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1/100 グラウンド・ゼロ

高山正之 (週刊新潮 2002.9.19)

傑作(30点)
2002年9月17日
ひっちぃ

週刊誌たった 1ページで、アメリカが日本に原爆を落としたことを忘れてぬけぬけと「グラウンド・ゼロ」という言葉を自分たちの被害の象徴にしていることを批判した濃い文章。

前半は、真珠湾を日本に攻撃されたアメリカが、アメリカに住んでいた日系人たちを強制収容所に入れた話を書いている。この戦争犯罪について、なんとユダヤ人団体が、「強制収容所」という言葉は自分たちの被害についての専売特許だと言わんばかりにクレームをつけてきたのだという。

後半は、アメリカによる広島・長崎への原爆投下が、駆け足でしかも実験的に、日本を早く降伏させるためではなくむしろ日本が降伏する前になんとしても間に合わせるかのように行われたと書いている。このときフェルミという学者が「グラウンド・ゼロ」という言葉を核の爆心地をあらわす言葉として始めて使ったのだという。

興味深いことに、結論の文章を読むと、前半のユダヤ人団体の抗議は批判していないかのようだ。というのは、「強制収容所」という言葉を軽軽しく使うなという彼らの主張と同じように、アメリカ人に「グラウンド・ゼロ」という言葉を軽軽しく使うなと言っているからだ。

もちろん作者が引用したからには、ユダヤ人団体への批判もないわけではないだろう。私はむしろ、「強制収容所」という言葉にクレームをつけてきたユダヤ人団体についても違和感を感じる。

まあそれでも、話の焦点が「グラウンド・ゼロ」という言葉なのは分かる。たとえば、ドイツの高層ビルで毒ガスを使ったテロが起きたとしよう。そしてドイツ人がその事件が起きたビルを「ガス・チェンバー(ガス室)」と呼んで、テロとの戦いのスローガンにしたとしたら、果たして国際世論はどうなるだろうか。アメリカはまさにこれと同じことをやっているのだ。我々日本人は絶対にアメリカを許してはならない。…というのを書いた方が訴える力が強いと思う。我ながら非常にいい思いつきだ。ただし私はナチスがガス室を作ったかどうかについては懐疑的なのだが。

(最終更新日: 2008年7月13日 by ひっちぃ)

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