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    安野モヨコ

    最高(50点)
    2002年8月20日
    ひっちぃ

    恋をしているときの幸福感を求めてひたすら突き進む女主人公・重田加代子(通称シゲカヨ)と、ルームメイトのフクちゃんと、二人の周辺人物の話。ハチャメチャなドタバタ劇でありながら、恋や結婚ってなに? といった真面目なテーマも明るく扱っている、近年稀に見る名作。

    この作品は大きく前半と後半に分かれる。大まかな展開に関して軽いネタバレを含むので注意。

    前半とくに序盤は、シゲカヨがこれと思った男に体当たりで急接近し、会ってすぐに寝てしまったりする。しかし、相手の男はモテるし、自分一人だけを愛してくれないので、そのうち問題が起きて関係が切れてしまう。これではダメだと、外堀を埋めていく方式に切り換え、方向性はともかく回りくどいことも含めてがんばるのだが、結局ダメ。作品を通じて重要な人物となる真面目人間タカハシも登場するが、前半は彼をあまり相手にせず、あくまで自分がピンと来た男だけを追い求める。

    しかし後半はガラリと変わり、シゲカヨが泣くわ泣くわ。努力は次々と空回りし、恋を求める以外に何のとりえもない自分にうんざりもする。どうやっても満たされない。精神を病んでいる人を支えることに幸せを発見するも、いじけた言動や口撃あげく暴力に耐えきれなくなって破綻する。変人にも磨きが掛かり、その奇行を見てるだけでもかなり質の高いギャグマンガだ。

    この作品に出てくる男の中での最重要人物は、私が見る限りでは、タカハシと田嶋だ。

    タカハシは真面目な性格で、シゲキヨに飲み込まれており、基本的に尽くす男だ。シゲキヨは、精神状態が落ちたときだけタカハシを好きになるが、ハイな普段は彼に魅力を感じることができない。望めば結婚も出来るのだが、どうしても恋心を持続できない。また、結婚したら幸せなの? という根本的な疑問も解決しない。

    田嶋は、やさしいふりをするが自己本位で冷たい男だ。しかし、この作品に出てくる女たちは、シゲキヨも含めてこの男にタラしこまれることによる快感を感じる。求めても求めても得られないのに、求め続けている間は最高の幸せを得られる。しかし、精神状態が落ち着いてきてたかぶりが落ちてくると、この手の男から自然と離れていくのだというのをフクちゃんの言葉で語らせている。

    要するに作者は、一人の男からは幸せを得ることはできませんでした、と言いたいのだろう。

    では両立すればいいのかというとそれも無理で、では幸せとはどこにあるのでしょう、という問いかけを残して作品は終わる。

    ざっとおおまかな展開を追ってきたが、細かいところでも要所要所で本質を突いたことを読者に突きつけてくる。突っ込んでいるとキリがないのでぜひ読んで欲しい。

    この作品は、シゲカヨというキャラクターがかなりのウェイトを占める。もちろんフクちゃんとその相手もまた、シゲカヨでは語れない別の問題を描いていて、彼女もまたハッピーマニアではある。しかし、この作品の一番の魅力はシゲカヨそのものだ。それほどまでに強烈なキャラクターを持っている。

    シゲカヨが奇人なのは、作者の分身だからだというのがそもそもの理由なのだろうが、主人公に極端な行動を取らせるにはそれしかないからだろう。出てくる男、展開される物語は、ことごとく極端だ。話が進むにつれ、これはダメ、これはダメ、とシゲカヨは学び続け、次々と否定していく。この作品で語られているのは、一人の個性的な女の恋の話であると同時に、恋愛の原理についての具体例込みの説明なのだ。

    どうせ奇人ならと、作者が地を出してシゲカヨをとても魅力的な「とても変な人」にしている。変だけど真剣。真剣なので本気で悩む。そこに読者は共感するのだろう。実のところ前半はシゲカヨそんなに悩まず突き進んでいくので、私なんかは少しこのキャラクターにイライラしたのだが(理由は言わない)、トータルで見て私は結局彼女が大好きである。

    視点も秀逸だ。シゲカヨの過去を、他人に投影して描いているところが何カ所かある。うまいこと分散させて、シゲカヨに無理をさせず、しかもシゲカヨは成長してます、みたいなところが非常にうまい。

    マンガなので絵にも触れなければならないだろう。はっきりいって私はこの絵がそんなに好きではない。目が大きすぎる。初めて見たときは不気味とすら思った。作風なのだろうが、これだけの理由で避ける人もいるだろうから残念だ。もちろんページを繰ればじきに解決するだろう。本を手に取るところまでいかなければどうしようもないのだが。

    表現は過激な方だと思う。男がシゲカヨに「ちんちんなめて」と言うぐらいだ。しかしセックス描写は、必要最小限、と言ってもいいほど少ないし、必要以上の意味を持たせていない。とても好感が持てる。ただ、小学生か中学生くらいの女の子二人組が、この作品すごく面白いよ、と書店で会話しているのを聞いたことを思い出して、少し鬱になる。

    コメント

    自分はいったい、何者なのか? 芋愚
     この手の漫画にありがちなのは、登場人物を次々とカテゴライズしてゆくような感。そして、読んでいる自分は、どれにも当てはまらないという確信を持ちつつ、余裕シャクシャクに鑑賞している・・・。自分はいったい、何者なのか、ほとほと疑問に感じる。
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