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俺の妹がこんなに可愛いわけがない 8巻まで

伏見つかさ (アスキー・メディアワークス 電撃文庫)

最高(50点)
2011年5月19日
ひっちぃ

妹から毛嫌いされている兄が、ある日の真夜中に妹から「人生相談」を受ける。それは妹のオタク趣味についてだった。モデル事務所に所属し文武両道で勉強もスポーツも得意な輝いている妹にそんな秘密があったことに驚いた兄だったが、自分になつかなくなって久しい妹のためにしょうがなく一肌脱ぐことになる。ライトノベル。

去年アニメ化されたのを見て面白かったので原作にも手を出してみた。

妹のいる兄・高坂京介の視点で描かれる一人称小説になっている。妹・桐乃はオタクだが兄は非オタクなので、妹が繰り出してくるオタクな物品の数々を兄が非オタクの視点で受け止めながら作中で解説されていく。だから分かりやすい。

妹は周りの友人たちが非オタクだからオタク趣味について一緒に話せる仲間がいないということで、兄の発案でオフ会(ネット上の知り合い同士が現実世界で行う会合)におそるおそる参加してみる。ところがその集まりで妹・桐乃は非オタクのモデルファッションで来て孤立してしまう。家族にも趣味がバレてしまい…。という危機を乗り越えようとするのが最初の巻。

妹萌え(妹大好き)なんて実際に妹がいる人からしたらありえない、という事実はこの作品でも基本的には貫かれていて、まさにそれが作品名になっている。だから、妹の部屋で妹に誘われて妹萌えエロゲーを一緒にプレイする兄、というシチュエーションが笑える。妹の関心はあくまでゲームにのみ注がれ、兄がちょっとでも誤解しそうなことを言うとマジキモいと拒絶する妹。

最初見たときはかなりありえない感を感じた。いまもその感想は変わらないのだけど、まあ面白ければなんでもありかなと思う。リア充(日常生活が充実していてオタク趣味にハマるようなスキのない人)の妹・桐乃がなぜそんな趣味に走ったのか。いずれ何か真実が明らかになるかと思って8巻まで読んでみたけれどそれらしい描写がないのでここであえて私の憶測で書くと(だからネタバレじゃないよ)、兄・京介に好かれたいのにその気持ちを抑圧せざるをえなかった妹・桐乃が、その抑圧した気持ちを「妹を愛でる系のゲーム」に向けることで自我を安定させ、それが切り口となってオタク趣味に目覚めていったと見るのが自然だと思う。

この作品の主要なテーマは、長いこと断絶していた兄妹の関係がほんの少しずつ氷解していくことで、兄・京介による一人称小説なのであくまで本人たちはなかなかそれを認めないのだけどそれがちょっと微笑ましい。兄妹が仲良くしているところよりも、反発しあっている描写のほうが圧倒的に多くて、その様子が苦くてとても味わいがある。

という人情ドラマとは別に、オタク系ギャグが爆発的に面白い。特に、妹・桐乃とは同じオタク趣味仲間とは言っても方向性が全然違うゴスロリ少女「黒猫」は、いわゆる中二病の邪鬼眼女という設定なので、自分はなになにの生まれ変わりだとか得体の知れない何かに狙われているだとかの妄想全開で、妹・桐乃とは互いの愛好する作品を壮絶にけなしあう。

痛い台詞の応酬などの即興的なギャグだけでなく、まるでよく作りこまれたコントのように爆笑もののシチュエーションが何度も発生する。声に出して笑ったあとに妙に感心してしまう。作者は明らかにウケを取るために話を組み立てている。笑いの常道なんだろうけど、久しくこういう作品に出会ってこなかった気がする。吉本の売れっ子芸人によるフリートーク的な面白さの作品ばかりの中で余計輝いていると思う。

オタク趣味的なものをギャグにしか使っていないわけではなくて、素人の行う創作活動である同人誌に打ち込むことの楽しさだけでなく苦みについても真摯に描いている。一生懸命書いた小説が自己満足的な出来でさっぱり周りから認められない人がいる一方で、テキトーに書いた(と思われる)ケータイ小説が大ヒットなんていう展開があり、エンタテイメント小説の枠に収まっていない話が素晴らしい。この作品は大ヒットしたけれど、Wikipediaを見るとこの作者は売れないクリエイターというアイデンティティも持っているみたいだった。

世間からつまはじきにされるオタク趣味の描写がいくつかあって、かなり熱いバトル展開になるのだけど、これはきっと実態とはかけ離れていると思う。父親はともかく普通の人の反応はきっと嘲笑だろう。あくまで私の推測なので実際は違うのかもしれないけれど。だからこの点についてはウソ臭く思えてしまう。あやせみたいなはっきりした反発をする人もそりゃいるだろうけど、本当にオタク趣味について描きたいならば嘲笑は外せないと思う。だからそういう描写がないところは甘いと思う。まあ最近は若い人の間ではちょっとまた違ってきているみたいだけど。

オタクな登場人物が軒並み美形というのもありえないし少々げんなりする。桐乃とか「黒猫」とか結局かわいい娘がオタク趣味だから面白いんであって、単なるギャップ萌えではありえない。まあしょうがないか。そのほうが面白いし。あと、兄・京介の幼馴染である田村麻奈美のことを妹・桐乃が嫉妬を込めて「地味子」と呼んでいるのがすごく面白い。ちょっとこいつが超人設定入っているのが気に入らないけど。

最終的に実妹との関係に焦点が行ってしまうところが、この作品の持つ根本的な欠陥だと思う。…欠陥は言いすぎか。たぶん私が人よりもその手のものに興味がないからそう思うのであって、現に妹萌えは一つのジャンルとして成り立っているわけなのだけど、少なくともメインストリームではないことは確かだ。読者の中で、兄・京介が妹・桐乃に対して何かがどうなる展開を期待している人は一体どれだけいるのだろうか。だからこの作品は非常に巧妙にそういう展開を避けて続いている。逆にこのモヤモヤがいいのかも。

アニメやゲームなんかの元ネタが分かっていて初めて笑えるネタが結構多いので、オタク趣味が好きな人はぜひ読んでみるといいと思う。オタク趣味に縁のない人でも、魔法少女ものの魅力を真剣に語る妹・桐乃とか、邪鬼眼ものの込み入った設定を熱心に語る「黒猫」、男子同性愛ものについて語る腐女子なんかできっと笑えると思う。

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