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妹さえいればいい。 4巻まで

平坂読 (小学館 ガガガ文庫)

傑作(30点)
2016年6月5日
ひっちぃ

描く作品すべてが妹ものであるライトノベル作家の羽島伊月の暮らすアパートには、彼の作品に感銘を受けて慕う後輩で売れっ子作家の可児那由多、同年代のライバル不破春斗、大学にいたころの同級生の白川京、そして再婚した相手親の連れ子である羽島千尋が日夜集まり、ゲームに飲み食いに興じるのだった。伊月は千尋のことを義弟だと思っている。ライトノベル。

「僕は友達が少ない」「ラノベ部」で人気の平坂読の最新作。好きな作家なので手に取った。アニメ化も決定しているらしい。

千尋が実は義理の「妹」だということを伊月は認識していないので、もし伊月がそれに気づいてしまったらどんなことになるんだろうと読者を構造的に煽っているわけだけど、既刊4巻ではそんな気配はほとんどないのだった。伊月にとって千尋はよくできた「弟」であり、家事が上手で自分のことを心配して世話を焼いてくれる身内に過ぎないのであった。

ライトノベル作家の伊月のもとに作家仲間+αが日夜集ってテーブルゲームをしたり飲み食いしたりする日常がほとんどを占める日常系の作品だと思う。その合間に、編集者にせっつかれたり、アニメ化がどうのとか、誰が誰を好きだとかいう話が挟まれる感じ。

前作「僕は友達が少ない」の中で作中の人物たちが人狼ゲームという一昔前に流行ったテーブルゲームで遊ぶシーンがあって、個性的なキャラたちが本筋とは関係なくただゲームで遊ぶだけでここまで面白いのかと思ったのだけど、本作ではこの手のゲームが続々出てきて自分も遊びたくなった。自分にはゲームで遊ぶための楽しくて魅力的な仲間がいないんだなあと悲しくもなった。まあそんな面倒くさい関係を切ってきたせいなのだけど。

配られたカードをもとに強引に話を作って周りに認めさせるゲームとか、プレイヤーが発想豊かな作家ならではの面白さがあって良かった。基本的に一つのゲームを紹介がてら一回ずつしか遊んでいないのだけど、もっと勝負を見たいと思うことが多かった。作者的にも割と省エネなんだろうし(?)、登場人物たちの状況や関係性が少しずつ変化するたびに現実と絡めてもっと勝負させてほしい。

一方でテーブルトークRPGも細切れで何回かに分けて遊んでいるのだけど、こっちは正直いまいちだった。コンピュータRPGにはない自由な選択肢や行動がとれるという最大の利点があんまり面白みにつながっていなかったように思うし、自分とは異なるキャラクターを演じるという本来の趣向がゲーム内の「四姉妹」という微妙な設定で機能していない。聴猫芝居「ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?」みたいに、女の子が男の戦士をやったり、男の子がその陰に隠れるとか(男女逆転とか)やったらもっと面白かったんじゃなかろうか。で、現実の中でもたまにふざけてキャラ名で呼び合うとか。

いまのところタイトル詐欺(?)となっている「妹さえいればいい」の代わりに、主人公の伊月は後輩作家のかわいい女の子である可児那由多に猛烈なアプローチを受けている。こいつは伊月への好意を隠すことなく言葉の端々いやど真ん中に込めて伊月に言い寄るのだけど、伊月は漫才のツッコミのごとくすげなく処理していく。下ネタも平気で言う。

変人ばかりかというとそうではなくて、伊月の大学時代の知り合いの白川京は普通の女子大生で、ちょっと遊んでそうな外見だけど清純でウブ(死語?)。同年代のライバル作家の不破春斗はメイド大好きという変わった点を除けば、おいしい物が好きなイケメン男子。那由多からはその軽薄そうな外見からか「ヤリチン王子」との謂われないあだ名で呼ばれている。あるとき春斗の身に降りかかった不幸を本気で悲しむ京の様子を見て春斗は京を恋人にしたいと思うようになる。

このあたりまでがレギュラーで、他に編集者の土岐健次郎はだんだん影が薄くなっていくし、妙齢のハーフ美女の税理士大野アシュリーは役割上たまに出てくる程度。ライトノベルはイラストレーターも重要なので「ぷりけつ」先生こと恵那刹那が羽島千尋の尻を追いかけるものの捕まえきれず。既刊最新刊では伊月の作品のコミカライズに絡んで三国山蚕が出てくるがいまのところ仲間というほどではなし。

2014年末頃から放映されたアニメ業界の内幕を描いたSHIROBAKOという作品がヒットしたのだけど、ライトノベル業界の内幕を描いたこの作品がアニメ化でヒットするかどうかは微妙な感じ。一番肝となる編集者とのバトルがほとんど描かれていないから。「妹」にばかり執着する伊月をギャグで描いて編集者に突っ込ませているだけ。そしてなぜかamazon(?)のレビューにばかりやたらと敵愾心を燃やす伊月。業界あるある話も少ないし。大場つぐみ・小畑健「バクマン。」や松田奈緒子「重版出来!」のような人生ドラマ的なのもなし。

でも自分はこういうちょっと緩くて楽しい日常ものが好きなので、この作品の続刊を楽しみにしている。本来だったら、実は「妹」である千尋と、妹分である那由多との間で揺れる伊月とか、春斗からのアプローチに戸惑う京とか、もっと楽しみにしていい要素はあるのだけど、そっちは大して期待していないからこのまま続けてほしい。

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