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戦闘妖精・雪風<改>

神林長平

いまいち(-10点)
2002年6月11日
ひっちぃ

外人部隊のようなところで謎の存在と戦い続ける戦闘機パイロット深井零とその乗機・雪風の話。日本人SF作家として高い評価を得ている神林長平の初期作品。

謎の存在から攻撃された地球。国際的な防衛軍FAFを編成し、戦いを始めてから 30年がたつ。戦場は地球ではなく、地球と亜空間でつながっている惑星フェアリイ。地球の人々は、あまりに戦場が遠いため、戦争をしていることなど忘れている。

防衛軍FAF には、各国から、はぐれものたちがやってくる。このシチュエーションは、新谷かおる「エリア88」にそっくりである。ただし主人公やその同僚たちは、非人間的なまるで機械のような人間たちである。特殊偵察任務なので、仲間がやられてもとにかく戦闘情報を収集して確実に帰還することが求められるので、冷徹な人間であるとコンピュータに診断された人間しか来ない。

だからストーリーに人情味がない。人情味がない中で、主人公深井零が少しだけ人間性を得ていくのだが、本当に少しだけなので、安っぽい物語にならなくて済んでいる。ただ、ちょっと展開が寂しいように思う。

文庫本一冊分の量があるが、実質的には数本の連作短編のような形になっている。だから、一話一話が完結していて、いっそう寂しいように思う。

この作品は、神林長平の「初期作品」である。私はそう思う。会話の描写がどうも稚拙だし、語り口にもぎこちなさを感じる。その割に私はわりとすいすい読み進めたのだから、作品の完成度がそんなに低いわけではない。ただ、荒さを感じる部分が目についた。

SF 的なアイデアとしては、謎の存在ジャムの設定がとてもいい。ネタをバラすわけにはいかないので、ここではなんなのかは言わないことにする。あっと驚く真相があっさり語られる。ただ、どうも語り口がいまいちで、なんと実はこういうことだったのだ!! というような仰々しさがなく、淡々と進んでしまう。それが神林長平の魅力なのだと言われるとその通りなのかもしれない。

「敵は海賊」シリーズの語り口もあっさりしているが、こちらはアイデアがとにかく壮大でむちゃくちゃでオリジナリティにあふれているのに対して、この「戦闘妖精・雪風」のアイデアは SF としてはむしろ小粒のアイデアである。大粒なのは「ジャムが人間をどう見ているか」という点だけだ。あと、アミノ酸どうこうのしかけは、私は豆知識として知っていたから、なるほどここで使ったか、と思ったのだが、分からない読者への説明が十分ではないように思う。

さりげない人情味がたびたび描かれるが、はっきりと心が温まるような話がない。ラストも私には尻切れ気味に思え、結末に感動することはできない。露骨な感動話が嫌いな人のツボにはハマるかもしれないが、私には少し物足りなかった。

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