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老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます 268話まで

FUNA (HinaProject Inc. 小説家になろう)

傑作(30点)
2021年1月24日
ひっちぃ

家族全員を事故で失った高校三年生の女の子・山野光波は、両親の残してくれたささやかな財産を狙う欲深い叔父を退け、一人で生きていく決意をした。しかしあるとき不良連中に強引に迫られ、逃げようとして崖から転落し、死ぬかと思ったらなぜか異世界へ飛ばされていた。異世界と地球とを自由に行き来できる能力を手にした彼女は、いつ能力を失っても生きていけるよう両方の世界に生活基盤を築きお金を貯めるために奮闘する。ライトノベル。

同じ作者による「私、能力は平均値でって言ったよね!」がとても面白かったので読んでみた。とても面白かった。

この作品の特徴は、主人公の女の子が異世界への転生ではなく転移(ワープ)できること。なんと地球との自由な行き来が出来る。行ったことのある場所または写真なんかで強くイメージできる場所であれば好きなところへ転移できる。あと、彼女は幼い外見をしているけれど自立心が旺盛で、かといって自分の能力を使って人生を派手に謳歌するつもりはなく、つつましく堅実な一生を送りたいと願っていること。

最初に飛ばされた先は異世界の山奥で、何が起きたのかよく分からない中で助けてくれた村の少女コレットと身振り手振りで意思の疎通を図る。そのうちまたピンチに陥り、自分が異世界へ飛ばされた原因となった不思議な存在と接触し、あらゆる言語が扱える能力と自由な転移能力を得る。逆に言うとそれ以外の能力は持たない。ただし自分の身だけでなくある程度の大きさのものまで一緒に転移させることができる。

彼女は志望大学に落ち、かといってすべり止めの大学へ行く気もそのまま就職する気にもなれなかったため、地球のものを異世界で売って稼ぐことを思いつく。商売するなら栄えた場所がいいということで、異世界の王都で店を開こうとする。ここの異世界はよくあるファンタジー風の世界で魔物はいるけれど派手な魔法はない中世ヨーロッパに近い世界だった。

ヒロインの山野光波ことミツハは背が低くてアジア人にありがちなように年齢を低く見られがちなので最初よくナメられるのだけど、欲深い叔父を退けたように自分の意志を強く持って行動する強い女性なので、身に宿った能力を使ってナメた奴らを次々と撃退していくのが楽しい。

一方で仲良くなった人たちのことは大切に思い、特に自分より年下の子供たちのことはかわいがり甘やかす。中でも最初に出会って助けてもらった少女コレットちゃんと、高い身分による物おじしない性格によりグイグイ迫ってくる第三王女サビーネちゃんに対しては、なんだかんだで特別扱いし地球関連の秘密をどんどん打ち明けていく。

興が削がれるのでその後の展開はあまり詳しく説明しないほうがいいと思うけれど、色々あって手柄を立てた彼女は貴族に取り立てられ、ささやかな領地をもらって領地経営をするようになるところは作品の特徴として外せないだろうから書いておく。あと、しばらくして大砲を積んだ異国の船団が港に来て服従を迫ってくるため、周辺の国々を含めて団結し技術革新を進めて異国の軍事力に対抗できるよう後押しするほか、海の向こうの異国まで単身行って弱体化工作を始める。

よくある異世界チートものと比べると、自分がいなくなったときのことを考えてあまりやりすぎないようにしている。あくまで周りの人々が自立して生きていけるよう手助けをするにとどめている。スローライフ系ってやつなんだろうか。とはいってもなかなか調整がうまくいかず、想定と違って大変なことをしてしまい、徐々にこの世界にとって大きな存在になっていく。

恋愛要素がほとんどない。ミツハを口説こうとする人たちが何人も出てくるけれどみんな袖にしてしまう。能力目当ての男ばかりではなく、身を挺して彼女のことを守ろうとするアレクシスくんみたいなのもいるんだけど、彼の求愛行為を事前に阻止して逃げ続けるのだった。

主人公は社会経験がないくせに領地での使用人募集の面接でやたらとテンプレ文句(ありがちな自己アピール)をバッサリ斬ってみせる。叔父を始めとした汚い大人と戦ってきた経験があるんだろうけど、求職活動もしたことないのにさすがにこれは不自然だと思った。

彼女みたいな人間だったら自分の能力だけで身を立てたいと思いそうなもので、たとえば金を払って海外の民間軍事会社で銃の撃ち方を習って自衛能力を身につけるところはいかにも彼女らしいのだけど、その一方で地方領主に取り入ろうという発想が出てくるのはよく考えたらちょっと不自然だと思う。嫌な相手とも我慢して付き合っていかなければならないということを学んでいくのが大人の物語だと思うのだけど、そこまでしないうちに都合よく領主一家と仲良くなれてしまうのがなんだか子供向けの都合のいい物語という感じがした(良し悪しは別として)。

異国編が始まったところでさすがに話が広がり過ぎだと思った。話自体は相変わらず面白いのだけど、自分の国や領地があるのに異国の宮廷工作や新たな事業まで始めてしまい、本国の描写が少なくなってしまう。特にせっかくブログで専門家を招いて領地経営に生かしたのに、結局ほぼ一回こっきりで終わってしまっている。地球の方でも税金対策として小国で喫茶店の経営を始めたり日本で美術品販売を始めたりと、いままでと比べてそこまで面白くない新展開が次々と始まって散漫な感じがした。

なんだかんだで転移能力が無敵すぎる。地球と往復できるので地球産の電化製品なんかを発電機込みで自由に持ち込み放題だし、土や石を切り出すのも自在に出来る。地球の人工宝石や香辛料や化粧品なんかを安く手に入れて異世界で高く売るのもお手の物。さすがにやりすぎるとおかしくなるので控えめだけど、途中から商売が安定してしまうのでドキドキ感に乏しくなる。

FUNA三部作(?)の他の「私、能力は平均値でって言ったよね!」「ポーション頼みで生き延びます!」と主人公の性格や描写が多少かぶってしまうのも気になった。「平均値」のマイルは元優等生で寂しがりや、「ポーション」のカオルは社会人経験があって面倒見がよく、そして本作のミツハは無頼だけど世話になった人たちには逆らえないといったように、それぞれ基本的な性格には大きな違いがあるのだけど、貧乳で幼く見られがちで地の文で冗談を言って自分で突っ込むといった点は共通している。

ミツハのいいところは、世話になった伯爵から時には叱ってもらったり、自分より偉い王様や貴族のことはまともな人であればちゃんと立てることだろうか。マイルは世間知らずでどこか超然としているし、カオルは誰に対しても基本的に居丈高だから、ミツハは一番バランスがとれているキャラかもしれない。でも地球では異世界の王女として各国代表に対して厳しく接していて無頼モードを崩さない。もっと振り回されキャラとして一貫性があれば好きになれたかもしれない。第三王女サビーネちゃんのおねだり攻勢とかコレットちゃんが想像を超えて成長してたじたじするのが一番魅力を感じた。

なんだかんだでとにかく話が面白いので、異世界ものが好きな人ならぜひ読んだ方がいい安定の作品だと思う。美少女ハーレムが好きだとか、生意気な少女が嫌いとかでない限り、広く楽しめるので読んでみてほしい。

[参考]
https://ncode.syosetu.com/
n5529cy/

(最終更新日: 2021年1月26日 by ひっちぃ)

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