マンガ
瓜を破る 10巻まで
板倉梓 (芳文社 芳文社コミックス)
最高(50点)
2024年10月18日
東京の会社でOLとして働く香坂まい子は32歳になって自分が処女であることを気にしていた。高校生の頃、恋人とキスはしたものの、その時になって断ってしまい、以後そのままになっていた。普通の人が当たり前のように男女交際しているのになぜ自分はできないのか。ガードが固くて受け身だった自分を改めようとする。青年マンガ。
題は処女喪失を喩えた「破瓜」という言葉をくだけた言い回しにしただけの露骨なもので、表紙も裸の人物が白くて大きい布を巻いただけの絵だったので、こりゃ狙ってるなと思い少し嫌悪感すら抱いていたものの、気になってしょうがなかったので読んでみたらとてもおもしろかった。海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」以来の名作だと思う。
主人公の香坂まい子は都会の女性として普通にこなれており、美人とまではいかないものの当たり前のように恋人がいて交際しているものと周囲からは思われていた。なので当然、みんなからは「こっち側の人」と思われ、いかにも男っ気のないお局さんに対する陰口を聞かされてはひそかにダメージを負っていた。
そんな彼女が思い切った一歩を踏み出そうとするのだけど、かといってセックスするのが一人前だという恋愛至上主義には行かないのがこの作品で、性欲を持たないという同僚男性から逆の悩みを打ち明けられたり、学生時代の親友から性愛はあくまで人生を充実させる三大要素の一つに過ぎないと言われたりする。
たぶん編集者が書いていると思われる巻末のコピー「現代の冒険譚」はとても言いえて妙だと思った。この作品の主人公と言っていい香坂まい子は、いままでの自分だったら踏みとどまってしまっていた場面で積極的に行動していく。相手の男性から避けられたと思われるような行動をとられても、勇気を振り絞って確認し距離を詰めていく。そんな彼女がとてもかわいかった。
相手の男についても焦点が当たる。まい子のことを避けたようにとれる行動の裏にあった過去や、彼の勘違いやためらいといったことも描かれる。この男は表紙にも裸で登場しているw こいつもまた自分に近づいてくる彼女に対して本当に自分も近づいていっていいのか不安を抱えながら勇気を振り絞って行動している。
この二人にとどまらず、この作品にはいろんな男女が出てきて並行して語られていく。前述のいかにも男っ気のないお局さんには実は十年来の恋人がいるのだけど、稼ぎの少ない彼にキツいことばかり言っていたら同棲していた部屋からある日忽然と姿を消されてしまう。もちろんそれで終わりではなくて、彼の行方を追ってせめて謝りたいと行動するのだった。
その彼女には数年前に仲たがいした同僚の女性がいて、歯科医師と結婚して退職し幸せな家庭を築いていると思っていたら急に職場に復帰してきて実は家庭がうまくいっていないと打ち明けられる。彼女の話は作中ではまだそれほど語られていないのだけど、女の友情が復活してなんでも話し合える関係になるのは見ていてほっこりした。
まい子の職場に来た派遣社員の小平さんは、地味な顔立ちをした小柄な女性で、自分のことをブスだと自覚しているだけでなく、周りに対しても自分はブスなのでと言って自己卑下している。こいつはマッチングアプリでイケメンと出会って浮かれては現実を突きつけられたり、ブサメンのことをバカにしながら受け入れていったりする。男ウケしないソリッドなネイルをしているところとかショートのおかっぱヘアとかがなんかかわいかった。
ほかにも、学生の頃に流されてセックスして後悔して以来自分の意志を貫くことを信条にしている女とか、まい子の学生時代からの親友で求婚されたのに「私たちはそんな関係じゃないでしょ」みたいなことを言って以来まったく縁がなくなって趣味に全力で生きている女とか、結婚して子育てしてるけれど男と行違っている女とか、いろいろでてくる。
自分がこの作品で一番引っかかったのは、まい子みたいな女性は実際にはほとんど存在しないんじゃないかというところ。美人でなくてもそこそこ見た目が良ければ男は放っておかない。作中にあるように体目当ての男も寄ってくるだろうけど、そうでない男も来るはずなので、相手が誘ってこないという悩みを抱えている女性は、いたとしてもここまで容姿も性格もよくはないと思う。よっぽどめぐりあわせが悪かったのか。
男性は交際までが大変なのに対して、女性は結婚までが大変なものなので、この作品のように交際で女性が苦労する話はあまり身近ではないように思う。それとも、そんな自分の考え自体が昭和世代ゆえの古臭いものなのだろうか。少なくとも自分は、この物語の主人公と言える香坂まい子については、女性よりも男性の共感を集めるんじゃないかと思った。まあいまどきの若者は恋愛から遠ざかっているみたいなので女性も共感するのかもしれないけど。
絵は比較的シンプルな線だけど愛着がわいた。まい子の相手の男とか小平さんとかは本当に素朴な見た目なのだけど、まい子はなんかすごくかわいい。自信のない表情とか特に。表情だけでなく体の線までいとおしく思える。この絵でエロシーンがあるのに驚かされる。まい子がたどたどしく相手の男の裸の胸にむさぼるように吸い付くシーンとかあって、生々しさを感じた。
