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リサイクル幻想

武田邦彦 (文春新書)

最高(50点)
2003年3月23日
ひっちぃ

すでに世間をあっと驚かせていた分離工学の専門家である作者の突きつけるリサイクルに関する正論、再生紙を作れば再生可能な木のかわりに再生が事実上不可能な石油資源を数倍使ってしまう、といった主張を改めて新書としてまとめたもの。

分離工学と主に物質の利用方法について有効なやりかたをみつけるために必要とされる学問で、自然界に存在する資源を人間にとって有効なものとして取り出したり、使ったあとの物質をまた使いまわせるかという基本的なことなんかを研究しているらしい。たとえば鉄は酸化鉄として埋まっているので、炉で酸素を分離して使うだとか、使うときは銅と混ぜてはならない、なぜなら現在の技術では銅と鉄を化学的に分離することができないから、とかなんとか。

小さいテーマを扱った新書にありがちなのは一つの話題でダラダラと引っ張ること。しかも人文系の場合、作者の主観というか根拠のないことをブツブツと書かれたりする。その点この本は作者がしっかりとした科学者なだけあって、作者のリサイクル論の土台となっている分離工学やその周辺の学問を、原理だけでなくエンジニアリングまで解説してみせている。

この本の目玉は、そうした学問を研究している作者が出した結論だ。樹木と石油を比べると、明らかに樹木の方が資源としては短い期間で作られる、という事実から、再生紙など作るのは無駄、となる。石油からプラスチックを作ってそのプラスチックを燃やしても燃焼効率は一割も落ちないのだから、石油はいったんプラスチックにして存分に使ってから燃やしたほうがいい、となる。分別のための社会的コストを考えたら、燃えるゴミも燃えないゴミも分けずに燃やしたほうがいい、となる。燃えカスだけ集めて決まった場所に貯めておけば、技術が進んだときに資源を取り出せる、となる。

再生紙を利用しています、と表示している企業への批判が気持ちいい。当人はごく当たり前の結論を啓蒙しようと真剣なのだろうが、我々常識人からみれば、あっと驚く事実に痛快になる。だが、おそらくこれからもしばらくは再生紙づくりが続くだろうし、国や自治体が動くのはまだまだ先のことだろう。いまのところは、こんな面白い読み物を提供してくれた作者に感謝し、酒席でのネタにして作者の啓蒙活動に貢献するしかない。

(最終更新日: 2009年12月23日 by ひっちぃ)

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