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人をつくる読書術

佐藤優 (青春出版社 青春新書INTELLIGENCE)

まあまあ(10点)
2019年11月4日
ひっちぃ

元外務官僚で国会議員鈴木宗男の秘書のようなことをやって北方領土問題の余波で東京地検特捜部の「国策捜査」により投獄されてから作家に転身した作者による、自らの読書経験をもとに若い人にどんな風に本を選んで読んでいけばいいのかを示した本。

家人が図書館から借りてきたので、いまあんまり読みたいような本ではなかったけれどひさびさに佐藤優の文章を読んでみたいなと思って読んでみた。まあまあ面白かった。

まず作家としての読書について語っている。なのでその前提として、なぜ書くようになったのかということから話が始まる。裁判費用を稼ぐためだったというのと、周囲に対する説明責任を果たすためだったというのが大きかったらしい。親切なことに、自分の話だけでなく読者が書く理由を見つけるためのヒントまで書いている。要は理由なんて作っていけばいいんだそうだ(超意訳)。で、書くからには読んでもらう必要があるわけで、読んでもらえるような文章を書くための秘訣を色々な本から学べるのだと言っている。

次に外交官としての読書は、意外なことに小説や物語を読むべきだと言っている。日本の古典もろくに知らないと他国の外交官から話を振られても対応できずバカにされるというのが一つと、古典や神話にはその国の内在的論理や潜在意識が含まれているから他者を理解する助けになるのだという。あとは古典に限らず小説には人間同士のやりとりが描かれているので、誰かと仲良くなるためのパターンを蓄積できるとのこと。

ここから作者の小さい頃の話になる。最初アマチュア無線に夢中だったけど、中学の時に塾の先生からモーパッサンの「首かざり」という作品を勧められてハマる。見栄を張った夫人が借金に苦しむ話みたいだけど、すごい乱暴に言うと世の中のやりきれなさや人生とはなにかということを考えさせられる作品だったらしい。ほかにも数学の面白さを教えてもらったり乱読や暗記の重要性を悟ったりするのだけど、そういうのはあくまで手段にすぎず、重要なのは人生に立ちはだかる問題を乗り越えるためのよりどころを何に求めるべきなのかということだった。

結論から言うと作者の場合それは宗教になった。これだけ頭の良い人がなぜ宗教に傾倒していったのか自分にはずっと疑問だったのだけど、今回ようやく合点がいった(ガッテンガッテン)。中学でキリスト教と出会ったものの、高校では逆に宗教を真っ向から否定するマルクス主義(合理主義)と出会った。どちらが自分に合っているのか?それを判断する土台となったのが古典哲学だった。ここから作者はどういう過程を経て宗教に至ったのか?

ざっくり説明すると、神は一人一人の心の中にはいるかもしれないよねっていう折衷的な考え方に対して、いやそれって神が絶対的に存在するかどうかとは関係ないよね、っていうことに気づいたかららしい。でもって、本当に困っている人に対して、人知を超えた力が顕現することってあるよね?それって神なんじゃないの?みたいな感じ。

自分はあまり共感出来なかったけれど、一人の人間がたどった道として説得力のある話で興味深かった。というかこれ読んで自分は別の意味で神を発見してしまった(!)。複数の人間が集まった集団がまるで一つの人格を持っているかのように動く現象が確かにあって、それはいわゆる社会心理学だ。人に限らず動物や自然現象すら複雑な相互作用によりカオスが発生し、あたかも一つの人格を持っているかのように振る舞うことがある。それを宇宙全体にまで拡大すると、宇宙が意志を持っていると考えてもいいと思う。それを神と呼んでもいいんじゃないだろうか。もしそれを神と呼べないのであれば、あなたのすぐ隣にいる人が意志を持っているかどうかも分からなくなるよね?みたいな。この世の中に意志を持った存在は自分だけだという究極の合理主義者だけが無神論者を名乗れるんじゃないだろうか。まあ人間は勝手な生き物なので、神を信じない一方で自分と似たような存在(思い込み)にはきっと自由意志があるんだろうなと思っているわけなのだけど。

