ノンフィクション
政治・経済
黒字亡国
三國 陽夫 (文春新書)
まあまあ(10点)
2006年3月12日
日本が大きな対米貿易黒字を上げているのは、日本がアメリカの通貨植民地であるからだと警鐘を鳴らしている本。
為替の話はとても難しい。この本は割合よく説明してくれているので、読んでいて話の一つ一つは理解できるのだが、全体的な流れとか結論になると疑問点があんまり解決していないのだ。
以下、私の解釈を補足しながら、本書の主張をおおざっぱに解説していく。
まず一番に重要なのは、黒字というと良いことのように思えるが、実は悪いことなのだということ。二国間の話に限定すると、貿易黒字というのは、片方の国がより多くの価値を与えすぎた代価として、相手の国の貨幣を受け取っている状態のことを指す。多国間の話に拡大すると、三角貿易のような国際取引により三国の間で収支が拮抗すると、それぞれ二国間では大きな貿易黒字と貿易赤字が発生していることになるが、トータルで考えると互いの価値が平等に交換されていることになる。
そもそも貨幣とは無価値なものである。金本位制のときは、貨幣を金と交換することが出来たため、金と同じ価値があった。しかしそれがなくなったため、いまでは貨幣それ自体は無価値である。ただし、その貨幣が信用されているうちは、その貨幣を何か価値のあるものと交換できる。しかしそれをしないあいだ、つまりそれが貿易黒字なのだが、黒字国は損をしていることになる。
さてここからが難しい。この本ではイギリスとインドの関係を例に挙げている。イギリスは、インドの製品を輸入するのに、自国の貨幣ポンドを使った。つまりインドは、自国の製品の対価としてポンドを受け取った。インドはそのポンドをイギリスの銀行に預けて運用した。そのほうが得だとイギリスが言ったからだった。イギリスに預けられたポンドはインドのものだが、相変わらずイギリスで流通することになる。イギリスは貿易赤字だがタダでモノが手に入る上に通貨が出回って豊かになり、インドは生産に使ったもの(貨幣も含む)を失うことで経済が縮小すると言っている。
著者が言うには、インドはイギリスから受け取ったポンドを売って自国通貨ルピーを買うべきだったのだそうだ。このあたりが私にはよく理解できない。ポンドを売ってルピーを買うことで、ポンド安のルピー高になって、貿易不均衡を元に戻すための圧力が働くのだと著者は言っている。ルピーを買うという表現がよく分からない。誰から買うのだろう。自国の通貨を自国が買うというのがさっぱりだ。仮に誰かから買えたとしても、自国の価値が他国に流出しているのであれば、必ず他国の貨幣が余るわけで、自国の貨幣を全部買ってもまだポンドは残りそうなものだ。
自国の通貨流動性が下がるというのも、まあそれは確かにそうかもしれないが、対策はいくつかあるように思えて、深刻な問題とはまったく思えない。ポンドのまま国内で流通させてしまうとか、持っているポンドに見合ったルピーを刷るとか、ポンドをすぐさま使って国内経済に貢献するような何かを海外から買ってくるとかすれば良いのではないだろうか。
そろそろ日本についての話をすると、日本は大幅な対米貿易黒字により、大量のドルを蓄えている。そのドルはアメリカ国債の購入などに多くあてられている。つまり日本はかつてのインドと同じことをやっているというのだ。しかも日本は、本来なら蓄えたドルを売って円を買えば不均衡は是正されるのに、円を買うことで円が値上がりして輸出企業が打撃を受けると困るため、逆に円が値上がりしそうになると市場に介入して円を売っている始末だ。
アメリカはそんな日本を逆手にとって、どんどん貿易赤字を垂れ流し、日本に借金をしつづけながら国内経済を好調にしている。しかもかの国には切り札があって、いざとなれば足りないドルをいくらでもすりつづけられるのだ。
弱気な日本に対して、フランスはニクソンショックのときに強硬な姿勢をとり、アメリカから金を確保した。フランスは核を持っていたからこそできたのだと著者は指摘している。軍事と政治と経済とは互いに密接な関係にあるのだ。ドイツは敗戦後の関係からそんなに強気には出れなかったが、それでもマルクを売り支えてまで輸出にこだわったりはしなかったため、アメリカの際限なき借金を許さなかった。日本とそしてアジア諸国だけが貨幣にこだわったのは、アジア民族の貯蓄性向が原因の一つではないかと著者は指摘する。
私はこれまでなんとはなしにニュース番組や新聞を見ていて、アメリカなどが日本に対して強硬に内需拡大を求めてこれ以上の輸出を控えるよう要求しているのを見て、日本はアメリカからの圧力をいまだに受けているのだと悔しく思っていた。日本が良い製品を作って儲かることのどこが悪いのだと思っていた。しかしこのやり方は、一部の輸出企業が中心にいて得をする仕組みなのだ。そこまでは本書を読む前から考えていたことだった。本書を読んだことで、為替の面から考えても一部の人たちを利するシステムであることを知った。
この本への批判として、いまいち歯切れが悪いのを挙げておく。為替が難しいのは分かるのだが、読者がなんとなく分かった気になるようなレベルの説明を色々と角度を変えて行うだけで、読者に何かを伝えた気になっているように思う。私は読んでいて非常にもどかしかった。入門書でも専門書でもないのだから当然だと言われれば納得するしかないのだが、もうちょっと書き方があったと思う。これだけページ数があるのだから、ダラダラしているあの部分を削ってでも、一部の読者に理解されないことを覚悟しつつ、専門的なことを読者に分からせる説明をしてほしかった。
ただ、この本の役目として「黒字はよくない」ということをより多くの人に伝えるという目的は十分果たしうると思う。
