日本のゲーム産業を生んだユタ州・国防省人脈
佐々木敏 (週刊アカシックレコード)
いまいち(-10点) 2002年5月26日 ひっちぃ
任天堂のゲーム機をヒットさせたのは、アメリカの国防総省の工作ではないか、とする自説の説明。
もう五年くらい前の記事なのだが、メーリングリストで最近も取り上げられていたので改めて読んでみたら、どうにも不自然な部分を感じた。
在日韓国朝鮮人がパチンコ業界を巨大産業にしたらしい。彼らは嫌々ながらも北朝鮮に献金しているので、いつまでたっても北朝鮮は経済的に成り立っているらしい。そこでアメリカの国防総省とその人脈の人々が工作して、任天堂に CG の技術を教え、ゲーム機をヒットさせてパチンコ業界を衰退させようとした、というのが著者の主張するストーリーである。
確かに、突如任天堂という花札やトランプの会社がゲーム機を出してヒットしたという事実には、あまり必然性がない。だが、かといって背後で何かが暗躍していたと考えるのはもっと不自然である。
家庭用ゲーム機の先駆けは、アメリカのアタリ社であり、著者はこの社名が囲碁の用語から来ていることを指摘して、はじめから日本をターゲットとしていたのではないかと言っている。しかし、経済学の講義で今も使われているというアタリショックを見れば分かる通り、アタリ社はアメリカで本気でビジネスを展開し、類似製品を売り出してきた競合他社もろとも業界が壊滅して終焉を迎えた。
家庭用ゲーム機がパチンコと競合させるために作られた、というのはかなりおかしい。インベーダーゲームがパチンコ業界を一時的に苦境に陥らせたそうだが、インベーダーゲームはタイトーである。このとおり、アメリカの新技術を取り入れるのはそんなに難しいことではないので、任天堂以外でもやっていたことである。
任天堂アメリカの副社長が元海軍専属弁護士のハワード・リンカーンだったというが、その任天堂アメリカの最初のヒット作は「ドンキーコング」だった。このネーミングは、アメリカでは絶望的にヒットの見込めないものとされ(ドンキーには英語では悪い意味が強い)、非常に日本人的な名前のつけかたである("GAME OVER"という本にはこの名前を危ぶむ関係者の声が強かったとある)。ヒットさせて日本に逆輸入することを目的としてアメリカ人が裏で糸を引いていたのだとは考えられない。
佐々木敏はコンピュータ業界にわりと詳しいのだが、彼が国際情勢を分析するほどには業界の裏には詳しくないようである。
彼は、インテルやマイクロソフトは業界の本流からすれば取るに足らない企業だと豪語している。技術的にはもっともだと思う。それに、確かにインテルはイスラエルに研究開発拠点を持っており、Pentium 4 の設計もそこでやっており、保守本流とは関係が薄いというのも分かる。だからサンやオラクルやアップルやモトローラやゼロックスなどの保守本流系企業の技術を盗んでいるに過ぎないと言っている。
彼の説が正しいと仮定すると、では日本とかかわりの深いインテルとマイクロソフトはどう説明するのだろうか。インテルは日本のビジコム社からの依頼で世界初のMPU(CPU)を作っているし、マイクロソフトやコンパックは最初のころは日本の資本の助けを受けていたという話を聞く。もちろん彼は日本にはそんな裏で糸を引くようなことはできるとは考えていないので、日本企業の裏にはユダヤがいるとでも言うのだろうか。ビジコムも日本の小さな電卓会社であった。彼は、NEC の経営陣の一人が、ダビデの星をほのめかすことをポロリと口にしたので、ユダヤ陣営だったと言っている。いくら日本製品のアメリカでの流通始めにユダヤ系が関わっていたとはいえ、短絡的すぎるのではないだろうか。
この記事が書かれてから五年近くたつのだが、そのあとで起きたアメリカでのポケモン・デジモンブーム、家庭用ゲーム機の日本陣営による支配なども、やはり背後にユダヤがあると考えているのだろうか。少なくともそう考えなければ、任天堂の家庭用ゲーム機がパチンコ業界を縮小させるためだったという説明はもっともっと不自然である。
私はこの人の記事はいつも非常に興味深く読んでいる。大抵の場合、はっとさせられたり、大きな共感を感じるのだが、たまに違和感を感じることもある。この話はその中で一番大きなもので、任天堂という日本の優れた企業がアメリカ人によって養われたという感覚的にとても許しがたい説なので、五年近くたっているのだが改めて批判してみた。多分私の感情の問題も大きいのだが、冷静に考えても不自然な点が目立つように思う。
[参考] http://plaza12.mbn.or.jp/ ~SatoshiSasaki/ utah.html
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