フィクション活字
学園もの
謙虚、堅実をモットーに生きております!
ひよこのケーキ (小説家になろう)
傑作(30点)
2023年6月18日
名門「瑞鸞学院」初等科の門前に連れてこられた生粋のお嬢様、吉祥院麗華は急に前世の記憶を思い出す。ここは大人気少女マンガ「君は僕のdolce」の中の世界で、自分はさんざん主人公をいびりたおして破滅させられる王道悪役キャラに生まれ変わっていることを。定番ジャンルとして定着した悪役令嬢ものが流行ったきっかけと言われている小説。
異世界ソムリエ(?)の同僚が教えてくれたので読んでみた。おもしろかった。小説投稿サイトに上げられ五年以上前から未完のまま放置されており、いまでも続きを待ち望むファンの声が書き込まれ続けている。運営側からの連絡もつかないらしい。
作中作のマンガの世界は高校生から始まるのだけど、名門付属校なので初等科(小学校)の頃から見知った面々が登場する。なかでもマンガでヒロインと結ばれる鏑木雅哉は麗華を破滅させる危険な存在なので極力関わりを持たないよう避け続けるのだけど、親たちは執拗にくっつけようとパーティやイベントに誘ってきたり背中を押したりしてくる。
鏑木は四つ上の優理絵に恋をしており麗華のことは眼中にない。だから安心していたら、優理絵から避けられるようになった鏑木からスパイみたいなことをさせられてしまう。俺様系の鏑木のそばには一見優男風の円城秀介もいて弱みを握られて言うことを聞かされる。この二人は女の子たちからの人気が絶大で、逃げようとしてもなにかと縁が絡む。
主人公の麗華は旧華族にして実業家としても成功している一族の令嬢なので、毎日学校まで車で送り迎えされているほか、習い事も山ほどさせられているのだけど、中の人はもともと庶民だったのでコンビニでお菓子なんかを買い食いするために家庭教師のほかに塾にも行きたいと言ってこっそり抜け出す作戦を立てる。ここから彼女の人脈が広がり、少しずつ麗華の運命は変わっていく。
名門「瑞鸞学院」にはピヴォワーヌ(フランス語でボタン)と呼ばれる由緒ある組織があって、これに所属するには血筋と財力と初等科から通っていないといけないという厳しい条件がある。麗華は当然のことながらこのピヴォワーヌの一員なのだけど、この組織は生徒を平等に守ろうとする生徒会役員会と対立している。角を立てたくない麗華は板挟みになって苦労する。
豊富な登場人物が麗華とさまざまな関係を築いていく。よくできた兄の貴輝、そんな兄にかまってもらおうとして張り合ってくる従妹で生意気な女の子の古東璃々奈、兄の友人で女の扱いに長けた桃園伊万里、優理絵の親友でカラッとした性格の愛羅、塾で知り合って気さくに話すようになる男の子の秋澤匠、そいつを狙っている幼馴染で性格に二面性のある和風の少女、…ちょっと書ききれないのでここまでにしておくけれど、この作品には忘れ去られるキャラみたいなのがいなくて時間の経過とともにきちんと丁寧に関係性を描いていっているのが魅力だと思う。
麗華の一番の天敵である鏑木との関係も変わっていく。鏑木にとって麗華は最初パシり(!)だったけれど、あるきっかけがもとで急接近する。自分は読んでいてこのシーンが作中で二番目に印象に残った。人と人との関係が大きく変わる瞬間が描かれており、とても説得力のある名シーンだと思う。
このことがきっかけとなり、完璧超人の鏑木のヘンな一面をいろいろと見せられていくことになる。この作品で一番ケチをつけやすいポイントなので言っておくと、ちょっと鏑木をおちょくりすぎだし、その後はずっとそんな鏑木の奇行で作品を引っ張っていっているように思う。
そしてなんといっても一番の名シーンは、ピヴォワーヌのメンバーが暴走して生徒会と決定的に衝突してしまいそうになる事件だと思う。鏑木が思い切った行動をとり、その結果自分と正ヒロインとの立場の違いをまざまざと感じさせられて落胆してしまうのだけど、そんな鏑木を見て麗華が彼女なりのなぐさめかたをしたところだろうか。ああもうこれで鏑木落ちたなと思ったら甘かったんだけどw
そんなこんなで作品は続いていき、そして急に執筆が止まる。麗華がひそかに正ヒロインと仲良くしていることに鏑木が気づきそうになる描写があるのだけど、もし気づいたらどうなったんだろうか。正直別に大したことにならないようにも思えるのだけど、あまりにギャグに走りすぎたためどう収集をつけるべきか分からなくなってしまったのかもしれない。
円城秀介の年の離れた弟で病弱で天使のような愛らしさを持つ雪野くんが麗華を求めてくるところがいじらしくてかわいい。これ両想いっぽいので正ヒロインならぬ正ヒーローなのでは?でもきっと麗華はかわいいかわいい言いながら雪野くんのことは決して男としては見ていないんだろうなあ。
