拒否できない日本 〜アメリカの日本改造が進んでいる
関岡英之 (文春新書)
傑作(30点) 2004年6月16日 ひっちぃ
毎年日本とアメリカが交換している年次改革要望書。互いに相手の国に望むことを項目別に書いて伝えたものだというが、アメリカからの提案で始まったこの仕組みが、アメリカからの身勝手な要求による日本改造と言ってもよい目的に利用されているらしい。
作者は元銀行マンで、しばらく勤めたあと思い立って建築関係を勉強しなおした人らしい。
まずは作者が北京で行われた建築関係の国際的な集まりに参加したときのエピソードから始まる。建築関係の国際的な資格というものが、アメリカの主導と中国のサポートにより作られつつあるという。アメリカは広大な中国の建築市場を目当てに、自国の建築家たちが有利に仕事を取れるよう、自国の資格に非常に近い形で国際的な資格を定めようという狙いがある。中国は中国で、当時はWTO加入など国際的なビジネスへの参加を熱望していた。恐らくこのアメリカと中国の間でなんらかの密約があったのではないかと推測している。
そこで思い出されるのが、国際的な金融業務を行うために必要だとされたBIS基準が無根拠に決められ、日本の銀行が狙い撃ちされたのではないかという話だ。ユニークな経歴を持つ作者は、当時ちょうど銀行に籍を置いており、必然的に思い出したという。
最近法律関係の番組が多いのは誰もが感じていることだろう。それも実はアメリカの戦略ではないかと作者は推測する。というのも、冒頭の年次改革要望書で、日本に法律関係の門戸開放も要求しているからだ。自国の弁護士に日本で仕事をさせろだとか、アメリカの企業が一民間人として談合や障壁を訴えられるようにしろだとか、自国の利益を追求する狙いがあるのだという。陪審員制もアメリカの要求を受けて作られたものではないかと作者は推測している。しかも、日本企業がアメリカで民間の陪審員のひいきにより多額の賠償金を支払ってきたのを横目に、アメリカ企業に日本で同じ轍を踏ませぬよう、裁判の種類によって限定する仕組みになっている。
日本は日本で、アメリカからの圧力があることを公にしない。アメリカは、日本の仕組みを自国の圧力で変えさせたとはっきりと報告書を書いてインターネットに公開しているのだが、日本の政府やマスコミはそれをほとんど明らかにしていないのだそうだ。
最後のほうは、なぜアメリカがこのようなやりかたをするのかを、アングロ・サクソンと他の民族とを対比させたりして、大上段に構えて論じている。
非常に読みやすい本だった。割ととりとめなく書かれており、整理されていない印象もあるが、読者(つまり私)の興味をまんべんなく満たしてくれ、じれったさを感じない。
さすがに法律関係の番組が増えてきたことをアメリカのせいにするのはテレビを馬鹿にしていると思う。私は面白いと思ったし、多くの視聴者の支持を得ているからこそ増えているのだ。どうせ元ネタはアメリカの番組だろうとタカはくくるが、アメリカの圧力でここまでなったわけがない。が、そういう身近な例を挙げることで、ハッとさせられたことは確かだ。クリントン政権の閣僚が全員弁護士出身だったというチョイ話の紹介も面白かった。
作者自身も、この本は日本国民の関心を喚起するために書いたと言っており、舞台裏について入念な調査と裏づけをして体系立てて書いたわけではないと言っている。自分の実体験と、インターネット上に公開されている資料を読んで、読者に分かりやすく自分の感じたことを伝えたかったのだろう。その目的はしっかりと達成されていると思う。さらにそこから読者がこの世界の成り立ちについて考える手がかりも与えており、啓蒙の書としても良い具合になっている。
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