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    首藤剛志 (WEBアニメスタイル)

    最高(50点)
    2007年2月18日
    ひっちぃ

    「ポケットモンスター」第一期や初期の映画、「さすがの猿飛」「ミンキーモモ」「戦国魔神ゴーショーグン」の脚本やそのシリーズ構成をした脚本家の首藤剛志が、自らの若い日の経験やこれまでの仕事でのエピソードを語ったり、身辺雑記をまじえて脚本家志望の人にアドバイスを送ったりしている連載コラム。

    とても面白い。若い頃の突飛な思い出や当時の変わった恋人との付き合いまでサービス精神旺盛で書きまくっている。せっかくなのでさわりだけでも時系列で紹介したい。

    まずこの人は子供の頃から文章を書くのが嫌いだったと言っている。だからひねくれた文章ばかり書いていたそうだ。たとえば渋谷区をどうしたら良くなるかというテーマの作文を書けと言われたら、何もしなくていいという内容でまとめ、それがなんと大賞を取ってしまったりする。本人の口からは出ないがこれはこの人が天性の作家であることを証明しているように思う。

    やがてこれからの進路をどうしようかというとき、この人の世代は団塊末期にあたり、なにせ子供が多いので受験戦争がもっとも過酷な時期だったそうだ。受けた大学にことごとく落ち、妹の気遣いでシナリオ学校に通うことになる。しかしその学校での授業内容にガッカリし、もっぱらそこに集まる変わった人たちとの交友を通じてシナリオのこやしを得る。

    そのシナリオ学校でますます文章嫌いを自覚するようになるものの、好きで書いた一風変わったシナリオが業界人の目に留まり、「まんが世界昔ばなし」の中のマイナーな童話の脚本を書くことになる。プロの脚本家をきどって喫茶店で形から入って執筆したときのことをコミカルに語っている。

    ここでこの人の書いた「かしこいコヨーテ」の脚本を丸々ウェブに掲載してくれているので読んでみた。なるほど脚本とくにアニメの脚本とはこういうものなのかと非常に納得した。絵コンテの元になるのが脚本なので、話の導入部の説明シーンをどうするのかから入って、台詞回しやしぐさだけでなく場面転換の指示まで入っている。作者は素人が脚本を読むのは難しいと言っているが、この「かしこいコヨーテ」の脚本は作者のプロ処女作にも関わらず大変完成度が高いのでぜひ読んでみるといい。脚本というものを初めてじっくり読んだ私でもすんなり読めたし楽しさが伝わってきた。

    さらにこの人のすごいところは、試行錯誤の段階での失敗まで再現し、ト書きが多すぎる例とか、登場人物が何でも台詞で説明してしまう例とかを器用に書いて分かりやすく説明してくれている。ここまで書いてくれればバカにでも分かる。この人は生まれながらの文章書きの上に、自分の過去の失敗まであけすけに語れるすごい人だ。サザエさんの脚本を書いて「トムとジェリーじゃないんだよ」(注:トムとジェリーはアメリカ産ドタバタコメディアニメ)とボツにされたことまで書かれている。

    このコラムにはたびたび作者の若い頃の恋人が出てくる。20歳までに海外に出て暮らしたい、と言って英語を勉強していた人で、女性特有の一徹さと気まぐれさを備え、作者を振り回していたさまが描かれる。よくまあここまで書けるなと、いやよくぞ書いてくれたと感謝したくなる。彼女を追いかけて仕事を休んで単身ヨーロッパに行ったり、逆に彼女が日本に帰ってきてその彼女をドイツ人が追いかけてきてなぜか三人で話し合ったときのことなどが書かれている。

    アニメの脚本家は稼げないのでセールスの営業もやっていたらしい。30歳ぐらいまでは本業よりこっちのほうが稼げたとのことだ。ここで色々な人と会話したことが脚本家としていい経験になったと言っている。

