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    小林よしのり (SAPIO 2002.8.7 新ゴーマニズム宣言 第171章)

    傑作(30点)
    2002年8月6日
    ひっちぃ

    パレスチナ問題についてザックリと切り込んだ話。イスラエルの侵略を厳しく批判する一方で、パレスチナ側の問題点にも触れる。また、過度の感傷は偽善者だとも言っている。

    パレスチナ人を神聖視するのと、ホロコーストで被害にあったユダヤ人を神聖視するのとは、左翼という根でつながっているのだという。確かに文章にこそ出ないが、日本のメディアの報道を見ていると、パレスチナに同情的に思える。

    E. W. サイードという学者の本の紹介にそれなりにページを割いている。かいつまんで紹介された事実が力強い。9・11 でイスラエルのシャロン首相は 220ヶ所のゲットーにパレスチナ人を閉じ込めただとか、パレスチナの失業率・貧困率が 50%前後だとか、イスラエルは軍事占領した地域にイスラエル人をわざわざ入植させて、彼らを守るためと称してたびたびそこを軍事制圧しているのだという。

    よく知られるオスロ合意の虚実は衝撃的だ。本来パレスチナ国家の領土となるはずの西岸地区の、わずか 18% しか返還されていない。西岸地区をクウェートに喩え、断じて侵略者と妥協してはならないと説いている。

    そして私が考えるイスラエル最大の欺瞞が、2000年の時を越えてなぜかつてユダヤ人国家が歴史上存在したというだけでパレスチナにユダヤ人のための国家を作ったのか。資本で合法的に土地を買い上げたのだとしても、そんなことが許されるのだろうか。こういう基本的なことを取り上げている文章は意外に少ないのだが、広げる風呂敷はとにかく一番でかい小林よしのりがやってくれた。

    一方で、団結して戦っていくべき立場にあるパレスチナ自治政府にもうんざりしているという。豪邸を建て、高級車を乗り回し、フィリピン・メイドを雇っている幹部もいる、のだそうだ。アラブがいまだに一つになって隆盛できないのは、一部の王族や権力者が欧米人と手を結んでいるからだ。彼らはなぜ石油で儲けた多額の資産を同朋のために使ってやれないのか。ここではそんな一部の王族と手を組む欧米人への批判があってほしいところだ。

    そして最後は、神風特攻隊を擁護する小林よしのりらしい、自爆テロの重要性を説く主張がくる。神風にここまで敬意を払うのは小林よしのりぐらいだろう。みんなのために自分を犠牲にする精神をどこかうさんくさく思う精神的土壌が日本人を覆っている。私はその点小林よしのりの考え方には賛成だ。神風やるやつは洗脳されているんだ、と言ってしまうのであれば、これまで自殺した日本の有名人たちをみんな病気扱いするぐらいの考え方を持たなければならないはずだ。仲間のために命を張った人間に感動を覚えたことはないのか。

    ちょっと内容が散漫に思えるが、多くのことをよく詰め込んだなと思う。現代の国際政治力学だとか国際世論に詳しい評論家はそれなりにいるが、ここまで大きな視点で語るのは小林よしのりならではだろう。ときどき、変な方向に行ってしまうのではないかとハラハラさせられるが、大体問題ないと思う。

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