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こどものじかん 10巻まで

私屋カヲル (双葉社 アクションコミックス)

傑作(30点)
2011年6月27日
ひっちぃ

新任教師の青木大介は小学校三年生の担任を任され、赴任早々にクラスの問題を一つ解決したことで、クラス一の問題少女・九重りんから好かれることになる。非常にませた少女からの執拗な求愛を受け、彼は自分もその少女に愛情を抱いているのではないかと戸惑いつつも、教師としての道を全うしようとする。小学生の性愛を描いたことで有名になった青年マンガ。

アニメ化されているけれど私は見ていないのでこの原作マンガしか知らない。興味本位で読んでみたら既刊全部読んでしまった。

この作品の一番の目玉は、九重りんというませた少女が幼いながらも性愛を求めてくることだと思う。対する新任教師の青木大介は、あまりモテそうもない野暮ったいメガネ男ながら、スポーツ暦だけはあって教育熱心で外向的、でも彼女いない暦=年齢で、少女たちから童貞と罵られる。教師という立場上、九重りんの求愛を退けなければならないため、ませているとはいえ九重りんの繊細な心も揺らぐ。彼女の感情の振れ幅は激しく、猛烈に怒ったかと思ったら真っ赤に照れたり、傍若無人かと思ったら繊細に傷ついたりする。

なんと小学生の女の子のオナニーシーンまで描かれる。ついでに言うと、両親から疎まれたあげく死別した高校生男子が、ひきとってくれた親戚のヤンママとガチなセックスをする描写もある。といういかにも興味本位な描写をしていながら、ちゃんと倫理的に問題のない(?)ように着地させているところが素晴らしい。小学生のオナニーはちゃんと真面目に主人公教師が性教育するところにつなげている。高校生男子のヤンママとのセックスは、九重りんの複雑な家庭環境の説明になっている。まあたぶん作者はしっかり狙って描いているんだろうけれど。

主人公教師と九重りんだけでなく、周辺人物も豊かでそれぞれの物語が突発的に展開する。おっぱいの大きくて若い女の宝院先生もまた主人公に好意を寄せるがなかなかうまくいかない。でも同僚として教育問題では活躍する。学校裏サイトを扱ったエピソードでは謎のコテハンとして動いてかなり笑えた。

教育委員長の娘で三十過ぎの堅物女教師はなにかと主人公に突っかかるが主人公はポジティブなので意にかえさないどころか感謝してくるので調子が狂う。そんな彼女もたまに生徒や先生に好かれることがあり、若い頃になにかうまくいかなくて幼い面を残している自分に気づいて成長しようとする描写がありグッとくる。

問題少女・九重りんは、レイジという若者と二人暮らしをしている。レイジは前述のヤンママとセックスした元男子高校生で、そのヤンママは病気で他界している。ヤンママをとても愛していた彼は、彼女の忘れ形見である九重りんを彼女の身代わりとして愛してしまっており、九重りんが十六歳になったら結婚しようと思っている。このような倒錯的な家庭をなんとかしようと、主人公の青年教師が時に争い時に内側に踏み込んで解決を図ろうとするがなかなかうまくいかない。

とまあすごくいい話なのだけど、展開が妙に行き当たりばったりな感じがする。本当に思いつきで描いているのか、それとも意図的にシャッフルしているのか知らないけれど、色んな方面の話が突発的に少しずつ少しずつ進んでいく。一区切りとか関係なく話が止まったと思ったらしばらくしてまた進んだりするので少しイラッとくる。でもちゃんときれいに解決に導かれたエピソードもあるので、待たされながらも最後に九重りんの家庭の問題の話もいい感じでまとまってくれるんじゃないかと期待しちゃう。でも鏡黒の家庭の問題はひょっとしてあれで終わりなんだろうか。

青年教師が九重りんに抱く想いってのはこの作品にとって重要だと思うのだけど、ひょっとして自分は彼女を本当に愛してしまっているんじゃないかと独白するシーンが妙に白々しく思った。ここはむしろ青年教師に別の対象をちらつかせることで九重りんへの想いに気づかせるようにしたほうが良かったんじゃないかと思った。ってすごいありきたりだなそうなると。この作者ならこの愛は成就させないはずだと思うけれど、だとしたら一体どういう風に持っていくのだろう。

九重りんの同級生の仲良し三人組の一人、百合少女の鏡黒のキャラがコミカルすぎて逆につまらない。もう一人の内気なおっぱい少女の宇佐美々も、一足先にブラジャーをするようになったり初潮を迎えたりして物語の中で重要な役どころを演じるわりにキャラが中途半端であまり魅力を感じなかった。この作品では子供たちより先生たちのほうが良かった。

この作品の題はいまのところあまりこの作品を表していないと思う。私はてっきり子供の考えていることに焦点が当たっているのかと思っていた。作中に流れているのはむしろ「教師の時間」だった。

分かりやすい作品が好きな人がこの作品を読むと中途半端に感じてイライラすると思う。私は少しそう感じている。でもそれが些細な問題に思えるほど、この作品の懐は深くて味わいがある。読者サービス的な安易なシーンもあってそんなの私は必要ないと思うのだけど、それもまた大多数の読者をひきつけるもとになっていて、掲載誌のことを考えつつ作者が描きたいものを描いているように感じた。色んな意味で大人の作品だと思う。

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