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ラノベ部

平坂読 (メディアファクトリー MF文庫J)

まあまあ(10点)
2013年4月28日
ひっちぃ

ライトノベルを愛好する軽小説部、通称ラノベ部に入ることになり、おとなしい少女・物部文香は、変わり者の先輩たちからいろいろ教わり、ラノベの魅力に引き込まれていく。ライトノベルのいろんな作品や作風をネタにし、個性豊かな登場人物たちが会話を繰り広げるライトノベル。

同じ作者の「僕は友達が少ない」が面白かったので、一年半ぐらい前に一冊だけ読んでまあまあ面白かったのだけど、別にこれ以上読んでも読まなくてもいいやと思ってしばらく放置しているうちに、またあの内気な主人公の少女の話の続きが読みたくなったので読んでみた。全三巻なのですぐ読み終わった。まあまあ面白かったけれど、これからもっと話が面白くなりそうだというところで唐突に終わってしまった。作者曰くネタが尽きたそうだ。

主人公の少女・物部文香は、最初ライトノベルの存在を知らない状態で話が始まる。つまり彼女の無知が読者にとっての良い案内になる趣向なのかと思っていたら、作中に出るわ出るわ有名ラノベネタが。いきなり部長の浅羽美咲が、私の大好きな作品の今野緒雪「マリア様がみてる」のネタで主人公の少女に声を掛けてくる。当然彼女にはそのネタは通じず、自分でネタを解説するハメになり、出会いからグダグダな会話をして自爆する部長。大したネタじゃないんだろうけれど、やっぱりこの作品は有名ラノベネタを知っていて初めて楽しめる点がそこそこあった。自分はある程度は分かるものの、それでも知らないまたは知っていても未読の作品があって、よく分からなかったこともあった。でも別にそれほど支障はなかった。

読んでいて違和感があったのは、ライトノベルに対する愛が大きすぎること。女の子のきわどいイラスト、読みやすい文章、登場人物の努力や苦悩、とラノベを特徴づける点を登場人物が熱く語る。それを素直に受け止める主人公の少女。自分もライトノベルが好きなんだけど、別にそこまでとは思わないんだよなあ。ラノベの読者ってこんなに温度が高いんだろうか?マンガやB級グルメに置き換えてみてもいいと思う。…あ、マンガなら自分もちょっと熱くなれそうだな。ラノベって今じゃ量的にかなり出版されているんだし、ラノベの熱心なファンはかつてのマンガと同じぐらいの勢いがあるんだろうか?

そしてこの作品の中でラノベを愛好する登場人物たちというのは、別段オタクと呼べるようなタイプではなく、ごく普通の、というかラノベにありがちな美男美女揃いときた。しかも繊細なティーンだから、ちょっとでも恥ずかしいことはしたくないだろうし、照れたり隠したりしないんだろうか。とまあこんなことはラノベに言ってもしょうがないので気にしないことにする。

部長の浅羽美咲は、お調子者でグイグイ他人を引っ張るタイプ。なので部の設立時にも、幼馴染のメガネ男子・竹田龍之介を強引に誘っている。竹田龍之介は部長の浅羽美咲のことがずっと好きなのだけど、幼馴染という近すぎる距離感からなかなか踏み出せない。また、同じく浅羽美咲のことが好きな後輩キャラのスポーツ少年・吉村士郎というのがいるけれど、なんだか脇役な感じで大して印象に残らず。

主人公の物部文香に対して、同じ一年生で無口キャラの藤倉暦という少女がいて、なんとこの年で作家デビューしている。でもみんなには秘密にしている。たぶん物部文香のことが好きな百合キャラなのだけど、内気なので行動は起こさない。この作品はこの二人のダブルヒロインっぽい感じがする。ラノベ初心者の物部文香に対して、ラノベ熟練者(?)の藤倉暦は彼女にしか語れないことを語っている。心の中で。

変人枠として、腐女子つまりボーイズラブつまり美少年同士の恋愛モノが好きな和風美人の桜野綾と、二巻から登場するラノベかぶれの金髪美少女リア、そして美男子だけど毒舌サイコ野郎の堂島潤なんかがいる。

キャラ多いな。みんな個性あるんだけど、特別な異能力とか持っているわけでもないし、さすがにこれだけいるとちょっと放って置かれるキャラがいるのか、影が薄くて微妙に感じることもあった。和風美人の桜野綾は、リレー小説で自分の番になるとなんでもボーイズラブものにしてしまうところがすごくウケたけれど、それ以外の場面では冒頭に変な文字の入った扇子を広げてるだけで、しかもそれが大して面白くなかった。せっかくギャップ萌えの設定にしているのにあんまり活きていないような。体育会系の熱血君なんてほとんど出番なかった気がする。最後の大オチで使われたのに。

物部文香の妹が登場するのだけど、せっかくの世界観をぶち壊すような頭のおかしいキャラで、姉のことを神のごとく崇拝している。面白いっちゃ面白いんだけど、この作品にこんな笑い要らなかったなあ。一方で、金髪美少女リアもまあ安易といえば安易なのだけど、登場から入部までが比較的自然に進むし、ことさら持ち上げられているわけではないので普通に読めた。

振り返ってみるとリレー小説が面白かったなあ。金髪美少女リアはやたら難解な言い回しを使うし、毒舌サイコ野郎の堂島潤は登場人物をあっさり殺しちゃうし、部長は立場上うまいことみんな話をまとめるつもりが日和って無難な展開にしてしまい、まわりから白い目で見られる。この鉱脈はもっと掘れなかったんだろうか。キャラごとの個性を一通り出したらそれでもうネタ切れになっちゃうのかなあ。現実との交錯みたいなのもあったらよかったのになあ。たとえば竹田龍之介をめぐる女同士の確執で、自分に見立てたキャラを竹田に見立てたキャラに接近させたり、ライバルキャラをひどい目に遭わせたり。あるいは最後になんだかんだで感動的になったり。

絵がハンコ絵に近いのがなあ。よう太という人が描いている。パソコンゲームの絵って感じがする。明朗快活なタッチでどちらかといえばうまいほうなんだろうけれど、登場人物がいろいろ深く考えたりするようには見えず、文章とのギャップがある。

この先の展開が読みたかったなあ。同じ作者の次の作品「僕は友達が少ない」もこういう終わり方をしてしまうんだろうか。でも作者はこの作品でラノベの決まりごとについての考察なんかをしているし、「僕は友達が少ない」でもハーレムもの作品のお約束を登場人物に意識させるなどしているので、なにかやってくれそうな気はする。でもなにか一つやってそれで終わりになりそうな気配がする。

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