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    綿谷りさ (文藝春秋社 週刊文春連載)

    傑作(30点)
    2011年5月17日
    ひっちぃ

    百貨店でファッションブランド店の売り子をしている樹理恵には、アメリカ帰りの素朴な彼氏・隆大がいた。しかし彼はある日、同じくアメリカ帰りの元カノ・アキヨを就職活動が終わるまで自分の家に住まわせると言い出す。困ったときには助け合うのが当然だという考えを曲げる気がない彼は、もしそれを許さないというなら別れると言う。樹理恵の悩みの日々が始まる。最年少芥川賞受賞作家による週刊誌連載小説。

    受賞作「蹴りたい背中」が面白かったので次の作品を楽しみにしていつつ、単行本は高いしかさばるから嫌だなあと思って待っていたら、私の愛読誌・週刊文春で連載小説が始まったので読み始めた。

    うわこれは読ませるなあ。樹理恵の一人称小説なのだけど、いきなり恋人から突きつけられた元カノとの同棲宣言に混乱し、恋人からの説得に耳を傾けたり、職場の同僚や英会話教室の講師たちに相談したり、自分の頭の中で正当化しようとする葛藤の描写がモンモンとする。

    頭で考えたり話を聞いてばかりではしょうがないので、ついに決心して来るなと言われていた彼の棲家にアポ無し訪問をしたり、彼の携帯を無断で覗き見たりする。このへんの自己正当化の描写がとても女くさくてじっとりする。樹理恵という自分の名前を恥ずかしがっているところとか、タバコが嫌いだという彼氏に従って仕方なくタバコを断っているところとか、彼女の持っている人生観に引きずり込まれる。

    と毎週楽しみにして読んでいたのだけど、びっくりするほどあっさり終わってしまった。どうしたのだろう。ひょっとして打ち切り?それとも予定通り?樹理恵の陥った理不尽な境遇はついに打ち破られて驚愕の結末へと向かう。なーんて煽ってもしょうがないな。最後の元カノ・アキヨの妙にエラぶった台詞や態度に違和感を覚えた。一人称小説のため結局真実は分からなかったし。最後に樹理恵が出した結論が正しいんだろうなと思った。

    にしても作者の綿谷りさってどういうキャラクターを持った人なんだろうか。著作が出るたびに書評だけは読むのだけど、ちょっとひねくれた感じの人っぽい気がする。芥川賞受賞作の次の単行本名が「夢を与える」で、この言葉に対してイラッときたみたいなことがWikipediaに書かれている。また、その次の単行本「勝手にふるえてろ」は地味な女の恋愛観が日和る話みたいだ。あんなおとなしそうな美人作家が、結構毒を持っているみたいなのが面白い。部数は大幅に落ちてはいるけれど二十万部近く売れていていずれもベストセラーと言っていい。

    この作品は、結末が安易すぎるとは思うけれど、あまり引っ張られずに終わったし、終始高めのテンションを維持していて、読んでいて結構面白かった。いずれ短編集として出ると思うので読んでみるといいと思う。

    (最終更新日: 2011年5月17日 by ひっちぃ)

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