょっといまいちな感じがしたのでその流れがこっちでも起きそうな気もする。
本作は言ってみれば令和の「ガラスの仮面」なのかもしれないけれど、色んな点でその枠に収まりきらない新たな名作の誕生だと思う。マンガ好きなら必見の作品だと思うのでぜひ見てみてほしい。
たぶんいま自分が一番続きを楽しみにしている作品なのだけど、すごい作品ほど紹介するのが面倒というか、ありあまる情熱を注ぎ込むのがしんどいので(!)、アニメ化が決まったことだし、ある程度割り切って紹介しておくことにする。
男の子の星野愛久愛海(あくあまりん)ことアクアは、前世(?)で星野アイのストーカー絡みで殺されており、犯人を突き止めるために謎に包まれている星野アイの父親を探そうと芸能界入りする。幼いうちから自重せず普通に話をするので不気味がられる。
親の遺伝子によりかなりの美少年に育った彼なのだけど、中身が勉強しかできない男である上に復讐に身を焦がしているため淡泊でそっけない。しかし、いろいろと放っておけない性格とまったく下心のないまっすぐな言葉の数々により共演者や関係者をひきつけていく。
女の子の星野瑠美衣(るびい)ことルビーは、母親以上の美少女に育つのだけど、中身は病院から出られないまま亡くなった少女なので、良くも悪くも無邪気なのだった。念願のアイドル活動のため、母親と同じグループ名で「B小町」を結成し、仲間を集めてデビューしようとする。
最初にスカウトするのは有馬かなという元子役。彼女はかつては誰もが知る有名な子役だったのだけど、いまでは小さな仕事で食いつなぐ落ち目の女優をやっており、アイドルをやるにしてはちょっと歳をくっている。それに彼女のキャリアパスから考えていまさらアイドルなんてやるはずはない。しかし、かつて子役をやっていたときにちょっとした偶然によりアクアに敗北感を与えられて以来彼のことが気になっており、彼との縁ができるという理由もあって参加することになる。
こいつがすごくけなげで大好き。自らの置かれた劣悪な状況の中で、それでも腐らずにがんばっている。すごく負けず嫌いなのだけど、自己本位に振舞って仕事がなくなって一度心が折れている。演技力が崩壊している若手男性アイドルたちと共演するときは、自分が悪目立ちしないよう彼らに合わせて演技するのだけど、元々予算のないB級作品なので日の目を見ないのだった。彼女がいつか報われるであろう時がいまから楽しみでしょうがない。普段はすごい自信家であり毒舌家なのだけど、不安定で自分の感情に振り回される面倒くさい女。そこがまたすごくよかった。
父親に関する情報と引き換えに恋愛リアリティショーに出演したアクアは、劇団ララライのエースである黒川あかねが番組のストレスで押しつぶされそうになったことから彼女を救おうとする。でも彼女は決して弱い女ではなくて、すごく頭がよくて、自分の感情に従って力強く行動する。
ルビーのほうは無邪気にアイドル活動をするだけなのだけど、実は彼女は前世でアクアの中身である青年医師に恋をしていた。青年医師がアクアに転生していることを知らないまま双子として遠慮のない関係で育ったので、いつか真実に気づいてしまうんじゃないか、そうなったら二人の関係はどうなるのか、といったあやうさがある。最新刊でようやくルビーが覚醒するのでどうなるか楽しみ。
と魅力たっぷりの作品なのだけど、物語がどう着地するのかまったく想像できないのでそういう意味で不安でもある。そもそも題の「推しの子」にはどうつながってくるのか。この言葉はアイドルグループの中で応援対象として選んだ子という意味なのだと思うけど、あくまでステージと客席との距離を前提にした関係性なので主要登場人物の間では成り立たないはず。強引に想像するとしたら、作中のヒロインたちをみんな魅力的に描くことにより、読者に対して「あなたの推しの子は誰?」みたいに問いかける意味があるのかもしれない。
絵がすごく表情豊かで情感にあふれていて魅力的だった。原作の(?)赤坂アカの絵も自分は好きなのだけど、横槍メンゴの絵はなんというかしっとりしていて(?)すばらしい。特に1巻の表紙に描かれる星野アイのビジュアルは攻めたポーズと相まってすごく引き込まれる。
赤坂アカのマンガを知り尽くしたかのようなギャグセンスが素晴らしい。ストーリーを語りキャラの魅力を引き立てながらテンポよくギャグを放り込んでくる。この作品のキャッチコピーの中に「天才マンガ家」っていうのがあったと思ったけど、本当に誇張なくこの二人は天才だと思う。
これを書くにあたって色々忘れていたので改めて読み直してみたのだけど、重要な内容をいくつも忘れていたことに気づかされた。読んで最初から楽しめるし、アニメ化されたらみんな手に取るだろうから、あまり紹介する必要のない作品だと思う。まあでもどんな作品かぐらいは友人に勧めるときには必要か。
プロデューサーの役割についてここまで踏み込んだ作品はあまりないんじゃないだろうか。多くの作品ではクリエイターの前に立ちふさがる悪役として登場するのだけれど、製作費をまかなうためにスポンサーを納得させる企画を用意して人を集めてくるという大事な仕事をしている。この作品ではスポンサーとクリエイターの間で板挟みになる場面も描かれており新鮮に感じた。他方、俳優を宣伝したい芸能事務所の意向を受けてクソドラマが作られる展開も描いていてよかった。
一応批判もしておくと、この作品は深い人物描写と興味をかき立てるストーリーとリアルな芸能界の裏側が魅力なのだけど、転生というSF的な設定の上に構築されている危うさがある。特に最新刊ではルビーの前に謎の少女が出現して語りかけてくるのは見ていて危なっかしく思った。赤坂アカは「かぐや様は告らせたい」のほうでもメインヒロイン絡みのシリアスな話がちょっといまいちな感じがしたのでその流れがこっちでも起きそうな気もする。
本作は言ってみれば令和の「ガラスの仮面」なのかもしれないけれど、色んな点でその枠に収まりきらない新たな名作の誕生だと思う。マンガ好きなら必見の作品だと思うのでぜひ見てみてほしい。