ノンフィクション
随筆・日記
いまなんつった? 第0回
宮藤官九郎 (週刊文春 2008-5-29)
傑作(30点)
2008年5月30日
人気脚本家の宮藤官九郎が、これまで週刊文春に連載していた子育て日記をやめ、子育てに限らないエッセイとして再スタートした第一回は、台詞の面白さってなんだろうという根源的なテーマを非常に分かりやすく過去の経験から説明している。
劇団の稽古場で主催者がいきあたりばったりに台詞を考えていくのを書き取って台本にまとめる仕事をしていた作者が、
「バカこっちだよ」
「待てよ!」
「バカバカ言うほうが、バカだぜ!」
という一連の意味不明なやりとりを稽古場で聞いて面白いなあと思って家に帰って改めて読んでみると全然面白くないことに気づく。しかし再び稽古場で役者がしゃべるとやはり面白い。良い台詞とは声に出したときに面白いのだと気づいたのだという。
次にこの台詞を練習で何度も言っているうちにだんだん面白くなくなってきたことに気づいた。なぜか。最初は役者が台詞の意味をそれほど考えずに与えられたまま真顔で口にしていたから面白かったのだが、だんだん慣れてきて台詞の前に半笑いになってきたからつまらなくなったのだということが分かる。
これ読んで素直に感心した。内容としては結構当たり前というか、緊張と弛緩みたいな笑いの理論も目新しくないのだが、ああなるほど脚本の原点はこういうところにあるのかと大いに納得させられた。この人は理論家であり、なおかつその理論を具体例で分かりやすく伝える優れた啓蒙家なのだなと少し感動した。
どんな人でもちょっとした脚本家になると私は思う。自己紹介とか、自分の体験談を語るときとか、人に何かを頼むとき。意識してかどうかは人それぞれだがシナリオめいたものを考える。人からウケを取ることは関西人でなくても意識するだろう。
だからこの台詞のプロがこれからこの連載でどんな台詞を取り上げてくれるのかとても楽しみだ。案外しょーもなかったりするのかもしれないけど。
劇団の稽古場で主催者がいきあたりばったりに台詞を考えていくのを書き取って台本にまとめる仕事をしていた作者が、
「バカこっちだよ」
「待てよ!」
「バカバカ言うほうが、バカだぜ!」
という一連の意味不明なやりとりを稽古場で聞いて面白いなあと思って家に帰って改めて読んでみると全然面白くないことに気づく。しかし再び稽古場で役者がしゃべるとやはり面白い。良い台詞とは声に出したときに面白いのだと気づいたのだという。
次にこの台詞を練習で何度も言っているうちにだんだん面白くなくなってきたことに気づいた。なぜか。最初は役者が台詞の意味をそれほど考えずに与えられたまま真顔で口にしていたから面白かったのだが、だんだん慣れてきて台詞の前に半笑いになってきたからつまらなくなったのだということが分かる。
これ読んで素直に感心した。内容としては結構当たり前というか、緊張と弛緩みたいな笑いの理論も目新しくないのだが、ああなるほど脚本の原点はこういうところにあるのかと大いに納得させられた。この人は理論家であり、なおかつその理論を具体例で分かりやすく伝える優れた啓蒙家なのだなと少し感動した。
どんな人でもちょっとした脚本家になると私は思う。自己紹介とか、自分の体験談を語るときとか、人に何かを頼むとき。意識してかどうかは人それぞれだがシナリオめいたものを考える。人からウケを取ることは関西人でなくても意識するだろう。
だからこの台詞のプロがこれからこの連載でどんな台詞を取り上げてくれるのかとても楽しみだ。案外しょーもなかったりするのかもしれないけど。