| チ。-地球の運動について- |
C教の教えが支配的なP王国では、神の作った美しい世界の中心には地球があり、その周りを他の天体がまわっていると教えられてきた。大学をめざし学び舎で学んでいた少年ラファウは、そんな神の御心を探求する神学こそが最も崇高な学問なのだと教えられ、推薦を取るためにその考えを受け入れてきたが、別の真実を見つけてしまう。青年マンガ。
前からマンガ好きの間で話題になっていたので自分も読んでみたんだけど、生の暴力と先行きの読めない展開で読ませるだけの作品だと思って一巻か二巻かで投げ出してしまった。その後、2024年にアニメ化されたので改めて見てみたのだけど、あまりのテンポの遅さにうんざりしたあげく、頑丈なはずの石橋が崩れ落ちたりそこから這い上がったりする超展開に冷め、またしても途中で見るのをやめてしまった。
自分の中ではこの時点で終わりだったはずなんだけど、まとめサイトを見ていたらこの作品の舞台が実は地球ではなかったということを言っている人がいて、一体どういうことなんだと思って結局最後まで読んでしまった。この物語はフィクションだったけど舞台は地球だったw だまされたwww
三章+α構成になっていて、まずは要領のいい少年ラファウが先生に媚びを売って大学の推薦を取ろうとする様子が描かれる。そんな調子のいいラファウが、フベルトという不気味な男と出会う。神の教えに反して地動説つまり地球が太陽の周りをまわっている説の研究を手伝わされるうちに、彼の信念にあてられて覚醒する。
第二章では登場人物がガラリと入れ替わり、街の下層で汚れ仕事をしている剣闘士オグジーの話になる。貴族と教会が肥え太り、人々が貧しい生活をしていた中世ヨーロッパでは、地上は苦行の場であり耐え忍んでいるうちにいずれ天国へ行けるんだという教えが信じられていた。とんでもないブラック社会だなw
地動説が危険視されてきたのは、この世界観をぶち壊してしまうからだった。つまり地球とはこの世界の一番下になくてはならず、見上げた星々が天国でなければならなかった。自分はこの作品をそこまでいいとは思っていないんだけど、こういう描写はとても印象的で素晴らしいと思った。
剣闘士オグジーは学のない男なので文字も読み書きできないんだけど、かつて異端の研究をしていたという隻眼の修道士バデーニと出会い、成り行きで見つけた誰かの研究成果を彼に渡す。一方で、彼らが街の掲示板でそれとなく研究の手伝いを募集したところ、研究助手なのに女なので研究会に参加させてもらえていなかった少女ヨレンタがやってくる。
第三章でふたたび物語は変わり、地動説を広めることでC教の世界から人々を解放しようとする謎の組織が、移動民族の少女ドゥラカの視点から描かれる。この謎の組織の仕事ぶりができすぎていて、もうこの時点で無理があって冷めたのだけど、どうなるのか気になって読み進めた。
この作品は冒頭から生の暴力の描写が多くて、異端審問官による苛烈な拷問だとか、街の人々が私闘で命を落としたりだとか、底辺の民衆の命なんてまるで軽く扱われる世界が描かれる。だからこそ、そんな世界で信念を貫くことの意志の強さに感動する。
従来の天動説では不可解な動きをする星々が、地動説の考え方を当てはめると非常にきれいで規則的な動きをすることのマンガ表現が絶妙だと思った。
最終章がよくわからなかった。なぜあの男があんなことをしたのか。妙に感傷的というか象徴的な行動だった。まあこんな風にボカして書くと気になってそれだけで最後まで読みたくなっちゃう人が出てくるかもしれないから一応断っておくと、自分には意味不明で読後感が良くなかったことを伝えておく。
作者はインタビューの中でパラダイムシフトという言葉を使っているみたいなので十分承知しているんだろうけど、作中で「天動説」という言葉を使っていることに違和感があった。それは当時の人々にとってはあたりまえの「事実」でありパラダイムだったはずなので説なんかではありえない。
最終章で急に話をひっくり返そうとしてくる。地動説への迫害は一部の地域だけで行われてきたに過ぎず、教会全体としてはそこまでではなかったと登場人物に言わせている。わざわざこんな不自然なメタフィクションギリギリのことをやるのか意味がわからなかった。まるで連載中に受けた批判(?)に応えているかのようだった。しらんけど。
絵はうまいと思う。あまり人が描かないような陰鬱でリアルな中世ヨーロッパを描いてみせているし、その中でもヨレンタやドゥラカといった女の子はそれぞれかわいかった(ちょっと浮いてるっちゃ浮いてるんだけど)。男たちにも迫力があった。
自分はこの人の作品はこれしか読んでいないんだけど、なんというか頭のいい人が自分の論理に従って思い切りのいい作品を描いたなあと思った。こういう人はこれからも斬新な作品を生み出していくと思う。でもこの作品に関してはまだそういうところが見え透いていて、鋭いけどあからさますぎるように思った。
正直自分はこの作品をあまり人に勧める気にはなれないんだけど、C教(?)やヨーロッパ文明の信奉者に読んでもらって反応を見てみたいとは思ったし、マンガ好きなら読んでおいてもいい作品だと思った。
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