この作品にはいろんな側面があるけれど基本的には恋愛ものなので、恋愛にもう興味がないという人には勧められないけれど、そうでなければ広く老若男女に勧めたい名作だと思うのでぜひ読んでみてほしい。
題は処女喪失を喩えた「破瓜」という言葉をくだけた言い回しにしただけの露骨なもので、表紙も裸の人物が白くて大きい布を巻いただけの絵だったので、こりゃ狙ってるなと思い少し嫌悪感すら抱いていたものの、気になってしょうがなかったので読んでみたらとてもおもしろかった。海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」以来の名作だと思う。
主人公の香坂まい子は都会の女性として普通にこなれており、美人とまではいかないものの当たり前のように恋人がいて交際しているものと周囲からは思われていた。なので当然、みんなからは「こっち側の人」と思われ、いかにも男っ気のないお局さんに対する陰口を聞かされてはひそかにダメージを負っていた。
そんな彼女が思い切った一歩を踏み出そうとするのだけど、かといってセックスするのが一人前だという恋愛至上主義には行かないのがこの作品で、性欲を持たないという同僚男性から逆の悩みを打ち明けられたり、学生時代の親友から性愛はあくまで人生を充実させる三大要素の一つに過ぎないと言われたりする。
たぶん編集者が書いていると思われる巻末のコピー「現代の冒険譚」はとても言いえて妙だと思った。この作品の主人公と言っていい香坂まい子は、いままでの自分だったら踏みとどまってしまっていた場面で積極的に行動していく。相手の男性から避けられたと思われるような行動をとられても、勇気を振り絞って確認し距離を詰めていく。そんな彼女がとてもかわいかった。
相手の男についても焦点が当たる。まい子のことを避けたようにとれる行動の裏にあった過去や、彼の勘違いやためらいといったことも描かれる。この男は表紙にも裸で登場しているw こいつもまた自分に近づいてくる彼女に対して本当に自分も近づいていっていいのか不安を抱えながら勇気を振り絞って行動している。
この二人にとどまらず、この作品にはいろんな男女が出てきて並行して語られていく。前述のいかにも男っ気のないお局さんには実は十年来の恋人がいるのだけど、稼ぎの少ない彼にキツいことばかり言っていたら同棲していた部屋からある日忽然と姿を消されてしまう。もちろんそれで終わりではなくて、彼の行方を追ってせめて謝りたいと行動するのだった。
その彼女には数年前に仲たがいした同僚の女性がいて、歯科医師と結婚して退職し幸せな家庭を築いていると思っていたら急に職場に復帰してきて実は家庭がうまくいっていないと打ち明けられる。彼女の話は作中ではまだそれほど語られていないのだけど、女の友情が復活してなんでも話し合える関係になるのは見ていてほっこりした。
まい子の職場に来た派遣社員の小平さんは、地味な顔立ちをした小柄な女性で、自分のことをブスだと自覚しているだけでなく、周りに対しても自分はブスなのでと言って自己卑下している。こいつはマッチングアプリでイケメンと出会って浮かれては現実を突きつけられたり、ブサメンのことをバカにしながら受け入れていったりする。男ウケしないソリッドなネイルをしているところとかショートのおかっぱヘアとかがなんかかわいかった。
ほかにも、学生の頃に流されてセックスして後悔して以来自分の意志を貫くことを信条にしている女とか、まい子の学生時代からの親友で求婚されたのに「私たちはそんな関係じゃないでしょ」みたいなことを言って以来まったく縁がなくなって趣味に全力で生きている女とか、結婚して子育てしてるけれど男と行違っている女とか、いろいろでてくる。
自分がこの作品で一番引っかかったのは、まい子みたいな女性は実際にはほとんど存在しないんじゃないかというところ。美人でなくてもそこそこ見た目が良ければ男は放っておかない。作中にあるように体目当ての男も寄ってくるだろうけど、そうでない男も来るはずなので、相手が誘ってこないという悩みを抱えている女性は、いたとしてもここまで容姿も性格もよくはないと思う。よっぽどめぐりあわせが悪かったのか。
男性は交際までが大変なのに対して、女性は結婚までが大変なものなので、この作品のように交際で女性が苦労する話はあまり身近ではないように思う。それとも、そんな自分の考え自体が昭和世代ゆえの古臭いものなのだろうか。少なくとも自分は、この物語の主人公と言える香坂まい子については、女性よりも男性の共感を集めるんじゃないかと思った。まあいまどきの若者は恋愛から遠ざかっているみたいなので女性も共感するのかもしれないけど。
絵は比較的シンプルな線だけど愛着がわいた。まい子の相手の男とか小平さんとかは本当に素朴な見た目なのだけど、まい子はなんかすごくかわいい。自信のない表情とか特に。表情だけでなく体の線までいとおしく思える。この絵でエロシーンがあるのに驚かされる。まい子がたどたどしく相手の男の裸の胸にむさぼるように吸い付くシーンとかあって、生々しさを感じた。
この作品にはいろんな側面があるけれど基本的には恋愛ものなので、恋愛にもう興味がないという人には勧められないけれど、そうでなければ広く老若男女に勧めたい名作だと思うのでぜひ読んでみてほしい。