| おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました 5巻まで |
二十代サラリーマンの笹貫兵次が勇者としてファンタジー風の異世界に召喚されたが、これといってスキルが発現しなかったため国民に対する象徴的な存在にされ、時々ウソの戦果でセレモニーに出る以外は裏で鍛冶屋の見習いから入って働き始めた。それから十五年の時がたち、次の勇者が召喚されたことによりお役御免となった彼は、何もない森に放り出されたのでそこで鍛冶屋を始める。少年マンガ。
やっぱり自分は生産系の話が読みたくて、目に留まったこれを読んでみた。いまいちだった。ちなみにこの作品は原作小説があるわけではなくて、小説書いてた人がマンガの原作をやりたくて実現したらしい。
ヘイジは武器をすすんで作る気はないみたいで、街の鍛冶屋としてやっていくために普通の包丁を何本も作るのだけど、例によってすごい業物を作ってしまい周囲の人を驚かせるという定番の流れだった。
そこからなんだかんだで必要に応じていろんなものを作るようになり、刃物だけでなく金属加工全般、鍛造から鋳造まで色々やる。ネジや鎖帷子(くさりかたびら)みたいなものまで作るのは少なくとも自分は見たことがなくておもしろかった。ネジのところは中学での技術家庭の時間をちょっと思い出したw
ちなみに城を放り出されてから最初に作ったのは、大きな切り傷を負ったドラゴンのための医療用のホッチキスのような「かすがい」だった。そのドラゴンは一晩経つと人間の女の子の姿となって現れてクルエルと名乗り、自分にも鍛冶を教えてくれと言ってくる。
ほかに白狼族のスゥーという女の子が迷子になっていたので仲間し、こいつの一族のピンチに助力する流れになる。ヘイジは街の鍛冶屋として細々とやっていきたいだけなので他に大してやりたいことがなく、いろんな出来事に巻き込まれて冒険していく感じ。そんな中で新たな材料と出会ったり必要に迫られたりして様々なものを作っていく。
聖竜の女の子クルエルは170歳らしいんだけど精神年齢は低くて小中学生みたいな感じ。白狼族のスゥーはさらに幼く、なんだかんだで彼女たちは四十過ぎになったヘイジからすると子供みたいなものなのでロマンスには発展しない。ただ、クルエルはヘイジを意識して時々メスを出してくるし、ヘイジのほうも微妙にクルエルのことがチラついてる感じ。ぜんぜん進展しないけど。
その後、ちゃんとした成人女性の剣士ベルフェビアや勇者カナエも出てくるんだけど、ベルフェビアにとってヘイジは腕のいい鍛冶師ってだけだし、カナエもヘイジのことは勇者の先輩ぐらいにしか思ってなさそうだった。
ヘイジがいなくなった王国では鍛冶屋の品質が下がっていって追放系としてのザマァ要素も一応あったけど、ちょっと触れられている程度だった。
ヘイジがたまたま最初に見つけた空き家の鍛冶工房にはなにやら秘密があり、なぜかそこで作ったものの品質が一段高くなったのだけど、まだその秘密は明かされていない。
とまあこうして筋書きだけ書いてみると楽しめる要素もいくつかあってそれなりにおもしろいはずなんだけど、なぜか不思議なほど楽しめなかった。
巻き込まれ型の展開で話が進んでいくのがいまいちだったのかも。スゥーの一族のために一緒に戦ったり、暴れている竜を倒しに行ったりするんだけど、みんなのことを守りたいという気持ちがそこまで伝わってこなかった。そもそもタイトルにスローライフってついてるのに全然そうじゃないじゃんっていう。
最初に作った包丁が好評だったので商売を拡張する流れになるのかと思ったら、そっちは放ったらかしだった。なんで冒険や戦闘がメインになってるんだっていう。ヘイジ自体は勇者として大したスキルが発現しなかったのに。勇者カナエとまともに剣で試合しているのも意味不明だった。スキルがなくても十五年も鍛錬し続けたからだろうか。
聖竜のクルエルが竜の姿になって本気を出せばみんな驚いておもしろかったのかもしれないけど、人里離れた場所で一般人が出てこないのでみんな思ったよりリアクションが薄かった。主人公たちの強さに驚くモブっていうのもこの手の作品の大事な要素なのかなと思った。
ヘイジの作った武器をたたえる女剣士ベルフェビアもなんか反応が薄いんだよなあ。それもそのはず、ヘイジが作った本当にすごい武器(?)は空き家の鍛冶工房で本気で作った包丁だけで、それ以後はわざと威力を抑えているから。鎖帷子は地味に強かったけど、別にあれは誰が作っても同じだろうし、防御力があってその割に軽いというだけだった。
ヘイジは事態に対処するために様々なものを作っていくんだけど、突然作ってしまうので期待が高まらなかった。気が付いたら作ってる。試行錯誤感がなかった。そりゃ十五年もやってれば熟練するよね…。
だから、鍛冶を教えてくれと言ってきた聖竜の女の子クルエルに教える形で話が進んでいったら良かったと思うんだけど、結局よくわかんないうちに共同作業しているのもいまいちだった。
生産系の傑作である内藤騎之介「異世界のんびり農家」なんかは、作者自ら日本テレビ「ザ!鉄腕!DASH!!」を参考にしたと言っており、この番組では男性アイドルたちが場当たり的に何を作りたいか思いつき、手探りでいろいろなものを作っていくのが楽しかった。そういうテレビのバラエティ番組で蓄積されてきたノウハウをふんだんに取り入れているのが良かったんだと思う。もし最初っから何を作るのか筋書きがあったり専門家が裏で全部作ってたりしたら大しておもしろくなかったんじゃないだろうか。
ストーリーってのはただ描かれるだけじゃなくて、現状を描いてそこからどうなるのか読者に予測させ期待させる必要があるんだと思う。だから、よくわからないうちにイベントが起きて、現状がよく把握できないま次々と出来事が描かれても、へえそうなんですかとしか思えないんだと思う。
それは人の気持ちにも言えて、そもそもヘイジが何をしたいのか、いやどんな人間なのかも大して描かれていないので、読んでいてもどうなってほしい未来なのかわからないから共感できない。
絵は表紙なんか見ると割といい感じなんだけど、本編は省エネで線画っぽい感じがして露骨にいまいちだと思った。ヘイジのおっさん感がテキトーだし、同じようなパターンでハンコのように描いていってるみたいだった。ドワーフが一番ひどくて量産型の人形のようだった。
というわけで基本おもしろくないので勧めないけれど、恋愛要素やチートスキルが嫌いでおっさんが異世界ファンタジーをかわいい女の子や仲間たちとともにすごしていく作品が読みたいのなら読んでみてもいいかもしれない。
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