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ぼくはこんな本を読んできた 立花式読書論、読書術、書斎論

立花隆 (文春文庫)

最高(50点)
2007年8月15日
ひっちぃ

立花隆の仕事の基本となる読書についての小論文や対談や随筆や雑文と、週刊文春に連載中の書評の最初の方をまとめて収録した本。

ノンフィクション作家の大物・立花隆の、特定のテーマについて書かれた以外の本として最初に読むべき作品だと思う。

この人はすごい。小中学生の頃に世界の有名な名作文学をほとんど読み漁り、学校の図書館の本を全部読もうと思えば読めたと言わんばかりの記述がある。中学生の頃の作文がそのまま載せられているが、中学生とは思えないとても成熟した文章を書いている。

高校の頃はハメを外したようだが、東大に入ってフランス文学を専攻して、再び文学と哲学や思想関係にのめりこむ。その後、文藝春秋社に入社して週刊文春に配属される。そこで先輩に言われてノンフィクションの作品を読むようになり、現実について書かれた作品のあまりの面白さに驚き、そこから現実の不思議さを解き明かそうとすることに目覚める。

そう思い立った作者の決断は早く、二年半で会社を辞めて再び東大の今度は哲学科に学士入学して、五ヶ国語の素養を身につけつつヨーロッパ発祥の哲学思想をゼミで原文で学ぶ。そしてこれを基礎に、世の中で分かっていないこと、科学の最先端、社会の闇を、自分の興味の赴くままに調べてまとめる仕事にのめりこんでいく。

すごい。こんな人がいるのかと思った。フィクションはつまらないからほとんど読まない、というこの人の言葉には前から私も同感だと思っていたが、この人は世界の名作文学を相当読み漁った上で言っているのだ。言葉の重みが違う。

ちなみに立花隆は自分より読書家だという人として荒俣宏を挙げている。読書家としてだけでなく作家としてもベストセラーを持っている点を訥々と評している。

書評が必要最小限ながら要所を押さえた情け容赦ない辛口なのが恐れ入る。しかもたまたま自分が読んだ本ではなくわざわざ書評のために本屋をはしごしてこれだと思う本を読んで書いている。この人のアンテナにはお金を出す価値があると強く思った。色々興味深い本の紹介があるが、ここで私が書くよりもこの本を手に取った方が遥かに効率がいい。

私にとってこの本は立花隆についての三冊目か四冊目の本なので内容的にかぶる点もあったがおおむね楽しめた。

この人はコンピュータにも詳しいようだ。文系の学問の記号論理学と、理系の学問の論理設計学、この両方を語れるところがこの人の魅力だろう。コンピュータの専門家としての私が負け惜しみで言わせてもらうと、論理設計学の先にはCPUを設計する専門分野がさらに広がっている。と言いつつも、この人の本には書かれていないだけで、きっと立花隆はコンピュータの動作原理ぐらい知っていそうだ。オートマトンまでは知っていることがこの本で確認できる。

ネコビルいいなあ。かなり狭いけど四フロアにギッシリと本が詰め込まれた立花隆の要塞ビル。妹尾河童の絵と文章で解説されている。

にわかファンとしては出来るだけ長生きして頭脳レベルを保ってどんどん著作を増やしていって欲しい。とかいって私はまだあんまりこの人の本を読んでいないのだけど。

最後とても興味深いのは、最後の著書として他の文献などに拠り所を求めず自分の掴んだ世界観について思う存分書きたいと言っているところだ。絶対読んでみたい。書かないうちにコロリと死んだりして。頼みますよ先生。

でもこういう大量処理型の人って自分では何も生み出せないんじゃないかとも思う。佐藤優「自壊する帝国」に出てきたソビエトの数十年に一人の秀才と言われたサーシャ・カザコフが、自分はある文献とある文献との関係性について論じることぐらいしか出来ないと言っている。もちろんそれは学問上の素晴らしい成果だらけなのだけど、この人特有の何かを何もないところから生み出すようなタイプの知ではないということなのだろう。

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