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Final Fantasy X

スクウェア

最高(50点)
2004年11月8日
ひっちぃ

近代的な都市でスポーツチームのエースとしてプレイしていた主人公が、突如エキゾチックな世界に飛ばされ、そこで出会った召喚士の少女とそのガードたちと、世界の災厄シンを倒すために旅をするゲーム。

ついに十作目となった今作は、ハードをプレイステーション2にしたことで、さらにビジュアル面を強化させた。ファイナルファンタジーシリーズは、ファンタジーの世界にSF的な要素を加えた独自の世界観を持っている。今作は驚くべきことに、東南アジア的というか、南国風のなんともいえないエキゾチックな世界を描いている。ハードの性能が上がったからこそ、登場人物たちがなまめかしい生の肉体を持って描かれる。やられた。このシリーズは確かな遺伝子を持って進化しつづけている。

戦闘システムは同時に三人が参加できる入れ替え制となっている。従来なら、あらかじめ選んでおいたメンバーが戦うだけだったが、今作では戦闘中いつでもターンを消費せずに何度でもキャラクタの入れ替えが出来る。敵にはハッキリした弱点があり、その弱点を突けるキャラクタも決まっている。必然的にプレイヤーは敵によってキャラクタを入れ替えて戦闘を行うことになる。これにより、よく使うキャラや使わないキャラが出てきてしまうことがなくなり、使いにくいキャラも戦闘に参加させて経験値を稼がすストレスから解放された。

成長システムはスフィア板というすごろく風のボードが用意されており、各キャラクタがコマとしてAPというポイントを消費してマスを進み、各種スフィアを消費することで能力値を上げたり魔法や技を覚えていく。各キャラのボード上の初期の場所はあらかじめ決められており、キャラクタの個性が無いと批判された8作目と違って特徴がはっきりしている上に、好きにボードを進められるのでプレイヤーが自由にキャラクタを成長させることが出来る。やり込みにも十二分に応えてくれる。

フィールドはもちろん3Dだ。しかし今作でもカメラは固定になっている。カメラまでプレイヤーに操作させるのは煩雑になりすぎると考えたのだろうか。微妙にストレスを感じなくもないが、おおむねカメラ位置は適切で問題はない。移動するにつれダイナミックにカメラが動くが、切り替わるときにどっちに移動していたのか分からなくなることもたまにあった。

主人公のティーダは、なんかジャニーズのタッキーこと滝沢秀明に似てる。まあいいんじゃないだろうか。語尾に「ッス」をつけるところが妙におかしい。まあこれはこれでいいんじゃないだろうか。今作では登場人物がしゃべるしゃべる。会話シーンだけでなく、独白があってしんみりさせられる。表面では明るい主人公が、異世界へ来たことへの不安、さまざまな出会いについての感想を語るのはグッとくる。

ヒロインのユウナは、うーん、いわゆる美少女。でも田舎ものっぽい。無邪気でもある。しかしこの世界での期待を一身に受け、じつはかなりのしっかり者。でも時々弱音を吐く、みたいな。ユウナを見ていると、モデリングが非常にリアルなことに気づく。実際の人間に近い。ありえない頭身になっていたり、モデル体型になっているようなほかのゲームとは違う。こういう仕事は本当にこの世界の一線にいる人しか出来ないと思う。コギャル風の女性キャラでリュックというのもいるのだが、なんとこのキャラはエラが張っている。それでもちゃんとそれで自然に見えていて、逆にそのへんがリアルに見えて本当に驚かされる。ただ、シーンによってライティングが失敗気味のところが目立って見られ、顔のハイライトがのっぺりして生気が感じられないことがあるのは残念。

アーロンやワッカなんて完全におっさんキャラなのだが、しぶく描かれている。アーロンは正直狙いすぎのような丹下左膳もどきなのだけど、絵になっているからオッケイ。吐く言葉もおっさんくさい。自分の物語をつむげだの、自分で決めろだの、割とくさいことを言うのだが、案外いい加減だということをティーダに見抜かれるところがまたいい。ワッカは体育会系で直情型でさっぱりした性格。目が細く東洋人風。私の知り合いに割と似てる人がいる。

ルールーは黒魔術師の女性。東洋人っぽい黒髪に白い肌に紫の口紅。性格は成熟した女性。説教くさい。このあたりの微妙な性格を描いていて面白い。理屈じゃないことを信念を持って強く伝えようとする。

キマリは獣人っぽい外見を持った無口で忠実なユウナのガード。犬っぽい口元がチャーミング。うそ。いわゆるインディアン風のしゃべりかたをする。このキャラに限らずすべてのキャラはあいまいに描かれており、これというはっきりした性格を示していない。分かり安すぎるとオタ臭くなるし、まあこれでいいんじゃないだろうか。

背景は前述のとおり東南アジア風のエキゾチックな世界だ。エボンの教えを守り伝える寺院が人々の心の拠り所となっている。宗教が生活に非常に密着している。エボンには宗教上のあいさつがあり、手を動かして頭を垂れるといういかにも東洋な感じのスタイルだ。いっけん平和に見えるこの世界だが、人々は逃れられぬ災厄・シンの脅威に怯えている。シンとは正体不明の超巨大な生命体で、普段は気まぐれに海の上をさまよっているが、時に陸に現れて人々を襲い、大量の死者を生む。