そんなわけで生粋のお嬢様が中の人の行動によってギャップを生みながら周りとなじんでいくのを友情とギャグの物語として丁寧に描いていっているこの作品はわかりやすくてとてもおもしろいので未完でもぜひ多くの人に読んでもらいたい。
異世界ソムリエ(?)の同僚が教えてくれたので読んでみた。おもしろかった。小説投稿サイトに上げられ五年以上前から未完のまま放置されており、いまでも続きを待ち望むファンの声が書き込まれ続けている。運営側からの連絡もつかないらしい。
作中作のマンガの世界は高校生から始まるのだけど、名門付属校なので初等科(小学校)の頃から見知った面々が登場する。なかでもマンガでヒロインと結ばれる鏑木雅哉は麗華を破滅させる危険な存在なので極力関わりを持たないよう避け続けるのだけど、親たちは執拗にくっつけようとパーティやイベントに誘ってきたり背中を押したりしてくる。
鏑木は四つ上の優理絵に恋をしており麗華のことは眼中にない。だから安心していたら、優理絵から避けられるようになった鏑木からスパイみたいなことをさせられてしまう。俺様系の鏑木のそばには一見優男風の円城秀介もいて弱みを握られて言うことを聞かされる。この二人は女の子たちからの人気が絶大で、逃げようとしてもなにかと縁が絡む。
主人公の麗華は旧華族にして実業家としても成功している一族の令嬢なので、毎日学校まで車で送り迎えされているほか、習い事も山ほどさせられているのだけど、中の人はもともと庶民だったのでコンビニでお菓子なんかを買い食いするために家庭教師のほかに塾にも行きたいと言ってこっそり抜け出す作戦を立てる。ここから彼女の人脈が広がり、少しずつ麗華の運命は変わっていく。
名門「瑞鸞学院」にはピヴォワーヌ(フランス語でボタン)と呼ばれる由緒ある組織があって、これに所属するには血筋と財力と初等科から通っていないといけないという厳しい条件がある。麗華は当然のことながらこのピヴォワーヌの一員なのだけど、この組織は生徒を平等に守ろうとする生徒会役員会と対立している。角を立てたくない麗華は板挟みになって苦労する。
豊富な登場人物が麗華とさまざまな関係を築いていく。よくできた兄の貴輝、そんな兄にかまってもらおうとして張り合ってくる従妹で生意気な女の子の古東璃々奈、兄の友人で女の扱いに長けた桃園伊万里、優理絵の親友でカラッとした性格の愛羅、塾で知り合って気さくに話すようになる男の子の秋澤匠、そいつを狙っている幼馴染で性格に二面性のある和風の少女、…ちょっと書ききれないのでここまでにしておくけれど、この作品には忘れ去られるキャラみたいなのがいなくて時間の経過とともにきちんと丁寧に関係性を描いていっているのが魅力だと思う。
麗華の一番の天敵である鏑木との関係も変わっていく。鏑木にとって麗華は最初パシり(!)だったけれど、あるきっかけがもとで急接近する。自分は読んでいてこのシーンが作中で二番目に印象に残った。人と人との関係が大きく変わる瞬間が描かれており、とても説得力のある名シーンだと思う。
このことがきっかけとなり、完璧超人の鏑木のヘンな一面をいろいろと見せられていくことになる。この作品で一番ケチをつけやすいポイントなので言っておくと、ちょっと鏑木をおちょくりすぎだし、その後はずっとそんな鏑木の奇行で作品を引っ張っていっているように思う。
そしてなんといっても一番の名シーンは、ピヴォワーヌのメンバーが暴走して生徒会と決定的に衝突してしまいそうになる事件だと思う。鏑木が思い切った行動をとり、その結果自分と正ヒロインとの立場の違いをまざまざと感じさせられて落胆してしまうのだけど、そんな鏑木を見て麗華が彼女なりのなぐさめかたをしたところだろうか。ああもうこれで鏑木落ちたなと思ったら甘かったんだけどw
そんなこんなで作品は続いていき、そして急に執筆が止まる。麗華がひそかに正ヒロインと仲良くしていることに鏑木が気づきそうになる描写があるのだけど、もし気づいたらどうなったんだろうか。正直別に大したことにならないようにも思えるのだけど、あまりにギャグに走りすぎたためどう収集をつけるべきか分からなくなってしまったのかもしれない。
円城秀介の年の離れた弟で病弱で天使のような愛らしさを持つ雪野くんが麗華を求めてくるところがいじらしくてかわいい。これ両想いっぽいので正ヒロインならぬ正ヒーローなのでは?でもきっと麗華はかわいいかわいい言いながら雪野くんのことは決して男としては見ていないんだろうなあ。
そんなわけで生粋のお嬢様が中の人の行動によってギャップを生みながら周りとなじんでいくのを友情とギャグの物語として丁寧に描いていっているこの作品はわかりやすくてとてもおもしろいので未完でもぜひ多くの人に読んでもらいたい。