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たそがれゆく日米同盟 ―ニッポンFSXを撃て―

手嶋龍一 (新潮文庫)

まあまあ(10点)
2007年2月20日
ひっちぃ

日本の次期FSX(支援戦闘機)計画が、独自開発から共同開発に、さらには開発無しで輸入になりそうになった経緯を、アメリカ上院議会での力学を軸に描き出したノンフィクション。

私が小さい頃にニュースでさかんにFSXがどうのとやっていた覚えがあるのだが、当時の私は何のことだかよく分からなかった。だから私より若い世代はもう何のことだかよく分からない人も多いと思う。というわけでもないが、この本で解説されていることをまとめて一応のおさらいをしておこう。

日本は戦闘機を大きく二つに分けて配備していた。FX(主力戦闘機)とFSX(支援戦闘機)である。戦後アメリカの強い影響下にあった日本は、FXとしてアメリカの主力戦闘機であるF-15を輸入さらにはライセンス生産して配備するようになった。一方FSXとしては、当初はやはりアメリカの製品を使っていたが、ようやく三菱F-1である程度の国産化に成功した。だから後継機種も国産で開発しようとした。第二次世界大戦のゼロ戦など、日本には輝かしい航空先進国だった時代があった。戦後しばらくアメリカから航空産業を禁止された技術者や役人にとっての悲願だった。

ところがそこへアメリカが横槍を入れてきた。日本は世界有数の工業国になり、ほとんどの産業分野でアメリカを圧倒するようになった。アメリカとしては、これ以上の貿易不均衡と、最後の牙城である航空・軍事産業まであけわたすわけにはいかない。レーガン時代末期に繰り広げられた政治的駆け引きにより、日本はFSXの独自開発を諦め、アメリカとの共同開発をすることになった。

ところがここでさらに障害が起きる。まずレーガンが退陣し、ブッシュが新たな大統領となったことで、権力の空白期間が発生した。次に、ケビン・カーンズという公正を身上とする役人が、日本のことを不公正だと考え、議会に働きかけを行った。議会内の様々な力学が働き、ブッシュに引き継がれたFSX計画に反対票が集まり、ついには大統領の拒否権まで危機に陥る。

で、最終的になんとかFSX計画は守られ、一応計画は実を結ぶ。それがつい最近配備されたF-2だ。世界最強のF-15よりも高い、世界一高価な戦闘機らしい。まあそれは余談として、このFSX計画は日米同盟のほころびを象徴する経緯をたどったとするのがこの作者の主張らしい。

正直言ってこの本の七割以上は、アメリカの政治の仕組み、とりわけ議会に焦点を置いている。アメリカの意志決定がどのように行われるのか興味がある人には、この本は一つのケーススタディのように参考になるのではないかと思う。しかしそんなものに大して興味のない人にとっては、なんか地味でつまらない本だなと思うのではないだろうか。

私はといえば、この本に書かれているアメリカ政治のドラマはそれなりに楽しめたし勉強になった。ただ、あえて言わせてもらえば、色んなところに話が飛んでまとまりがない。一生懸命調べて分かる範囲で書きました的な場当たりさを感じる。技術者たち、日米の官僚たち、政治家たち、特に松永大使やケビン・カーンズ、ブラッドレー上院議員など、人々のドラマを扱っていて熱くなるのだが、徹底していないので中途半端に感じる。これは多分媒体や読み方の問題もあるのだろう。テレビのドキュメンタリーになって放映されたらこのぐらいのボリューム感がいいのかもしれないし、個々の人物にいちいち思い入れずに読めばいいだけの話かもしれない。

よく言えば、色んな切り口が楽しめる作品だが、悪く言えば何が言いたいのかよく分からないというか、日米同盟を心配しているのになぜそこまで議会の割とどうでもいいディテールを追いかけるのかがやはり一番分からなかった。

(最終更新日: 2019年6月1日 by ひっちぃ)

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