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極めてかもしだ

山本直樹

最高(50点)
2002年10月3日
ひっちぃ

お調子者のダメ人間かもしだが、長身の万能女子学生・沖津要(かなめ)らに迫ったり巻き込んだりしつつ繰り広げられる、半寮制高校を舞台にした学園もの。

解説によるとこの作品は、作者の山本直樹のスピリッツ(マンガ雑誌)デビュー第二弾となる長編連載。山本直樹はそれまでは森山塔の名でエロマンガを描いていた。塔山森名義のものもあるらしい。

全体の構成はおおよそ三部に分かれる。一部は、とにかく娯楽とエロ。ちんちくりんの主人公かもしだが、思う存分暴れてくれる。二部はかもしだの内面に焦点が当たってきて、本格的に沖津要にホレるのだが、別の女性に迫ったりホモやレズが出てきたりの相変わらずのドタバタ。三部は学校社会編で、ひょんなことからクラス別学級編成を進めることになり、謎の多いアウトロー新任教師柴川との対立。もちろんこの分け方は私が勝手にやったものだが、愛蔵版全三巻の各巻とほぼ一致する。

人物造型を見ると、主人公かもしだにはまったくいいところがないのに対して、ヒロイン沖津要は唯一背が高すぎることが一応の欠点で、あとは文武両道、ちょっとしたアクシデントで第一志望校に進学できずに流れてきたという設定。なぜ主人公にダメ人間を持ってきたのか。一途なだけの主人公は、読者に部分的にだがとても深い感情移入をさせていると思う。なんでも都合よく手に入れてしまう主人公だったら共感がない。ひたすらこばみまくるヒロインというのも、おそらく多くの人が頭の中に像として持っているのではないだろうか。こばまれてもこばまれても突き進む主人公に、すがすがしささえ感じる。多くの人は、相手が拒む展開まで行く勇気すら持たないだろう。

一部はやはり週刊誌の新連載ということもあって、いきなり飛ばしている。ダメ人間かもしだがひたすらヒロインや他の女子学生に調子よく迫るのが一部の軸。とにかく相手のことを考えず突き進む。ストーリーといいエロといい、テンポよく気楽で実にいい。一部は一番娯楽性が高い部分なのだが、それでいながらなぜか一番印象に残った。大局的に見ると展開がダラダラしているが、日常というものをとてもよく描いているからだと思う。

二部でかもしだの内面に切り込まれる。とはいっても、二部の最初に出てくる回想シーンで描かれる不良の女子学生、かもしだの人生観に影響を与えたとされるが、作中ではかもしだの妄想のように描かれているのは、娯楽作品の枠に納めようとした作者のしかけか。思い込みが激しくて突き進むことしか出来ないかもしだに、非常に印象的な示唆を与えていく登場人物たち。かなりマジメな話が描かれるが、それでいてドタバタ度にあまり変化がない。

三部は実のところ娯楽性としてはレベルが下がってくる。新たな登場人物として、新入生の熱血男子学生とそいつに積極的に迫っていく女子学生が出てくるのだが、作品の後半も後半でよくここまで魅力的なレギュラーを用意できるものだなと思う。それを除けば、沖津要は生徒会長経験者としてかもしだの尻を叩いたり見守ったりする地味な役割になってきたりとか、かもしだも内面の葛藤と戦っているはずなのだが単に新任教師柴川が怖いだけのように見えたりして、描写としては面白くなくなっていく。わき役たちはわりと活き活きしていていいのだが、主人公とヒロインが地味になっては…。大きな展開を描くには仕方がなかったのだろう。ただ、主人公たちが地味な代わりに、先の新入生熱血男子学生と積極女子学生を用意したと考えると、非常に考えられているなと思う。どうしてこうも山本直樹はこんなにいろんなタイプの魅力的な女性を描くことができるのだろう。

三部の真面目な内容が作者のもっとも描きたかったことだ、などと言うつもりはないが、非常に興味深い話だ。学生運動を批判しているというか、温かい目で見つつも期待できないというか、作者のメッセージのようなものが伝わってくる。

別の漫画家・江川達也の例を見ると、この人は本当に自分の書きたいことを作品の終わりの方に書いていく。というのは、自分の書きたいことを書いていくと人気が落ちて連載が終わるからだ。山本直樹の場合もそうかというと、私はこの人の長編作品をこれしか読んだことがないので分からない。あとがきに見る山本直樹像はとても複雑で、簡単には理解できそうもない。

かなめ(沖津要)とかもしだの関係について。かもしだは途中でかなめのことを好きだと告白し、その後たびたび好きだ好きだと言うのだが、結局かなめはかもしだを終始嫌いつづける。嫌いつづけるといっても、交遊関係というかドタバタ関係は続けている。嫌い嫌いは好きのうちと言うが、「嫌い嫌いは好きのうち」の好きと「恋してる好き」の好きは必ずしも同質のものではないのではないか。ロマンチックな関係になることだけが「好き」の結末ではない、ということが私の胸の中に浮かんだ。つまり、作品が終わったあとの展開が仮にあったとしても、かなめとかもしだはいつまでもくっつかない。もっと一般化してつまらなくすると、嫌われ続ける関係もまた人生を彩る一つの人間関係なんだよ、ってことだ。

この作品、愛蔵版で一冊 1,600円、三冊合計で五千円弱を、当然私は高いとは思わない。

ちなみに、この評を書いているのは再読のあとだ。初読は一年以上前だった。初読したときから、近いうちに必ず再読したくなるほど読後感が非常に良かった。再読後のいまは、初読後ほどの感慨はないのだが、読んでいるときは「またこの世界に戻ってきた」みたいな想いがあった。こう思える作品こそが、長編フィクションの名作としての私の必須条件だ。

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