| 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です |
男爵家の三男に生まれ育ったリオンはあるとき自分が転生者であることを思い出す。この世界は乙女ゲーつまり女性向け恋愛ゲームの舞台で、自分はただのモブつまり脇役だった。雑魚男子に厳しい世界でリオンは生き残るために必死でゲームの内容を思い出して行動する。ファンタジーSF小説。
2022年にアニメ化されたのを毎週楽しみに見て、その後すぐにコミカライズ版を読み、しばらくしてから続きともっと細かいところを味わいたかったのでこの原作小説に手を出してみた。とてもおもしろかった。でもピークは最初の数巻だった。
まず主人公リオンの境遇が悲惨すぎて引き込まれた。男女逆転世界?現実の世の中は男尊女卑という言葉があるように歴史的には男性のほうが優位だったんだけど、この作品ではそれが逆転していて男は良くて種馬、悪ければ戦争で使い捨て、さらに悪ければ貴族女性のおもちゃ(!)として扱われるという。
リオンが生まれたバルトファルト男爵家は辺境に小さな領地を持ち、そこで一家貧しく暮らしていた。というのも王都で贅沢な暮らしをしていた本妻とその子供たちに大きな仕送りをしていたから。家で権力を握っている本妻の強引な紹介により、リオンはかなり年上の女性と結婚させられそうになる。下級貴族の三男とはこの世界ではそのような存在だった。
金さえあればなんとかなるということで、ゲームの知識を思い出したリオンは家から比較的近くにある「浮島」のダンジョンを一人で攻略し、そこでなんとかお宝と強力な「船」を手に入れる。そして自分の結婚相手は王都にある「学園」で見つけると言って親に入学を認めさせる。
「浮島」というのはこの世界では島が浮いていて「船」も飛行船だから。でもちゃんと海は海で下にあって普通に地球みたいな星になっている。「学園」というのはゲームの舞台となっている学校で、主に貴族の子女が高等教育を受けつつ結婚相手を探す場となっている。
リオンは学園で必死になって結婚相手を探すのだけど、この世界では男の立場が弱いので非常に苦労する。そんな中で、ゲームでは「主人公」であるはずの平民の女の子オリヴィアがなぜか誰とも仲良くなれず孤立しているのを見かける。
うーん、これどこまで説明したらいいんだろうか。あんまり説明しちゃうと興を削いでしまいそう。もうちょっとだけ説明すると、ゲームの世界をおかしくしていたのは謎の女マリエで、こいつがなぜかゲームの攻略対象である王子様を始めとした美形男子たちを独占していたのだった。
リオン自身は別に正義感が強いわけではなくて、基本的には自分のことが第一な人間なのでおとなしくしようとするんだけど、ゲームの課金アイテム(!)である強力な船ルクシオンと乗機アロガンツを手に入れているので、やられたことは必ずやりかえす性格(?)もあって勢いで人助けをしてしまう。
この世界ってファンタジーではあるんだけどなぜか戦闘用ロボットがあって騎士はみんなそれに乗って戦うようになっている。だから強力な乗機を持つことはすべてをねじふせる力を持つということでもあった。また、船で艦隊戦を行うこともあり、ルクシオンはもとは移民船でありながら旧人類の遺産であったため、現代の船が束になってかかってもかなわないだけの力があった。
ネタバレを避けながら解説するのがだんだん苦しくなってきたのでそろそろ自分の感想に入りたいんだけど、自分がこの作品で一番感動したのはヒロインの心情描写が素晴らしかったからだった。しかもいわゆる悪役令嬢アンジェリカの描写が。
本来であればゲームの主人公であるオリヴィアを妨害する立場にあるはずのアンジェリカは、男子の中で一番の大物である王太子ユリウスと婚約していて未来の王妃と言われていたのだけど、謎の女マリエのせいでユリウスの心が離れてしまい苦難の日々を送っていた。そしてついには決定的な拒絶を受けてしまう。
