ジョジョの奇妙な冒険 PART6 ストーンオーシャン
荒木 飛呂彦
傑作(30点) 2004年5月27日 ひっちぃ
ジョナサン・ジョースターとDIOの血筋につらなる超常者たちの戦いを描く物語の第六部。第二部か第三部で生まれた「スタンド」と呼ばれる能力がカギとなり、シリーズ初の女性が主人公で、無実の罪を着せられて収容された刑務所が主な舞台となる。
私はこのシリーズをすべて読んでいるので、読んでいない人がどう思うのか分からないが、この第六部であるストーンオーシャンから読み始めた人でも特に不都合なく楽しめるだろう。DIOという超人に深い影響を受けたプッチ神父が第六部の黒幕であり、回想シーンでDIOが出てくるのだが、作品の内容をよく覚えていない私(笑)でも古い巻をあさろうとは思わなかった。
序盤の息もつかせぬ展開は素晴らしい。あれよあれよと運命に翻弄される主人公が、必死の機転をきかせて危機を乗り越えながら強くなっていく。刑務所という閉じた空間を最大限に利用し、物語を緻密に織り上げていく作者にただただ酔わされる。
中盤に少し息切れを感じる。読んでいる私自身にかつてほどの集中力が無いせいもあるのかもしれないが、能力者同士の極限まで研ぎ澄まされた戦いを見せてくれているはずなのに、どこかこじつけがあるように思えてならない。特に、ウェザー・リポートの能力についてどう思うかで評価は変わってくるだろう。
後半は、超人DIOの求めたものとは何か、緑の赤ん坊とは何なのか、とうまいこと読者の興味を引きつける。物語がどんどん盛り上がっていき、読んでいる私を興奮させてくれた。しかし、細かい肉付けに力不足を感じてしまう。物語そのものを楽しむことが出来なくなり、真実が何であるのかだけが気になっていく。
終盤に明かされる真実は非常に満足のいくものだった。この壮大なシリーズの第六部にふさわしい種あかしと終幕に、私は感動の涙を流した。まあ涙の理由は最後のある人物の叫びで、エリア88のラストを思わせる悲しい別離の想いが私に深い感動を与えてくれたに過ぎない。にしても、少々突飛とはいえ私はこれを素晴らしいと思った。
が、過去のシリーズと比べて明らかに後半のストーリーテリングは見劣りがすると思う。私の勝手な予想だと、かつてない革新的なラストシーンを最初に思いついた作者が、その描写をどうするかに気を取られすぎて、そこに至るまでの描写に気が回らなかったのではないか。これは非常にもったいない。作者だけのせいとはいえないだろう。週刊連載の限界もあると思う。
独特の絵にも今回は注文をつけたい。やはり読んでいる私の集中力にも問題があるのかもしれないが、ぱっと見ただけで何がどうなっているシーンなのかが理解できないことがたびたびあった。
人物描写も物足りなかった。作者は主人公に母性もにじませて描きたかったらしく、それと感じるところも見られたのだが、はっきり物足りない。プッチ神父などのカギとなる人物も、特に後半は全然描けていないと思う。まあよく考えてみるとこれはシリーズ全体を通して言えるかもしれない。あまり思わせぶりに描かないというのがこの作者の特徴なのかもしれないが、黙して語らせずなのではなく、単に作者の不器用さなのではないかと思う。
読み終えた今、時間があったらまた過去のシリーズを読み返してみたいと思ったが、たったいま読み終えたばかりのこのシリーズをいつかまた読み返したいとは思わなかった。
普通に面白い作品なのではあるが、こうしてみると文句のほうが多く出てくる。残念だ。
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