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打ちのめされるようなすごい本

米原万理 (文藝春秋)

まあまあ(10点)
2007年10月21日
ひっちぃ

ロシア語の同時通訳者・翻訳者にして作家の米原万理が、去年ガンとの闘病の末に亡くなるまでに週刊誌に連載していた読書日記や色んなメディアに書いた書評をまとめたもの。

書評集を評するってのもなんだかなあとは思うが、文芸作品である以上レビューしちゃっていいんじゃないかと思う。私はハードカバーの本は滅多に買わないのでトイレに置いて約八ヶ月掛けて読み終えた。

この人は傾向的にリベラルで、ブッシュの起こした戦争への非難とか、体制や権力者に対してとても批判的なように思う。曰く「小泉の目つきが完全にイッちゃってる」など。沢山の本を読んでいた人なのに、ちょっと感情が大きくなってやや子供じみた考え方・書き方をしているように思えることがたびたびあった。いや文章自体はとても優れていて、こんなに完成された文章にはなかなかお目に掛かれないと思う。まあでも表現する人っていうのはこんな風に自分の感情を持ってそれを文章にする人なのだろう。もし悪い意味で中立になってしまうと何も書けなくなってしまうからだ。そういう意味ではこの本はこの人の思いに満ちていて人間が見えて良い書評集だと思う。

ロシア語の専門家という属性を持っているので、ロシア方面の文学や現代史に強く、そっち方面の本が解説されているのがとても興味深い。

読書日記の最後はガンとの闘病で参考にしたというかすがりついた本や病院を紹介している。この連載中に作者が亡くなった。私はリアルタイムで週刊文春の連載を読んでいたので衝撃を受けた。まあ連載といっても五人交代で五週ごとなので間隔があいているのだけど。最後のほうの記事は亡くなったあとで一部訂正とお詫びが出たほど病院に対する辛辣な批判があった。伏せるところは伏せていたし、多分作者が生きていれば根拠を示せて問題なかったと思うのだが、編集部がよく確認せずに載せたから訂正するとあった。真実は分からないが、ガンの周辺にはいかがわしいものがいくらでもあるという実態は確かだろう。

作者の興味は幅広いが、ちょっと私では言葉にしにくい範囲がある。なんと言えばいいのだろう。私がこの人よりも広い知識を持っていたら平易な言葉で説明できるのだろうが、それは今の段階では無理っぽい。ともかく、私にはあんまり興味が沸かないような本が熱心に取り上げられているのを見てフーンとしか思えないようなものがある程度ある反面、こんな面白そうな本があるのかと驚くことも結構あった。

話が飛ぶように思われるかもしれないが、私は基本的に女性は頭が悪いと思っている。それはまあ私が男であり、男と女は違うから、女という分からないものに対してそのように感じるだけなのかもしれない。と一応の言い訳をしつつ話を続けると、この作者は非常に女っぽい感情を持ちつつ、男のように割ときっちりと言葉にする人なので、女性的なものの考え方を理解するための手助けにもなってくれる。

ところでこの人のエッセイには「ヒトのオスは飼わないの?」という題の作品があるが、この題のオスをメスにしたらとても発刊できないだろうなと思った。この題はとても秀逸で、私は未読なのに頭からこびりついて離れない。多分この人が動物好きで何匹も動物を飼っているのに結婚しないことを揶揄した知人か誰かの発言をそのまま取ったのだと思われるが、こういう自虐的なところもすごくユーモアがあっていい。

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