そのシンに対抗する唯一の希望が召喚士だ。シンにやられて死んだ人々の魂を送る役割を持つ上に、究極召喚を身に付けて自らの命と引き換えにシンを倒す。ただし、そうやってシンを倒しても数年後に再びシンは復活してしまう。

ヒロインのユウナは、そんな召喚士の一人として、究極召喚を身につけるために旅に出るのだ。しかもユウナはただの召喚士ではなく、かつてシンを倒して死んだ偉大な召喚士ブラスカの娘なのだ。主人公ティーダは、ユウナが旅に出る直前にこの世界に足を踏み入れることになる。そしてこの少女の心の支えとなるのだった。

とはいっても、確かにティーダとユウナのかかわりは暖かいものだが、いまいち関係が進まない。進まない進まないと思っているうちにエンディングを迎えてしまった。うーん、この二人って結局どういう関係だったのだろう。

主人公と父親の関係も描かれる。主人公と父親の一つ一つの想いはまあ割と伝わってくるのだが、じゃあどうなんだと問うとよくわからない。この父親、ジェクトというのだが、若い父親らしく自分の子供に対して照れ含みだが正直で確かな愛情を持っている。この描写は見ていて心地よかった。主人公ティーダは父を憎んでいたが、実はこの家庭は母親に問題があって、いつも父の方向しか向かない母をみて父を目の仇にしていたわけだ。だから、父の不器用な愛情がなかなか伝わらなかった。この設定自体はよく出来ており、豊かな映像で描写されて心に残った。

父ジェクトとアーロンは、数年前にユウナの父ブラスカと三人で旅をしている。その様子がときおり挿入される。主人公の親の世代の若い頃の様子が描かれるというのは面白い。この作品で何が中心的なテーマかというと、世代をまたいだ現実を描いている点がそうなんじゃないかと私は思う。ワッカとルールーもまた別の召喚士と旅をしたことがあり、そんな様々な過去が積み重なって今が成り立っている。そんなことを強く感じさせる作品だ。好意的に受け取ればこんなところだろう。

ただ、中途半端なところが多い。色々なところに中途半端な点があり、突き抜けた感動を味わうことが出来なかった。ジワリとくるものはあるのだが…。現実世界に近いと言えば近いのだが、こういう作品にはもっとドラマを求めたい。エンディングロールには沢山の、本当に沢山の人たちの名前が流れ、大勢の人間がこの作品を作ることに関わったということなのだろうが、原作者にあたる人はいたのだろうか。一人、ただ一人、原作家とか小説家がいれば、大きく違っていたのではないか。私が長くゲーム業界への提言として願うのはこれだ。

やたら「物語」という言葉が出てくるが、大した意味はないように思える。ちょっと前に流行った言葉をただ使ったって感じ。この言葉を使えば意味深に見えるっていうだけじゃないだろうか。と辛らつなことを言ってみたが、便利な言葉ではある。要するに、自分が選んだ道をゆけということだ。

ミニゲームのブリッツボールはよく出来ている。単体でサッカーとかバスケットボールもどきの球技が楽しめる。アクション性はあまりなく、コマンド入力式にシュートとかパスとか技を使ったりする。選手をレベルアップさせたり技を習得させたりしてチームを強くしていく。しかも本編で出てくる選手を□ボタンでスカウトできるのがいい。強いチームを作って試合に勝つと、本編で役に立つアイテムがもらえたりする。私はだいぶこのミニゲームをやった。途中からそんなに面白くはなくなるのだが、最終武器を手に入れるための根気が続いた。他にもチョコボに乗るミニゲームがいくつかある。適度に嫌らしく、ハマった。こちらも最終武器のため。動機がなければここまではやらなかったと思うが、だからこそのミニゲームであり、バランスが絶妙だ。

この作品、もう随分前に出ている。ファイナルファンタジーという大作シリーズの正統な流れにある作品だ。私はかなりの期待をしてプレイに望んだ。ほぼすべての点で私の期待を裏切らず、いくつかの点で私の想像を上回った。非常に素晴らしい作品だ。

最後に音楽について触れたい。この素晴らしい世界を支えたのはやはり音楽だろう。ゲームの音楽というと、繰り返し聞かれることが前提な上に、場面を印象づけなければならず、とても難しい。その制約の上で、聞き飽きずに心に残る印象的な音楽がいくつもあった。特に物憂げだが暗くなくモダンなテーマがいい。今回も植松信夫が中心となって作ったらしい。が、別のソースによれば、作曲者は三人いて、植松信夫はあんまり書いていないらしい。

登場人物がリアルに描かれフル音声でしゃべって展開するこの作品は、ゲームの文化が到達した一つのマイルストーンである。やらなければその後を語れない。次はどんなものを見せてくれるのだろうか。X-2という次回作が既に出ている。ギャルゲーだと冗談で語られるが、たぶん映像で魅せる方向で一つ作ろうという意図だろう。そしてXIIはもうカウントダウンに入っている。開発チームが違うっぽいのでまた別の流れになるのかもしれないが、今から楽しみである。

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