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日露戦争 勝利のあとの誤算

黒岩比佐子 (文春新書)

まあまあ(10点)
2006年1月14日
ひっちぃ

日露戦争で日本がロシアとの決戦に勝ってから、講和条約を結ぶまでの桂内閣などの政治の動きと、賠償金も領土も満足に取れず不満を爆発させる運動家たちや新聞の状況を、たくさんの資料から掘り起こして立体的に書き起こしたノンフィクション。

まず桂首相の妾お鯛のことにページが割かれる。売国奴のように思われていた桂首相の妾というだけで、新聞などで面白おかしく茶化されたり投書欄で庶民から恨まれたりと、現代のマスコミとそう変わらないことに驚かされる。桂首相がたくみにマスコミをコントロールしたり圧力を掛けたりして最後に計画的に後継を原敬にして退くところが、政党政治の初期で元老なんかもいた当時の日本の政治が分かって面白い。

講和条約に反対する人々が集会を開き、それを警察が鎮圧しようとして日比谷焼討事件が起こる。警察という組織が出来てまだ日が浅い時期で、警官に取り締まられていた人力車の人夫などがどさくさにまぎれて交番を焼いたり、あせった警官の中にはただ逃げていた庶民を後ろから刀で斬りつけたりと、歴史の内実みたいなことを掘り起こしている。ヒートアップした運動が、徐々に人々の無関心により立ち消えていく。マスコミや大衆によって振り回される当時の状況が興味深い。人々は警察を憎み、戦地で戦っていた兵隊を信頼するようになる。

その後、話は新聞に移る。東京朝日新聞に池辺三山という人がいて、彼が朝日新聞に二葉亭四迷と夏目漱石を招き、新聞小説を書かせる。二葉亭四迷はロシア語の専門家で、日露戦争が終わったあとにロシアのサンクトペテルブルグに特派員として派遣されるが、体調を崩して帰国中に船上で没する。

私はこの本を読んで良かったと思う。当時の世相がとてもよく分かる。歴史の教科書だとたった数ページしか割かれない近代史の短い期間の空気感がとてもよく伝わってくる。何か一つのことを掘り下げているような類の本ではないので、人によっては何の得にもならないかもしれないが、時代のエッセンスのようなものを摂取できたように思う。

この本の正しい読み方からは外れると思うが、この時代から日本は独裁ではなくマスコミや庶民の暴走により制御を失っていくことが分かる。桂首相の強権は、むしろ暴走した庶民を冷ますために働いている。その他、こういうポイントポイントだけを知りたい人にはこの本はあまり薦められない。時間が余っていて何か読みたい人には勧める。

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