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生きている人と死んだ人
建築業界の雑誌「室内」を創刊し編集しながら各誌にキレのいいエッセイを連載してきた作者による、文藝春秋の巻頭エッセイをまとめたもの。

解説で植田康夫という人が言っているように、作者は「王様は裸だ」と言うタイプの人だ。マスコミが言葉を濁すようなことをもっと単刀直入に説明できると批判する。

保険会社のビルは女性営業員の膏血で出来ているとか、国鉄の第二組合を新聞は黙殺して見殺しにしたとか、女は助平なのに長年男を騙してきたとか、デパートは東横が「のれん街」を作ってから繁盛するようになったとか、金儲けはいかさましないと成り立たないとか。

この人は自分の書く文章をコラムだと言っていて、コラムとはとにかく枚数を削って文章を絞りに絞るものだと言っている。この本はまさにそんな感じに凝縮されていて無駄が少ない。淡々としているがすごく面白い。ここでいちいち要約するのもバカらしい。

文章が魅せる。独特の文体。昔の人はみんなこんな文章を書いたのかとも思ったけどやっぱりこの人の名調子なのだろう。簡潔で文章の継ぎ方に味がある。

気になったのは、言うことが重なっていること。この人が長年主張してきているいくつかのメインテーマについては結構しつこく話に上がる。同じ作者でもう一冊違う本も読み始めたのだがやはり内容がかぶっているところがある。そりゃ当然か。ダラダラ書かれるよりはずっといいのだけど。

「さじを投げる」「さじ加減」という言葉は私の世代ではよく使ったけど、「さじ」という言葉を普段使っていないのであまり実感がない。他にも和服に関係する慣用句などの言葉がこれからどんどん死滅すると指摘している。作者が挙げている言葉の中で既に私に分からないものがいくつもあった。

ちょうど作者の「妻」(差別語らしいから一応括弧で囲っておく)が死んだときのことが淡々と書かれていて胸を打つ。家に帰ってから独り言を言うようになったとか。題が「理解なき妻」とあって、「妻」は自分の書く文章を最後まで嫌いだったと書いているのもジンときた。

安部譲二にベストセラーを出させたのは作者の功績らしい。既にどこかの雑誌に書いていた文章を見てピンときたらしい。安部譲二が憮然としたときのことも淡々と描写していて何か面白い。

書かれた時期が1980年代なので内容が古い。でも書かれていることには普遍性がある。それに世の中あんまり変わっていないことにも驚く。自分の会社を引き立ててくれた取引先への贈り物にテープレコーダを選択するあたり時代だなあと思ったけど、戦前のことを私たちがよく知らないのは相変わらずだし、世の中がいかさまと隠蔽で成り立っているのも不変だ。

この人もう死んじゃったんだよなあ。いまなら代わりに誰がいるんだろう。文藝春秋という大雑誌にこんなあけすけな連載をしていたのは作者だけでなく編集者やスポンサーの力もあるんだろうな。いまはネットか。2ちゃんねるとかはとにかく情報量が多すぎるので摂取するのも大変だ。世の中を分かりやすく一分や五分や十分で説明できる人が切実に欲しい。それはそれで思考停止なのかもしれないけど、何人か信頼できる人を見つけてその人の言葉を聴いていたい。
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