個人的に一番面白かった話は、外務省にいたころに優秀な若手連中をモスクワ大学などに留学させたところ、誰一人卒業できなかったことがあったそうだ。その理由を現地に問い合わせたところ、彼らには三つの問題があったらしい。まず一つは高度な経済学や統計学の教科書を読み解くために必要な偏微分や線形代数といった数学の知識を持っていなかったこと。次に物事を論理的に理解したり反駁したりするのに必要な論理学、特に記号論理学の知識がなかったこと。図らずも文系エリートつかえねーっていう話が出てきて笑った(語学についてはまったく問題なかったらしいんだけど)。そして最後の問題が哲学的知識の欠如らしい。これは高校の倫理の教科書に書いてある程度を知っていれば十分らしいけれど、日本の高校生は倫理なんてろくにやらないのに対して、海外の学生とくにエリートほどこういうのをしっかりと勉強しているらしい。倫理といっても人として道に外れないことをしようねっていう道徳的な話というより、世の中の進歩ってなに?幸福ってなに?みたいなこと。ちょっと前に流行ったマイケル・サンデル先生の白熱教室みたいなやつ。早稲田の付属校に行った友人が学校でカントを勉強したと言っていたのを思い出した。

読書には順序が重要らしい。たとえばニーチェはいきなり読むな、まずはデカルトやカントなどから読め、といっている。人類の思想がどういう道をたどっていったのかを順番に理解するのがいいらしい。じゃないとその後に出てきたものへの理解が中途半端になるから。うーん、自分もうダメじゃん。いまから勉強しなおせばいいのか。

師を持ったことが良かったと言っている。いい本を勧めてくれるから。自分の若い頃は師匠なんて気恥ずかしいし若者特有の根拠のない全能感のせいで誰かに教えを請おうという気になれなかった。師匠がいなかったら大きな本屋の書店員に訊くといいとも言っている。学者と違って特定の学派や考え方に偏らずまんべんなく知っているから。

ゲームやスマホは若いうちは遠ざけろと言っている。これには反論したくなる。スマホでSNSが当たり前になったいまの若い人のほうが文章の読み書きに強いような気がする。正直、小説投稿サイトなんてものがあれだけ流行るとは思わなかった。友達同士とかでも結構な文章のやりとりをしていると思う。スタンプばっかかもしれないけど。

マンガはOKらしい。キングダムや闇金ウシジマくんやミナミの帝王なんかを挙げている。あと本から離れるけど定額動画サービスもいいよねって言っててウケた。読書術と言っているけれど映画でもドラマでもなんでもいい。

専門家が書いた本を読めと言っている。門外漢が書いた本はどこかおかしいから。しかしその一方で池上彰のことは持ち上げている。池上彰って何かの専門家だっけ?やはり「通俗本(入門書)」は専門家ではなくてその分野の素人が書いたもののほうが分かりやすいと思う。専門家は素人がどこでつまずくか分からないから。卑近な例を言うと自分は分数の割り算でつまずく子供にうまいこと教えられるか自信がない。とはいっても素人が好き勝手書くのではなくてちゃんと専門家の話を聞いたり著作を読んだりして理解しているのが大前提だけど。

ちなみに池上彰の番組で紹介される知識というのは、ちゃんと専門家が出したものらしい。でも番組スタッフは池上彰のことを何でも知っている人に仕立て上げたいのか、その専門家の名前を表に出さないことを条件に知識だけ提供してもらっているらしい。本当にあさましいことだと思う。そんなんだから多分二流の専門家しか協力していないんじゃないだろうか。一方でNHKの「チコちゃんに叱られる!」なんかはちゃんと専門家を表に出した上で諸説あることも断っていて、ちょっとおちゃらけているけれどきわめて誠実な姿勢だと思う。

ついでにいうとその池上彰の話や著作を、お笑い芸人オリエンタルラジオの中田敦彦がさらにかみ砕いてYouTubeで解説していて結構人気がある。ちょっと見てみたけれど、そこそこのクオリティでおもしろく解説した動画をコンスタントに毎日(?)アップしているのはすごいと思う。支えるスタッフの力も大きいんだろうな。

一回さらっと読んだらおしまいで手元に置いておきたいような本ではないけれど、佐藤優のいいところがそれなりにまとめられた、特にこれから色んな本を読んで勉強していきたいと思っている若い人にとってはためになる話が色々書かれているので、気になった人は読んでみるといいと思う。

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