アンジェリカにしてみれば、破滅しそうだった自分を救ってくれたリオンから大きすぎる恩を受けたことになる。しかしただ喜んでリオンにベタ惚れするかというとそうはならない。派閥争いで劣勢ではあるけれど公爵の娘ということもあってかプライドとそれを裏付ける能力と権威があった。王国の秩序を知っているアンジェリカは、リオンの無謀さにあきれつつも徐々に好意を抱いていく。このあたりの描写が丁寧なので自分はどんどん惹かれていった。
ゲームの「主人公」であるオリヴィアのほうも、平民である自分をリオンが助けてくれる理由がわからなくて最初は素直に好意を受け入れられなかった。そのせいで逆にリオンのことが信じられなくなり大きな拒絶をすることもあった。設定や展開が突飛であっても心理描写が巧みなので他の作品とは一線を画しているように思った。
一方であとがきによると作者自身はこの作品の一番のウリを強力な船のAIルクシオンとリオンとの遠慮ないやりとりだと思っているみたいなのが意外だった。口の悪いルクシオンが、自身のマスターとなったリオンの無茶な行動にあきれ、皮肉まじりにいさめつつもなんだかんだでリオンのために働くところは、機械と人間との奇妙な友情が描かれていてとてもよかったんだけど、自分にはそれほどのものかと思った。だから最終巻でのルクシオンとの展開が盛り上がったところで正直自分はちょっと引いてしまった。結末にも納得がいっていない。
ルクシオンのほかに女性マッドサイエンティストのようなAIクレアーレも出てくる。こいつは特に女性陣に寄り添い、彼女たちから頼りにされることになる魅力的なキャラなんだけど、たまにヤバいことをしてしまい、特に一番のやらかしエピソードが最悪のフラグクラッシャーでウケた。ほかにも敵にまわるAIも出てきて、その想いの描写に少しジンとしたりもした。
自分は単行本のほうを読んだのだけど、小説投稿サイトに掲載されたウェブ版からさらに加筆されているらしくて、どのあたりを追加したのかあとがきに書いてあったのを見たらそれがことごとく微妙だったことに気づいた。特に新キャラだったらしいディアドリー先輩とクラリス先輩は出番が中途半端で不自然に感じた。ただ、ディアドリーの姉が出てきてリオンの兄ニックスと縁談になる話はすごくおもしろかった。
単行本にして全13巻あって、さすがに一本の乙女ゲームだけでは続かないので、続編ゲームへと展開が続いていく。一作目はリオンもクリアしていたものの、二作目や三作目となるとよくわかっていないので情報収集しながら手探りでやっていて、しかも手に入れた情報とは異なる動きを登場人物たちがしているので、混乱する中で謎を解いていく展開がとても楽しかった。
王太子ユリウスを始めとする攻略対象の五人の男子たちが通称五馬鹿と言われていてウケた。こいつらはほんと最初は血筋がいいだけの勘違いバカで、しばらくはなんの成長もなかったんだけど、あるきっかけにより斜め上に覚醒する。その時点でもまだまだバカではあったんだけど、徐々に人間味が出てきて最後の方になるとリオンとの固い友情が描かれており熱くなった。ただ、やっぱりちょっと描写が雑な感じがした。オリヴィアやアンジェリカをあれだけ丁寧に描いていたのと比べると。
五馬鹿は王太子ユリウス以外にその乳兄弟にして腹黒なジルク、魔法が得意なブラッド、剣聖の家系で繊細なクリス、槍使いで自信家のグレッグと個性的なキャラたちのはずなんだけど、いまいち掘り下げが足りてないように思った。ジルクだけは元婚約者との関係をめぐって本編で比較的大きなエピソードがあったんだけど、こいつ自身の成長とかは全然描かれていなかった。
リオンは俺様キャラなのだけど、学園でお茶の師匠に出会って感動し尊敬するのがおもしろかった。また、王様とも遠慮ないやりとりをするようになり、なんだかんだで結局やりこめられるのもウケた。俺やっちゃいました?的なすっとぼけた主人公の作品が多いなかで、これだけ物語に振り回される主人公も珍しいと思う。ヒロインたちにも当然頭が上がらない。
雑に感じて物足りなく思うところもいろいろあったけど、しっかりとした世界設定、先が楽しみな展開、魅力的な心理描写、と非常におもしろい作品だったのでぜひとも読んでみてほしい。
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