    「まんがはじめて物語」の脚本を手がけているうちに、ついにはメインライターになり、そこから本格的に色々な作品に関わっていくことになる。この作品は私もギリギリ知っているが、物心ついた頃に最終回を迎えているのでよく覚えていない。結構楽しみにしていた覚えはある。ここで教育関係の賞を受賞し、脚本家としての評価がある程度定まったらしい。

    ここからロボットもの「戦国魔神ゴーショーグン」をやり、独特の世界観を持った監督のもとで無理難題に応えているうちに、最終的になんと物語の決着をつける役割を引き受けるハメになり、悪戦苦闘しながらも信頼を得ていく過程が書かれている。

    そして魔法少女ものの「ミンキーモモ」やパロディ忍者もの「さすがの猿飛」に入っていく。この頃になると脚本家というよりシリーズ構成と呼ばれる脚本の総元締めのようなことをやっており、自分で脚本を書くのではなく、脚本家を探してきて方針を示して書かせ、それを見て採否や部分的な手直しを求めたり、監督と話し合って大枠を決めたりするようなことを中心にやっている。「銀河英雄伝説」の最初の映画や第一期も手がけている。作中全編でクラシックを使うことを考えたのもこの人らしい。

    予告編で登場人物が好き勝手なことをしゃべるスタイルもこの人が考え出したらしい。声優のキャラに合わせて脚本を書くこともやっているそうだ。

    ちょっと説明に疲れたのでここらでまとめたい。

    正直私はアニメとくに原作のないアニメ独自の脚本はつまらないものが多いと思っている。しかしこの人はアニメ独自にこだわり、自分の書きたいものを書いてきたそうだ。原作に縛られたくないといっている。この人はこの人で、最近のアニメの脚本は全然ダメだと言っており、私はこの人の書いた作品を改めて見てみたくなった。

    この人の創作術の中で重要なポイントは大体以下のようなところだ。

    ・とにかく映画の過去の名作を最低百本は見ろ。
    ・完全なオリジナルなんてものはごく一部。引用するならなるべくオリジナルから。最近の作品を引用するな。
    ・現実世界でとにかく人づきあいをして登場人物に活かせ。
    ・プロット(あらすじ)をあらかじめ決めるな。登場人物が勝手に動くようになるよう仕向けろ。

    どれもうなずける。

    ほかにもまだあり、ワープロやパソコンではなく原稿用紙(ペラ)で最初は書け、とかシナリオ入門本はとりあえずは読むなとか、細かい実践術を色々言っている。

    このコラムを読んで得た一番の成果は、映像作品を見るとき脚本を意識してみようと思ったことだ。芸術のちょっと変わった観方を啓蒙された。これまで私は何度も脚本がどうの演出がどうのとレビューしてきたが、脚本についてここまで深く考えたことは無かったからだ。

    この人自身を評価するには、この人が書いた脚本で作られたアニメ作品をじっくり見てみないと分からないが、少なくともこのコラムにはこの人の考え方が詰まっており、大体どれも納得させられ興味深く読んだ。こんな人がアニメ業界にいたのかと少し感動した。

    ただ、本作は今のアニメ好きの人が読んでもそれほど面白くはないかもしれない。

    そういえば「さすがの猿飛」だけは割と見た覚えがある。正直なところ、私はこの作品をあまり面白いとは思えなかった。原作が早々に尽きてほぼオリジナルの脚本でやったらしく、有名な作品をもじってパロディにしてどたばた喜劇に仕立てて毎回ハチャメチャにやっていたらしい。これはこれで面白かったと作者は語っているが、私には空騒ぎにしか思えなかった。

    私は実は今でもアニメを結構見ているのだが、ここでレビューはしていない。その理由は、書いたら多分八割から九割はけなして終わるからというのと、アニメを真面目に論じるのはかっこわるいという思いがあるからだ。ちょっと考えを変えてみようかなと思わされた。

    にしてもアニメ関係者は本当に早死にするらしい。作者が自分より若い人がどんどん死んでいくと嘆いている。恐ろしい。

    [参考]
    http://www.style.fm/as/
    05_column/
    05_shudo_bn.shtml

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