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イジらないで、長瀞さん
図書室で自作マンガを誤って床にぶちまけた美術部の先輩男子をギャルの友だちと一緒にからかった長瀞さんは、そのうち妙に興奮してきて美術部の部室に入りびたって先輩をイジるようになる。イラストやマンガの投稿交流サイトpixivにアップされた作品から始まった少年マンガ。

〇〇さん△△しないでみたいな題の作品が当時ちょっと流行っていて、この作品はいかにも二番煎じっぽくてスルーしていたのだけど、ネットでよく見かけたのでついつい気になって読んでみた。最初は全然好きになれなくてすぐに読むのをやめたんだけど、2021年にアニメ化されたのを見てたら割とおもしろかったので改めて読んでみたら最後まで読めた。おもしろかった。

このマンガの一話は強烈で、弱者男性の先輩をギャル後輩の長瀞さんが執拗にイジりまくり、ついには涙ぐませてしまうという衝撃的なエピソードが描かれている。その先輩の描いたマンガには不遇な剣士の主人公が恋を知らない女騎士を口説くという展開があったのだけど、作者を自己投影したかのような剣士がこんなに優雅に女騎士を口説けるわけないと先輩をあざわらう長瀞さんの顔は悪意に歪んでいた。

自作マンガをイジる作品をイラスト投稿サイトにアップした作者は、爆弾を放り込んでやろうとでも思っていたんだろうか。こんな頭悪そうな女が「投影」という難しい言葉を使っているのがいま読み返してみれば不自然ではある。

しかしここから話は違った展開を見せる。先輩を一方的にからかった長瀞さんだったけれど、先輩が自分の言葉や行動に反応してビクビクするのを見て喜びを覚えるようになり、かわいい女の子である自分が先輩にとって欲望の対象であることに心が震えるようになる。

それだけではなくて執着も見せはじめる。長瀞さんにはよくつるんでいる女どもがいて、通称「長瀞フレンズ」と先輩は呼んでいるんだけど、こいつらは普通のギャルなので時々度が過ぎて先輩をバカにしすぎることがあり、そうすると長瀞さんは急に反発して先輩を擁護しだす。

自分は女性が男性の性欲いじりをするのは大嫌いで、そこにはただただ相手をおとしめて拒絶することしかないからなんだけど、長瀞さんの性欲いじりは先輩の性欲が自分に向いていることを確認してひそかに喜んでいるし、自分から積極的に絡んでいくので拒絶どころか関係を求めてさえいる。

ちょっとおおげさなことを言うと、強い男性が弱い女性を半ば強引に口説くという従来の恋愛観に対して、この作品は新しい恋愛を描き出していると思う。先輩は自分も男らしくならなきゃと思っているけれど、最終的にそこまで強い男にはならず、それでも強い思いを形にすることだけはやろうとする。

長瀞さんは生意気な女だけど、一応先輩後輩の関係は守っていて、先輩に対してセンパイと呼び、敬語も一応使っている。運動神経抜群な彼女はいろんな運動部に助っ人として入って活躍している。特に最近は水泳部メインとのことで、水着を着てくることもあった。肌は浅黒くておそらく日焼けしている。たぶん海外では黒人と思われてそう。なんか白人は日焼けしないので肌が焼けるという想像ができないらしい。欧米にはアジア人もいるだろうにそんなことってあるもんだろうか。

長瀞さんは運動ならなにをやってもうまいんだけど、かつては柔道に打ち込んでいて、でもこれ一筋じゃなくていいやと思って辞めていた。それが心残りだったのか、途中で大会に出るようになる。一方の先輩も芸大を目指して塾に通いだし、互いに励まし合うようになる。

この作品を見始めた当初は一発ものっぽくてこんなに続くとは思っていなかった。単行本全20巻できっちり終わっているあたり、計画的に話を畳んだんだと思う。絵のクオリティは一巻から読み返しても違和感なくて、すでに完成されていた。でもたまにびっくりするぐらい構図の悪いシーンがあった。作者はマンガ表現全体が苦手ということはなくて、長瀞さんのダイナミックな動きとかは良かったのだけど、引きの構図だけは素人目にもひどいときがあってびっくりした。わかる人が読めばもっと見つかると思う。

いい作品だとは思うけれど、少なくとも自分は長瀞さんみたいな女の子とこの先輩のような恋愛をしてみたいとは思わなかったので、そこまで楽しめなかった。でも、こんな積極的な女の子にちょっとバカにされながらでもリードされたいと思う人は読んでみるといいと思う。
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