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サユリ1号

村上かつら (ビッグコミックスピリッツ)

傑作(30点)
2003年5月13日
ひっちぃ

ええかっこしいな普通の男子大学生・ナオヤが、想像の中にいた幻の美少女・サユリと外見のそっくりな女性・大橋マキと出会い、惹かれながらも振り払ったりして、振り回される話。

単行本にして五冊分らしいのだが、私は雑誌で読んだ。最初の方は読んでないし、初めの方はもうだいぶ忘れた。本は手元にない。こんな状態で評論するというのも無謀かもしれないが、わざわざ買ってまで書くものじゃないのでこのまま書くことにする。

私の中で一番盛り上がったと思ったところは、大橋ユキに振り回されて潰されたサークルの顛末を、寂れた部室に一人取り残された女が語る部分だ。「奇跡の六人」つまり仲良し六人組がいかに虚ろなものであるかを、大橋ユキという悪魔の口を使って語らせている。

もちろん主人公・ナオヤも誘惑される。それをナオヤは、ええかっこしいという一点でなんとか切り抜ける。実際、そうでもなければ切り抜けられないんじゃないかと思うし、切り抜けられるようであれば主人公らしさの象徴である「弱さ」が無いことになる。

私はラストが割と気に入った。これが当然だろうと思う。ネタバレになるので詳しくは書かないが、人はどんなに優れたことを言っても、いざ自分の身の周りで何か起きたときは平静ではいられないだろう。そんなとき、人を救えるかといえば、救えるはずがない。

大橋ユキは整形美女で、その生育環境にも問題がある。それゆえに、見えなくてもいい部分が見えてしまう。それは、人が人を好きになる理由の裏側だ。男女に限らず、仲間・同胞も。作者が書きたかったのはズバリそこで、そのためにこういう生い立ちを持った大橋ユキというキャラを作ったのだろう。

「私は嫌いじゃないな」と大橋ユキのことを大人びた目で見る女を登場させる。こんなのがいたっていいじゃない。作者はこんな女をただちに否定する。そうやって自分に許容心があることをアピールしたいだけだと。ムカつくものはムカつくと言った方が絶対にいい!と。

こういう作品を、まさに大学生も読むであろう雑誌に連載した。作品自体が素晴らしいことは言うまでもないが、まさに問題提起すべき集団に対して直接ぶつけた。もう賞賛賞賛大絶賛。まあ当の彼らはどう読んだのか知らないけど。もうマンガはとっくに活字から文学を奪ったね。

ちょっと気になったのは、大橋ユキをアダルトチルドレンとして、主人公によって救われるかもしれない対象として描かれそうになっている点だ。もし、大橋ユキが救われました〜、ってなことになったら、これまでのは茶番になってしまわないか。いや、救われる可能性があるという時点で、大橋ユキの言葉はしょせん妄言なのではと読まれてしまわないだろうか。まあ確かに妄言ではあると思う。深く考えないほうが楽しく生きていける。

ナオヤは最後になって、題名にあるサユリ幻想を捨てることになったようなのだが、その意味がいまいちよく分からなかった。物語の展開や中身がサユリ幻想とはズレていたからだ。作者が初め意図していた方向とは違う方へと物語が描かれていったのではないかと思った。

(最終更新日: 2009年12月10日 by ひっちぃ)

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