副作用として、今後の資産運用をどうすればいいのか、考えなければならないと思った。
為替の話はとても難しい。この本は割合よく説明してくれているので、読んでいて話の一つ一つは理解できるのだが、全体的な流れとか結論になると疑問点があんまり解決していないのだ。
以下、私の解釈を補足しながら、本書の主張をおおざっぱに解説していく。
まず一番に重要なのは、黒字というと良いことのように思えるが、実は悪いことなのだということ。二国間の話に限定すると、貿易黒字というのは、片方の国がより多くの価値を与えすぎた代価として、相手の国の貨幣を受け取っている状態のことを指す。多国間の話に拡大すると、三角貿易のような国際取引により三国の間で収支が拮抗すると、それぞれ二国間では大きな貿易黒字と貿易赤字が発生していることになるが、トータルで考えると互いの価値が平等に交換されていることになる。
そもそも貨幣とは無価値なものである。金本位制のときは、貨幣を金と交換することが出来たため、金と同じ価値があった。しかしそれがなくなったため、いまでは貨幣それ自体は無価値である。ただし、その貨幣が信用されているうちは、その貨幣を何か価値のあるものと交換できる。しかしそれをしないあいだ、つまりそれが貿易黒字なのだが、黒字国は損をしていることになる。
さてここからが難しい。この本ではイギリスとインドの関係を例に挙げている。イギリスは、インドの製品を輸入するのに、自国の貨幣ポンドを使った。つまりインドは、自国の製品の対価としてポンドを受け取った。インドはそのポンドをイギリスの銀行に預けて運用した。そのほうが得だとイギリスが言ったからだった。イギリスに預けられたポンドはインドのものだが、相変わらずイギリスで流通することになる。イギリスは貿易赤字だがタダでモノが手に入る上に通貨が出回って豊かになり、インドは生産に使ったもの(貨幣も含む)を失うことで経済が縮小すると言っている。
著者が言うには、インドはイギリスから受け取ったポンドを売って自国通貨ルピーを買うべきだったのだそうだ。このあたりが私にはよく理解できない。ポンドを売ってルピーを買うことで、ポンド安のルピー高になって、貿易不均衡を元に戻すための圧力が働くのだと著者は言っている。ルピーを買うという表現がよく分からない。誰から買うのだろう。自国の通貨を自国が買うというのがさっぱりだ。仮に誰かから買えたとしても、自国の価値が他国に流出しているのであれば、必ず他国の貨幣が余るわけで、自国の貨幣を全部買ってもまだポンドは残りそうなものだ。
自国の通貨流動性が下がるというのも、まあそれは確かにそうかもしれないが、対策はいくつかあるように思えて、深刻な問題とはまったく思えない。ポンドのまま国内で流通させてしまうとか、持っているポンドに見合ったルピーを刷るとか、ポンドをすぐさま使って国内経済に貢献するような何かを海外から買ってくるとかすれば良いのではないだろうか。
そろそろ日本についての話をすると、日本は大幅な対米貿易黒字により、大量のドルを蓄えている。そのドルはアメリカ国債の購入などに多くあてられている。つまり日本はかつてのインドと同じことをやっているというのだ。しかも日本は、本来なら蓄えたドルを売って円を買えば不均衡は是正されるのに、円を買うことで円が値上がりして輸出企業が打撃を受けると困るため、逆に円が値上がりしそうになると市場に介入して円を売っている始末だ。
アメリカはそんな日本を逆手にとって、どんどん貿易赤字を垂れ流し、日本に借金をしつづけながら国内経済を好調にしている。しかもかの国には切り札があって、いざとなれば足りないドルをいくらでもすりつづけられるのだ。
弱気な日本に対して、フランスはニクソンショックのときに強硬な姿勢をとり、アメリカから金を確保した。フランスは核を持っていたからこそできたのだと著者は指摘している。軍事と政治と経済とは互いに密接な関係にあるのだ。ドイツは敗戦後の関係からそんなに強気には出れなかったが、それでもマルクを売り支えてまで輸出にこだわったりはしなかったため、アメリカの際限なき借金を許さなかった。日本とそしてアジア諸国だけが貨幣にこだわったのは、アジア民族の貯蓄性向が原因の一つではないかと著者は指摘する。
私はこれまでなんとはなしにニュース番組や新聞を見ていて、アメリカなどが日本に対して強硬に内需拡大を求めてこれ以上の輸出を控えるよう要求しているのを見て、日本はアメリカからの圧力をいまだに受けているのだと悔しく思っていた。日本が良い製品を作って儲かることのどこが悪いのだと思っていた。しかしこのやり方は、一部の輸出企業が中心にいて得をする仕組みなのだ。そこまでは本書を読む前から考えていたことだった。本書を読んだことで、為替の面から考えても一部の人たちを利するシステムであることを知った。
この本への批判として、いまいち歯切れが悪いのを挙げておく。為替が難しいのは分かるのだが、読者がなんとなく分かった気になるようなレベルの説明を色々と角度を変えて行うだけで、読者に何かを伝えた気になっているように思う。私は読んでいて非常にもどかしかった。入門書でも専門書でもないのだから当然だと言われれば納得するしかないのだが、もうちょっと書き方があったと思う。これだけページ数があるのだから、ダラダラしているあの部分を削ってでも、一部の読者に理解されないことを覚悟しつつ、専門的なことを読者に分からせる説明をしてほしかった。
ただ、この本の役目として「黒字はよくない」ということをより多くの人に伝えるという目的は十分果たしうると思う。
副作用として、今後の資産運用をどうすればいいのか、考えなければならないと思った。